直近で今後の人生を変えるような重大な出来事が起きたので書き綴ることにする。
生まれた時から当たり前のように存在していたものが突然いなくなる話を。
実は22年間連れ添った妻と別れた。あ、間違えた、冷蔵庫と別れたのだった。妻と結婚した22年前に購入した冷蔵庫が、ついに壊れた話である。
私は毎晩浴びるように大量の酒を摂取する。晩酌の最初はビールのロング缶を2本。これは絶対、必ず、いや、法律なので飲まなくてはならないのである。ビールを1リットル飲んだ後は甘いバニラの味が堪らない芋焼酎の白霧島をロックでグビグビやる。ロックグラスに氷をこれでもか!というくらいに詰め込んで、その上に透き通った白霧島をグラスの淵すれすれまでトクトクと注ぐのだ。それがこぼれない様に細心の注意を払いながら持ち上げると、口をひょっとこの様におちょぼ口にしてキュッと吸い上げるのが最高なのである。あー、飲みたくなってきた。
ゴクリとそれを飲み干すと氷が三分の二程度に減るので、またあふれるくらいまで補充して焼酎を注ぐ。これを繰り返して泥酔ジョージクルーニーが毎晩出来上がるのだが、この日は一気にその酔いが覚める出来事が起きた。補充しようとした氷が冷凍庫の中で少し溶けているのだ。庫内をよく見ると溶けた水がうっすら膜を張っているではないか。い、イカン。つ、ついに壊れたか。
東京都はゼロエコミッションキャンペーンというのをやっていて古い家電を新しいものに買い替える際に補助金が出るということは知っていた。そのキャンペーンが終わるまでには買い換えようと思っていた冷蔵庫なのだが、それを待たずしてそのタイミングが訪れたのである。テレビや掃除機くらいなら数日無くても困らないのだが冷蔵庫はだんぜん格が違う。なんせ氷もそうだが、私の命の次に大切なビールが冷やせなくなるではないか。これは私に対して今から廃人になれ!と言っているようなものである。なので私は即座に買い替えを決断する。
以前、洗濯機が壊れた時に使った作戦を再び使おうではないか。Amazonで購入するのだ。街の家電量販店だと自宅に配送されるまでに1週間ほどかかると言われたのでそうした経験がある。Amazonだと2営業日目に配送、設置までしてくれて、しかも古い洗濯機は引き取ってくれるのだ。これは最高だった。なので今回もAmazonで頼むことに決めた。
すでに酔いが覚めてしまったキレキレの頭で我が家のキッチンに入る寸法を計測、容量などをある程度絞ったら、あとは納期が一番短いモノを最優先に選んだ。するともう一択になった。決めた。すぐに注文をいれ、配送、設置サービスも購入。あと、念のために5年保証も頼んだ。完璧である。
冷凍庫は壊れてしまい、氷はできない状態だが冷蔵庫はまだ冷えているので2日間くらいは大丈夫だろうとタカをくくったのだがそれは見事に裏切られた。
翌朝、明らかに冷蔵庫の温度も上がってきているのが分かった。なんとなく生ぬるいのである。なるほど、仕方がないか。そうやって冷蔵庫は壊れていくのだな、という勉強になったではないか。何においてもポジティブな大酒飲みの私はそのように受け取ってこぼれ落ちそうになる涙を、ただただ堪えた。
Amazonの配送は明日の8時から12時の間に届くようになっている。あと1日だけ我慢すればいいだけだ。今夜の晩酌はクーラーボックスに買ってきた氷を入れて急場をしのごう。そのように決めると、アルコールが切れて震えだす、じゃなかった、冷たいビールが飲めるのかどうか不安でしかたなく震え始めた両手をグッと押さえた。
その晩、行きつけのスーパーに行くと必要最小限のものだけを買うようにした。なんせ冷蔵庫がないのである。余計な生ものなどを買うと、食べきれなくて捨てる羽目になるのだ。刺身、豆腐、その他ツマミ、および缶ビール2本と、それを冷やすための氷を3袋買った。決して家族が食べるモノの買い物はしない。私はウブで真面目な大酒飲みなのである。
その晩の晩酌はなんとなくイケていなかった。氷で冷やしたビールは何となく冷えが甘いし、焼酎のロックも半分くらい溶けた水浸しの氷を使って飲む。よりによって最近はこのクソ暑い酷暑日である。急がないと全部溶けてしまうのではないか?という焦りも出てきて味わって飲むといった感じにはなれなかった。
翌朝。ついに新しい冷蔵庫がやってくる日である。壊れた方の庫内から使えそうな食べ物をどんどんクーラーボックスに入れた。まだやや冷たさが残っているので少しの間は大丈夫だろう。そのあとは壊れた冷蔵庫を動かして数十年分の埃が溜まった裏側を死ぬ気で掃除した。妻は仕事に出たので私がやるしかないのである。
あらかた片付いたら時計は9時を回った。いつ届いても大丈夫だ。それからソワソワしながら新しい冷蔵庫が届くのを待った。10時過ぎ、我が家の前にトラックが停まった。来たな。私は少しニヤけながらインターホンが鳴るのを今か今かと待ちわびた。しかし何事も起きることなく15分ほど経過した。あれ?違う車だったか。高揚した気持ちが一気に沈んでいくのが分かるが仕方がない。12時まで待てば必ずやって来るのだ。落ち着け、私。
11時過ぎにまたトラックが停まった。これだ!待ってました!またもやニコニコ顔でインターホンの方を見る。しかし待てど暮らせど何も起こらない。クソーッ!また違ったか。しかしまだ期限の時間まで1時間ある。配送の口コミをみたら、期限時間のギリギリに届いた、などと書かれていたので気長に待つしかない。届けばよいのだ。
11時50分。トラックらしきものは来ない。11時55分。同じくアナタは来ない。ついに12時。えっ?来ないんだけど。
とりあえず12時40分まで待った。そこでついに私の脳内キンキンに冷えたビール像が音を立ててぶち壊れた。コラ待てーっ!おい、Amazon!何してくれてるんだ!すぐにカスタマーサービスに連絡しようとするのだが、どこを辿って行っても電話番号が表示されているところに行けない。何度も何度も同じ画面が繰り返されるばかりである。私の怒りが頂点に達しようとする直前でやっと見つけた。カスタマーサービスの電話番号だ。
即座にかける。
「はい、Amazonカスタマーサービスです」
明らかに日本人ではない、たどたどしい喋り方に半分絶望しながら状況を説明した。
「お客様、ご安心ください。確認したところ配送の車はお客様のご自宅の近くを走っています。大変申し訳ございませんが、もう少々お待ちください。」
分かりました。届けばよいのだ。安心した私は鼻歌交じりで新しく届くであろう冷蔵庫の説明サイトなどをネットで見ながらコーフン状態に陥った。
14時。おい、いくら何でも遅すぎるだろう。さっきは電話で話したので会話した内容について何も証拠が残っていない。今度はチャットサービスで問い合わせることにする。状況説明を端的に書き、どうなっているのかを問い詰めた。
「お客様、ご安心ください。私がこの配送をすべて監督します。責任もって配送ドライバーに指示を出します」
これまた外国人のオペレーターがそのように私を落ち着かせてくれた。
「あと1時間ほどで到着しますので、大変申し訳ございませんが、もう少々お待ちください」
おお、そうだったのか。いいよ、いいよ、今夜冷えたビールが飲めればそれでよいのだ。私は安堵の表情および薄ら笑いを浮かべながら、ネットのおもしろ動画などを見始めた。
15時15分。待てーっ!おい、Amazon!どないなっとんねん!いくら温厚な大酒飲みのこの私でも遂にキレたぞ!速攻でカスタマーサービスに電話をかけた。
「はい、Amazonカスタマーサービスです」
また外国人である。お客様、どうされましたでしょうか。
「おい、まてよキミ!どうされましたか?なんてのんきなこと言ってる場合じゃないんだよ!今夜私が死ぬか生きるかの話をしているんだ!」
すると、話しているスマートフォンがブルッと震えた。なんだ?耳から離して画面を見るとメールが来ているではないか。
===
[お知らせ] ご注文商品の配送状況について
誠に申し訳ありませんが、以下のご注文について、
===
「。。。」
「ねえ、○○さん。今Amazonからメールが来て今日は届かないって書いてあるんだけど嘘だよね?」
「お客様、大変申し訳ございません。今回のご注文はキャンセルすることができます。その際はAmazonのギフト券を1000円分差し上げますが、どうされますか?」
「オラーっ!
Amazonコラーッ!
そんなの絶対に絶対に絶対にダメーっ!
今日もってこい!
今すぐもってこい!
ここに持ってこい!
キミが持ってこい!
冷蔵庫じゃなくてもいい、キンキンに冷えたビールを飲みたい時に飲みたい分だけキミが持ってこい!
おい、聞いてるか?
責任者を出せ!
責任者に変われー!
増税反対!」
冷静さを失った私はスマートフォン越しに腕をのばし、相手の首根っこを掴んでそう叫んだ。叫んだのだが冷蔵庫が届くはずもなく、虚しくカタコトの日本語で謝罪する一定リズムの声を聴くだけなのであった。
「とりあえず上席と話をさせて欲しい」
私はそう言って連絡先を聞くと電話を切った。
すぐに上席宛てに電話をしたが、事態は全く変わらないことが分かった。しいて言うなら、Amazonギフト券が1000円から3000円に値上がりしたくらいである。
クソーッ!なんて日だ。やってられっか!
私はすぐに家を飛び出し、近所にある家電量販店巡りに繰り出すのである。
1軒目。Amazonに頼んだ同じ機種が1万円ほど安くで売っているではないか。おお!店員を呼んで説明を聞く。
「エーッとお客さん、配送は最速で月曜日ですね」
今日は金曜日である。そんな悠長に待ってなんかいられない。私にはキンキンに冷えたビールと芋焼酎ロック用の氷という死活問題が目の前に差し迫っているのだ。よし、次行ってみよう。
2軒目。私が欲しいと思うクラスの冷蔵庫は全くと言っていいほど陳列されていなかった。次行ってみよう。
3軒目。なかなか良さそうなのがあるぞ。どれどれ?店員を呼んでいろいろと説明を受ける。
「エーッとお客さん、配送は最速で月曜日ですね」
やはりどこも同じか。その時点で私は妻にLINEで質問した。
「3日間我慢できる?Amazonに頼んだ奴よりも性能の良い奴が同じ値段で売っているんだけど」
妻は私に全てを一任するという返事をよこした。
なかなか良いではないか。しかし真ん中が野菜室になっている。私は焼酎ロックを飲むのに1秒でも早くグラスに氷を取り上げなくてはいけないので真ん中冷凍室が良いなー。
グオッ!げ、激安!ヤマダオリジナル。真ん中冷凍ではないか!しかし機能があまりぱっとしないなー。
ドーン!
これに決めよう。
ゼロエコミッションやアプリ割引などを使い、さらに6年保証がついて、かなりお得な値段にまでしてもらったぞ。よし、納得だ。
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という訳で、その冷蔵庫が本日届いた。
最強である。
届いたばかりで、まだ庫内が冷えていないが気にしない。
氷は今日の分まではスーパーで買ってきて冷やすことにしよう。
ビールをこよなく愛する皆さま
冷蔵庫がない生活は
想像を絶する苦悶、苦行の時間であった
毎日、冷たいビールと焼酎ロックが飲めるということに
ビールの神様には日々感謝するべきである
であるからして
やっぱり今宵も
キンキンに冷えたビールで
乾杯ッ!
なのである。
ムフフフフ。



