前回では、原文からの抜粋A群及びB群の内容から判断して、それぞれを包摂する見出しが
(Ⅰ)State of the German Military Forces
(Ⅱ)State of the Luftwaffe
のいずれかを判定せよとの設問を出していた。
まず、A群、B群各々の小生の訳を以下に提示しておく:
A群
. . . probably the more significant weakness was that of the Luftwaffe because of the critical importance that air power held in German war-making. In the course of 1941 the Luftwaffe destroyed perhaps as many as 7,000 Soviet combat aircraft, yet the year ended without it being able to exercise air superiority over much of the Eastern Front.(・・・ドイツが戦争を遂行する上で空軍が有していた死活的重要性故に、空軍の弱味がより重要なものであったと考えられる。一九四一年を通じてドイツ空軍が撃墜・撃破したソ連軍機は恐らく七千機余りに上るが、それでも、その年の終りまでに東部戦線の多くの空域で優位を確保することはできずに終る。)
. . . in 1942 the Luftwaffe did not have the capacity for sustained operations in so vast a theatre as the east and was in any event not the type of air force Germany needed at this time.(・・・一九四二年当時のドイツ空軍は、東部戦線のような広範な戦域で作戦を継続できるような戦力を有していなかったし、当時ドイツが必要としていたような空軍とはなっていなかった)
In 1942 the Luftwaffe still retained certain advantages over its Soviet counterpart, most notably better pilots, control and maintenance, but these advantages were small and declining, while the demands of the north-west Europe and Mediterranean theatres made increasingly serious inroads into its strength.(一九四二年の時点でドイツ空軍は、搭乗員の質や官制・整備といった面でソ連空軍に対して優位を保ってはいたものの、その優位の程は小さなもので徐々に失われていき、同時に、ヨーロッパ北西部や地中海方面での作戦上の要請故に、その戦力は深刻なまでに減殺されていくのである)
B群
The German ground forces entered the summer campaign in 1942 with similar problems and for similar reasons. Like the Luftwaffe the ground forces found in the spring of 1942 extra responsibilities in France and the Low Countries . . .(ドイツ陸軍は一九四二年の夏期作戦を開始するに際し、空軍が直面していたのと同様な理由で似た様な問題に直面していた。空軍と同じように陸軍には春期になるとフランスと低地諸国での任務が加わり、・・・)
The Wehrmacht lost half of its 500,000 horses in the course of 1941, and while it entered the 1942 summer campaign with about the same number of divisions (179) as it had when it had begun the invasion of the Soviet Union one year earlier, these divisions were 625,000 men under establishment.(ドイツ軍は一九四一年に保有していた馬匹五十万頭の半数を喪失。一九四二年の夏期攻勢が開始された時点で保有していた師団数は、一年前のソ連侵攻時とほぼ同数の百七十九個であったものの、兵員数では充足定員を総計で六十二万五千名下回っていた。)
Postings and promotions thus came directly within Hitler’s patronage, and he used this power to corrupt some to his will, to favour the ardent and the flatterers, and, in September 1942, to undermine the whole principle of hierarchy within the army by the appointment of a major general as its chief of staff.(任官・昇進はヒトラーの意のままとなり、この権限を利用することによってヒトラーは自分のイエスマンを作り出したり、自分の崇拝者やおべっか使いを好んで登用したりし、一九四二年九月には陸軍の参謀総長に少将を任命してドイツ陸軍の階層秩序全体を揺るがしたのである)
内容から判断すれば、
(Ⅰ)がB群の見出しで、(Ⅱ)がA群の見出し
であるとするのが正解であろう。
ところが、原著では、これが逆になっていたのである。原著者の単純な間違いであったと思われる。
訳出している最中に小生はこのことに気が付き、「原著の誤りと認められる」との注を付して逆にしておいたが、何と、監訳者は初校の段階でこれを元に戻していた。
ここまで来ると、「監訳」と言うより「奸訳」と言った方が良いかもしれない。