2023年3月17日の金曜日。
私達は訳あって北を目指すことになった。私達と複数形でいうのは立川でよく飲むT川氏と一緒だからだ。車で行くのだが、我が家のセレナは妻が子どもの送迎で使うため、T川氏の車にお世話になることにした。
この日私は息子の卒業式で休みだったのだが、T川氏はもちろん仕事なのでそれが終わってから待ち合わせる。T川氏が我が家まで迎えにきてくれるのだ。
北へ向かう目的は非常に重要であり、楽しく切ないものなので、私は早い時間に出発したかった。しかしT川氏の仕事を早退させることなどてきない。私は前日からモノスゴイテレパシーを贈ることにした。
「何時ころウチに来れる?」
出発当日の午後にT川氏にLINEすると返事が返ってきた。
「最速で19時」
ムムッ!T川氏の職場は都心なのでそんなに早く来れるはずがない。やはりテレパシーが効いたのか?定時で上がって速攻で帰宅し準備などしていたらどんなに早くても20時半くらいにはなるはず。しかし早く出発できるのは嬉しいので理由など聞かずすぐに返した。
「じゃあ19時で」
決まりだ。出発に間に合うよう準備を始めなくては。着替えや洗面道具などをバッグに詰め込んでシャワーを浴びるとT川氏の到着を待つのみとなった。
時間通りにT川氏がやって来た。今日の計画はこうだ。とりあえず高速に乗って北に向かう。途中、車中泊をして翌朝からゆっくりと目的地に向かうのだ。時間があるので途中に観光もできるだろう。50過ぎのオッサン2人が仲良く車中泊するのだ。素晴らしい計画ではないか!あ、違うか
。
とりあえず車に乗り込み、妻の見送りを受けながら車中の人となった。なぜこんなに早く来れたのか聞いてみると私から感じる圧力が半端ではなかったので在宅勤務に切り替えたそうだ。テレパシーって通じるものだね。うん。
高速道路に乗る前に非常に重要な任務があった。車中泊をするからには車中乾杯をするのが当然になる。高速をある程度走って良い時間になったらパーキングに入り、乾杯して寝るのだ。オッサン2人が仲良く並んでフツーに眠れる訳がない。そのための酒及びアテを購入しなくてはならない。近所のスーパーでビール、焼酎、刺身、惣菜、菓子を買い込んでから再出発になった。
19時50分。出発だーっ!おーっ!
オヤジ2人のボルテージは最高潮。旅日記をつけるためにノートも持って来た。私は助手席で出発の様子や意気込みを書き込んだ。
外はあいにくの雨だが強くはない。気分は絶好調のまま高速道路へと進む。雨のハイウェイである。昔話をしながら順調に進む。思えばT川氏とは若い頃、いろいろな場所に車やバイクで出かけた。大阪、東京、広島、長崎など数知れず。大阪に行った時は帰りに車が壊れてレッカーを呼び、荷台に私達ごと積み上げられて料金所を通った。荷台から料金を支払う様を反対車線の観光バスに見られ、指をさされて笑われた思い出。
東京を目指した時は延々と続く高速をひたすら走り、途中で富士山に寄った。5号目まで車で行き、そこにいた観光客向けに繋いである白馬にT川氏が後ろから近づき、馬が驚いて後ろ蹴りを喰らいそうになった非常に危険な思い出。
愉快な会話で盛り上がりながら着々と距離を稼ぐ。途中でパーキングに寄り、運転しっぱなしだったT川氏に代わって私がハンドルを握ることにした。
T川氏の車は2.4リッターエンジンを積んでおり、我が家のセレナよりも力がある。アクセルを踏むとすぐに反応するのが気持ちよく、ついついスピードが上がる。気をつけながら運転しているが、前の車と接近するので車線を変えて追い越すことを幾度か繰り返した。
順調に雨のハイウェイを進む。
何を写しているか全くわからないが、我らの車は関越自動車道をひたすら進んだ。目指すは新潟なのだ。3車線の関越道で気持ちもスピードも上がる。
どれくらい走った頃だろうか。前の車を追い越そうと3車線の1番右車線に入った途端、車内に異音が聞こえて来た。「ゴーッ」というものすごい音である。2人とも何が起きたかさっぱりわからず顔を見合わせた。とりあえず緊急停止だ。3車線目から一気に1番左の路肩まで車を寄せた。危険だったがなんとか停車できた。
ハザードをたいて止まったのはこの場所。群馬県高崎市である。
とりあえずT川氏が安全を確保しながら異音の原因を確認するため車外に出た。すると強烈なゴムの焼ける匂いが鼻をつく。バーストだった。
とりあえずT川氏が加入する保険会社のロードサービスを呼ぶことにした。急なことなのでなかなか回らない頭を2人でフル回転させて対応する。持って来た旅ノートがメモ帳代わりとなって非常に役立った。
そうこうしていると、後ろから何やら怪しい緊急自動車が接近して来た。緊張が走る。
回転灯を回しながら徐々に近づいてくる。
よくみると高速道路パトロール隊の車だった。隊員の方がやって来て、危ないので後続車に気づかせるよう近くにカラーコーンを置いておきます、出発する時はそのままにしておいて良いです、ということを非常に優しく丁寧に教えてくれた。危険をかえりみず、ホスピタリティ20000%!ゴクローさまです!素敵な方だった。
路肩に停めた車のすぐ横を大型トラックが爆音を立てて通り過ぎると車が大きく揺れる。怖い状況が長く感じられた。レッカーを呼んだのだがなかなか来ない。剛を煮やした私たちは保険会社に確認の電話をする。T川氏が少し興奮しながら的を得ない電話口のオペレーターとやり取りしているのを聞いていた。
「だからー、さっきロッカーを呼んだの。そうロッカー!あれ?ロッカー?ん?あ、いや、レッカー!」
T川氏は興奮してレッカー車のことを何度もロッカーと言いながら難しいコミュニケーションに苦戦している。もちろん私はその横で爆笑していた。
そうこうしているうちに、救世主、バーストロッカーズが派手な回転灯を回しながら私達に近づいて来た。
オーライ!
オーライ!
発煙筒がたかれる。我らは故障車なのだと再認識させられる。非常に危険な状態だったのだ。
バーストロッカーズの荷台に無事収容された。
私達はカラーコーンを置いてその場を立ち去った。ハイウェイパトロール隊員の方があとで回収に来るそうだ。重ねてゴクローサマです!
とりあえず、バーストロッカーズのメンバーの方と相談だ。前橋市インターで降りた。滑舌が悪く、何を言っているよくわからない初老の先輩だったが非常に優しくいろいろと相談に乗ってくれる。私達にとって最善策を提案してくれた。
とりあえず高崎市内に戻ることにした。T川氏が入っている自動車保険でレッカー、宿泊、移動にかかる費用が補償されるそうだ。良かった。
お疲れ様。大変だったね。T川カー。今日はゆっくりお休み。
どこから見てもバーストだ。よく生きて帰れた!
突如我らは高崎観光客になった!
アメニティも充実だよ!
行くしかないよね!丸川商店!ここが非常に当たりの店だった。
もちろんいきます!凍ったジョッキでお願いした一番搾りという神様。
無事だったことと、これからの旅の安全を、そして突然舞い降りたビールの神様に、乾杯っ!
ブハーッ!
バーストしなかったらこんな素敵な夜は過ごせなかったぜ!
刺し盛りは大当たり。海のない街に絶品の刺身を見つけた。
串盛り。これも全て旨かった。
おかわりビール。ここの店は全員若い女性スタッフで運営されているようだ。壁の注意書きに「ナンパ禁止」と書かれてあった。スタッフも心優しい人や、ツンツン系の人などがいた。優しいスタッフはビールを注文する時に「凍ったジョッキですか?」と尋ねてくれたが、ツンツン系のスタッフに頼むと、何も言わず気普通のジョッキが出て来た。しかし私はツンツン系の女性は嫌いではない。
お次は珍しく日本酒といきますか!
お代わりし放題のキャベツにつけるニンニク味噌がたまらなく美味しかった。もちろんお代わりした。
大満足で店をあとにしホテルへ帰ると、出がけにスーパーで買って来たビールとアテもキチンと消化して深い眠りについたのであった。
メシツブ、メシツブ。
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【この日のビール】
中ジョッキ:4杯
レギュラー缶:4本
日本酒:0.5合
いやぁ、アクシデントはあったが、非常に満足な初日となったのだ。
ビールをこよなく愛する皆さま。
続きはまた次回。
今宵、私は大勢で乾杯予定である。
やはり今日も乾杯なのだ。
ムフフフフ。