前回の設問への解答である。

 

Debate over the Area Bombing Policy

 

の見出しを如何に訳すかという問を発し、まず「問題となる語はareaである」とのヒントを出した。

 

実は、ここで小生と監訳者の訳は以下のように異なっていた:

 

小生:広域爆撃方針をめぐる論争

 

監訳者:地域爆撃方針をめぐる論争

 

次に、「area bombingの反対を意味する語句を見極めること」が肝要であるとして、幾つかキーとなる文章を提示しておいた。以下、その文と小生の訳を付す:

 

. . . area bombing had to be adopted because Bomber Command could not attempt anything else, and that the breaking of German morale by aerial bombardment was the prerequisite for successful military and naval operations against the Wehrmacht.(爆撃軍団が他に何も試みることができない以上、広域爆撃戦法を採用する必要があり、陸海でドイツ軍を打ち破るためには、空爆によってドイツ側の戦意を挫くことが前提要件であった)

 

 

. . . the policy of continuing precision bombing by making targets less precise counted for nothing if Bomber Command remained without the navigational aids needed to guide bombers to those targets, . . .(精密爆撃という基本線は変えずに精密度を低めただけのものであったがために、それらの目標に爆撃機を誘導する航法上の支援が得られなければ無意味であった)

 

上記に明らかであるが、area bombingの反対語とも言うべき語句はprecision bombingであり、これは「精密爆撃」もしくは「ピンポイント爆撃」とでも訳すべきものであり、areaの訳は、このことを念頭に置いてなすのが妥当である。

 

確かにarea communityを「地域社会」と訳すように、「地域」の意味はある。だが、この文脈では、特定の目標を抉り出して爆撃する「精密爆撃」に対置する意味での、広い範囲を爆撃することを指してarea bombingと言っていることは明らかであり、「地域」と訳してしまっては、そのような意味合いが出てこなくなる。ここは、小生の「広域」の方が妥当であると考える。

 

英語を習いたての中高生は、単語の意味を調べるために辞書を引く時に、まず最初に出てくる訳語に飛びついて、それに拘泥することが間々あるが、相当英語に親しんでいる筈の者でも、それと同様に、特定の単語の訳について自分の頭の中でまず出てくるものに拘ってしまう場合がある。これは、そのような事例の一つであろう。厳に戒めたい。