2025年11月20日の木曜日。
最近、九段下に引き寄せられる率が高い私なのだが、この日もそうだった。
住宅情報館、じゃなかった、昭和館。娘が見学に来て楽しかったという話をなんとなく覚えている。
九段下といえばもちろんここ。
長い歴史の中の戦いで命を落とした英霊が眠る。
私はウブで真面目な大酒飲みであり、ものすごく仕事のできるスーパーサラリーマンでもある。なので午後からの仕事をパパッと終わらせて、1秒でも早く今宵の晩酌に辿り着かねばならないのである。
はい、仕事終わり!
帰り道、屋根の上に光る黒柳徹子。僕はひとり涙を浮かべて千鳥ヶ淵、月の水面などには目もくれず、一直線に都営新宿線へと飛び乗ったに決まっている。ざまみろ。
そこそこ深い九段下の駅構内の1番深いところに都営新宿線のホームがある。この路線は始発駅である笹塚駅で京王線と合流するので、前に勤めていた会社の通勤などで、たまに使っていた。タイミングがいいと都営新宿線がそのまま京王線直通になる電車があり、乗り換えの手間が省けて便利なのだ。
しかし、この日に乗った電車は終点が笹塚駅の車両だった。残念無念、僕イケメン。だが、このことが後から面白い出来事につながることになる。
帰宅の通勤時間には少し早い時間だったので九段下から乗り込んだ車内は結構空いていた。座席に座るとヘッドフォンで音楽を聴きながらスマートフォンで時間を潰した。そういえば今週末は3連休だった。何をしようか?などと考えていると新宿駅のホームに到着。
都心はどこへ行っても外国人ばかり目につくが、この日も同じだった。色々な人種が色々な国の文化の中で育ち、色々なタイミングで日本へやって来て、今こうして新宿の駅で私と出会う。なんとも不思議なことである。日本の文化にマッチする人もいれば、頭に来るような振る舞いをするひともいる。
「次は終点、笹塚、笹塚」
録音された女性の声が車内に流れると乗客が皆ソワソワし始める。ここで乗り換えだ。タイミングが悪く我々が乗っている電車がホームに到着し、ドアが開いた瞬間に、隣のホームに停車していた乗り換える予定の電車のドアが閉まり出発した。一番残念なパターンだがまあいいか。すぐに電車は来る。私はゆっくりと数人の列がてきている一番後ろに並んだ。
2分ほど待ったら特急電車がやって来た。ガタンガタンと目の前でスピードを落としながらホームに入って来た電車は、さっき逃した電車と比べて明らかに混んでいた。クソーッ!
電車が止まり目の前がドアの位置になるのだが、なんだか様子がおかしい。プシーッと言ってドアが開く。あれ?開くはずなのだが我々が並んでいだ列のドアだけ開かないではないか。車内にはこの駅で降りるはずだったであろうお婆さんが明らかに驚き困った表情でキョロキョロし始めている。そうこうしているうち、私の前に並んでいた人たちが隣のドアに揃って移り始めた。私も自然とその流れについて行く。他のドアに並んでいた人たちはすでに乗り込んでしまい、私がその電車の一番最後に乗る乗客になった。
急いで体を車内に入れようとした時に女性の声が聞こえた。
「降りますー!」
鬼気迫るような声の持ち主は先ほど開かないドアの前にいたお婆さんだった。他の乗客をかき分けて、こちらのドアに移動してきたのである。私が乗ってしまうとドアが閉まるだろうと予想したので片足をホーム、片足を車内へと半身の状態にしてそのお婆さんが車外に出るのを待った。そのことに気づいていない車掌はマイクで私を急かすアナウンスを車内に流した。
「ありがとうございます」
助かった、という安堵がよく分かる声でお婆さんは私に礼を言いホームを歩き出した。
プシーッという音と共にドアが閉まり電車が動き始めた。車内はかなり混んでいて私は最後に乗り込んだのでドアのガラスに体をぴったり預けるような形になった。スマートフォンを出そうとしたがガラスと私の身体の間にそれを入れるすき間がないくらいに混んでいる。まあいい、我慢するか。私の右側には同年代と思しき恰幅の良いサラリーマンがこちらを向く形で背もたれに寄りかっている。左側には若い女性が私と同じ方向を向いてドアの向こうに流れる景色を見ていた。
「次は明大前、明大前」
アナウンスが流れた。幸い私が立っているドアの反対側のドアが開く駅である。態勢はそのままにガラスの外を何とはなく眺めていた。電車はホームに入り速度を落としている。それと同時に逆方向へ向かう電車がやって来た。ホームで電車を待っている人たちを眺めていた私の視界を遮り電車が目に入る。ちょうど明大前駅で同じ時間に停車して駅の構内で、すれ違うパターンだ。
そして電車が止まった次の瞬間、驚きの光景が目に飛び込んできた。私が立っているドアと同じ位置の反対方向へ向かう電車の中に見覚えのある背格好の男性がそそくさと降りる態勢に入っているのが見えた。独特のサファリハット、小股でスピーディーに歩を進めるその姿。間違いない。Lotusさんだ。こんなことってあるのか?一瞬写真を撮ろうかと思ったが、満員電車なのでその案はすぐに消えた。とりあえずLotusさんにこの状況を伝えよう。いち早くLINEでこの状況を共有したい。私はスマートフォンを取り出しLINEの画面を開いた。
満員電車でスマートフォンを出すには窮屈な姿勢だったので、比較的空白がある右側に体の向きを変えてスマートフォンを出し、大酒飲みブロガーのLotusさんと大酒飲み悪友のT川氏とのグループLINEを開いた。すると開いた画面には先日おちゃらけて送ったヒヨコが左右をキョロキョロと見ながらハートのオナラをする動くスタンプが大きく飛び出してきたではないか。こ、こんな時に、、、
私の右側には恰幅の良い同年代サラリーマンがこちら側を向いて立っている。老眼である私はスマートフォンを遠ざけないと良く見えないので、ちょうどスマートフォンの画面をその同年代サラリーマンに差し出すような格好になってしまっていた。そこで出てきたのがヒヨコのハートオナラである。顔から火が噴きそうな羞恥心が全身を包んだ。
「たのむ、見るな、見ないでくれ、見ていないよね?」
心の中で叫びながら、そっとそのサラリーマンの顔を見上げて見ると、立ったまま椅子の横側にもたれかかりこっくりこっくりと寝ていた。フーッ、良かった。勝った、勝ったぞ!それを確認したと同時に大至急LotusさんにLINEする。
「今、明大前ですよね?反対側の電車から見ていました。もの凄いタイミング!サファリハットで一発Lotusさん確定です」
おそらくこれから渋谷かどこかで飲むのだろう。私はそう勘ぐっていた。しばらくするとLotusさんから返信がある。
「えーっ?!はい、下北沢から代々木上原に向かっています!笑えますね。ははは!」
そう言えば電車を降りる時、結構急いでいるような感じだった。約束の時間に遅れていたのかもしれない。そう思っていたらLotusさんのブログにこの記事があがっていた。
単なる偶然なのだろうが、それにしてもすごいタイミングである。時間、場所、どちらをとっても一分一秒、車両、ドアの位置が違っていたら、私がスマートフォンの画面などを見ていたら、この驚き、この景色、この不思議な感覚には出会えなかったのである。
とりあえず帰ってコーフンしながら晩酌しよう。そう思いながら電車に揺られているとT川氏からも「仲良しすぎるね」というコメントが送られてきた。
結果として何か大きな事がが起こったわけではなく、ただ私がLotusさんを見かけて、でも声をかけることができない状況にあり、そのことを大酒飲み仲間に伝えて、Lotusさんと私がブログに書いた。その記事を我々みんなが読んだという事実が2025年の11月に起きたのことになる。
メシツブ、メシツブ。
翌朝、今シーズン初のボンヤリ富士山を観測した。いい事あるかな?
その日の夜の宴。地鶏が非常に旨かった。
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三連休の真ん中。
昨日は無理しすぎて体中が痛い。
なので今日は一日ゆっくり家の中で過ごしている。
しかしこれだけは忘れないぞ。
大酒飲みである私の最重要日課。
ビールをこよなく愛する皆さま
であるからして
やっぱり今宵も
キンキンに冷えたビールで
乾杯ッ!
なのである。
ムフフフフ。






