自動車用モンキーレンチ

 

『自動車用スパナ全6編』の姉妹編として自動車メーカー向けのモンキーレンチを取り上げます。

『日本のモンキーレンチ全13編』からピックアップして、1編にまとめたものです。

さらに、アメリカの工具サイトで日本工具がどの様に紹介されているかの一例として、Alloy Artifactsがアメリカで出回っているTOYOTAとNISSANのモンキーレンチについて徹底的に解説しているページの和訳版を掲載します。

アメリカ人が日本の工具についてここまで追求するのかと感嘆する内容ですので、じっくり読んでみて下さい。

Alloy Artifacts部分は青文字にて。

※Edgeの自動翻訳による和訳をほぼそのまま載せていますので、多少読みにくいかもしれませんが、ご容赦を。

 

1. トヨタ

 TOYOTA-1 

・トヨタFAトラック(1954年~64年)の1955年版パーツリストに車載工具として掲載されていたモンキーレンチ。(下部参照)

・"TOYOTA"と"MOTOR"の間にカタカナ"トヨタ"の刻印。

・その右側の長丸凸突起が特徴。

・何も打刻されていませんが、製造番号等を表示する予定だったのでしょうか?

・次のTOYOTA2~4にある"HIT"の表示がないことから、他社製の可能性もあり、その場合は他の工具の納入実績よりKTCが候補になります。

・但し、形状はTOYOTA2~4と同一ですので、TOYOTA-1もHIT/東邦工機製と考えるのが素直だと思います。

 

★1955年 FAトラックの車載工具(パーツリストから)

↑TOYOTA-1と同じ形状のモンキーレンチ(長丸凸突起付き)

↑FAトラック・パーツリスト(1955年1月版)より

 

 TOYOTA-2 

・TOYOTA-1から長円凸突起を無くし、"HIT"が追加されたモデル。

・"HIT"より東邦工機製と分かります。

 

 TOYOTA-3 

・TOYOTA-2から丸カタカナ"トヨタ"を省いたモデル。

・丸カタカナ"トヨタ"分の隙間が不自然に残っています。

・これも"HIT"刻印より東邦工機製と分かります。

 

 TOYOTA-4 

・会社名表示が"TOYOTA"だけになります。

・スパナなどの例から、この"TOYOTA"だけ表示が一番新しいモデルになります。

・これも"HIT"より東邦工機製です。


★Alloy Artifacts 和訳版 for TOYOTA

東邦工機はトヨタとモンキーレンチの生産を大型契約していましたが、これらのツールの多くの例は吊り下げ穴の近くに「HIT」とマークされています。

レンチは200mmと250mmの2つのサイズで製造されました。

初期のトヨタのモンキーレンチは、小さな 吊り下げ穴の近くにある隆起した楕円形のパネルが特徴です。 (楕円形のパネルは型番が刻印されたために作られたように見えますが、そのようなマーキングは観察されていません)

このスタイルのレンチは、1955年までに生産されていたことが確認できています。

このことは1955年式トヨタFAトラックのパーツマニュアルのイラストより確認できます。

隆起した楕円形のパネルを備えたレンチには、明らかなメーカーのマークは含まれていませんでした。

しかし、現在、私たちが確認したすべての例は、東邦工機に起因する可能性があります。

これはウォームギアを固定するピンの外側にねじ山があることに基づいています。

東邦工機が初期のトヨタのモンキーレンチをすべて作ったかどうかは、現在未解決の問題です。

別のメーカー(おそらくKTC)がそれらを作り始め、後で東邦工機に引き渡したとも考えられます。

現時点(2025年初頭)では、東邦工機以外がトヨタ製モンキーレンチを製造した証拠は見つかっていません。

 

このトヨタ自動車モンキーレンチは、長年にわたって数々の生産やマーキングの変更を経ています。

次の表はその変更点をまとめたものです。

現時点では製造日を推測するには充分な情報がありませんが、製造日が明確になれば表を作り直すことになります。

 

 [東邦工機]トヨタ自動車 250mm (10インチ) 

次の2つはトヨタのモンキーレンチの最初期世代の例を示しています。

仕上がりに違いがあります。

写真69.

トヨタ自動車250mmモンキーレンチ、背面、側面図、構造詳細用の挿入写真、1950年代頃?

 

写真69は初期のトヨタ自動車の250mmモンキーレンチを示しています。

「Toyota Motor」とマークされ、前面に鍛造されたトヨタのカタカナのロゴ、裏面に鍛造された「250mmアングルレンチ」付き。

レンチの前面には、「モーター」と吊り下げ穴の間に特徴的な隆起した楕円形のパネルがあります。

トヨタのレンチの初期世代を識別する造形です。

中央の挿入写真は、構造の詳細を説明するためにジョーのクローズアップを示しています。

固定ジョーの角にある丸みを帯びたトランジションと、そして可動ジョーに対応するはめ込み凸状のカッタウェイに注目してください。

全長は10.2インチ、最大開口部は1.1インチ。

仕上げはプレーンスチール、 微量のニッケルメッキが施されています。

クリーニングのためにレンチを分解し、ウォームギアを固定しているピンが外側の端にねじ込まれていることに気づきました。

このツールに「日本」のマークがないことは、もともと日本国内市場向けに製造されたことを示しています。

このレンチの薄いニッケルメッキは、初期の製造日を示唆しています。

現代のメッキクローム仕上げには、通常3つの層があります。(銅ベース、ニッケル、クロム)

写真70A.

トヨタ自動車250mmモンキーレンチ、裏面と構造の詳細のための挿入写真、1960年代頃?

 

写真70Aは、トヨタ自動車の250mmモンキーレンチをやや遅れて登場しています。

「Toyota Motor」とマークされ、前面に鍛造されたトヨタのカタカナのロゴ、裏面に鍛造された「250mmアングルレンチ」との表示。

中央の挿入写真は構造の詳細を説明するためにジョーをクローズアップしています。

全長は10.2インチ、最大開口部は1.1インチ。

仕上げはクロームメッキで、面はポリッシュ仕上げです。

真ん中の挿入写真を参照し、固定ジョーの内側の角が丸みを帯びていることに注意してください。

また、可動ジョーの角には凸状の半径が一致するインセットカットアウェイがあります。

内側の半径と一致する凸状のカッタウェイは、初期のKTCモンキーレンチによく見られるスタイルの特徴です。

東邦工機を含む他のメーカーでより頻繁に使用される角度付きトランジションとは対照的です。

このレンチで注目されるもう一つの構造上の特徴は、ウォームギアを固定するピンが 外側の端にねじ込まれています。 ピンの直径は、ネジ端で5.00mm、内部セクションで4.73mmと測定されました。

このツールに「日本」のマークがないことは、もともと日本国内市場向けに製造されたことを示しています。

図70B。トヨタ自動車250mmモンキーレンチ用ジョーパーツのクローズアップです。

 

図70Bは、トヨタ自動車の250mmモンキーレンチから分解されたジョーパーツのクローズアップです。

上から下に、可動ジョー、ウォームギア、小さなスプリング、ネジピンで構成されています。

ピンは外側(スロット付き)の端にねじ込まれていることに注意してください。

余談ですが、レンチを分解せずにピンに内側のねじ山と外側ねじ山のどちらがあるかを判断できます。

まずピンを奥までねじ込み、次にボアを注意深く調べます。

必要に応じて虫眼鏡を使用します。

ボアの側壁が滑らかな場合、ピンは内側でねじ込まれています。

ボアにねじ山が見える場合、ピンは外側の端にねじ込まれています。

可動ジョーのクローズアップは、別の興味深い詳細を明らかにします。

内側の角にある小さな鍛造の「S」は、はめ込まれた凸型カッタウェイが機械加工のステップではなく精密鍛造によって作成されたことを証明しています。

固定ジョーの角に丸みを帯びた移行物が存在するにもかかわらず、外側のネジ山が付いたピンを使用することで、このレンチのメーカーとして東邦工機を確認することができます。

他のほとんどのメーカー(KTCを含む)は、内側にネジ山のあるピンを使用することが知られています。

丸みを帯びたトランジションは東邦工機の好みのスタイルではないため、なぜこのレンチがその特定の機能で作られたのか疑問に感じます。

当初は東邦工機が以前トヨタのモンキーレンチに使われていたスタイルを模倣しているのではないかと思い込んでいました。

これはKTC製の可能性があります。

KTCは丸みを帯びた遷移を好んだことが知られています。

そして、このレンチのジョーは日産向けOEM生産として作られたものなど初期のKTCモンキーレンチによく似ています。

私たちの仮定は、KTC製のトヨタ自動車のモンキーレンチと比較することで簡単に確認することができます。

しかし、問題なのはそのようなレンチの明白な例が見つかっていないことです。

日産の場合とは異なり、KTCのトヨタ向け生産は、KTCのロゴが入ったデュアルブランドではありませんでした。

「Toyota」と「KTC」の両方のロゴが入ったレンチは見つかっていません。

 

オリジナル英語ページは、こちら

 

【補足】

Alloy Artifactsは作業工具について世界で一番で詳しい解説サイトだと思います。

1700年代からの工具について実物写真を使って体系的に1点1点を解説しています。

1960年代から80年代にかけて日本の工具が多くのアメリカブランドに供給されていたことから、そのルーツになる日本市場向け工具にも興味を持っていて、日本の各メーカー毎ならびにJISについて詳細に解説しています。

(日本語の生情報は私が提供していますが、Alloy Artifactsはそれを英訳して分析し、さらにデーターベース作成を独自に行っています)

・日本メーカー各社 ⇒ こちら

・JIS解説 ⇒ こちら

・JIS検索 ⇒ こちら

(メーカー名、認証番号、JIS種類/B46xxの3種類で検索できます)

・Truecraft(大同通商)⇒ こちら

・KTC(単独ページ)⇒ こちら

・全体(開始ページ)⇒ こちら

 

2. 日産

1)Yamaco

 NISSAN-1 二重丸京 with YK 

・日産自動車向けの二重丸京モンキーレンチ。

・裏面のJISマークと共に表右側に"N"表示があることから、JIS-N/普通級だと思います。

・『KTCものづくり技術館』にトヨタ自動車向け工具と並んで展示されています。

・裏面に"BORON STEEL"という聞き慣れない表示がありますが、ホウ素/Boron入りの鋼材で、1%未満のホウ素を混ぜると強度があがるとのこと。

・日産自動車への納入は、日産自動車販売と日産弘済会経由の2ルートがあったものの、KTCが納入していた日産弘済会が工具の取扱いを止めたため、日産自動車への納入は早期に終了したとのこと。(社史『KTC50年の歩み』より

・KYOTO-二重丸京-K.T.C.という表示はスパナを見る限りでは1960年頃までしか使用されていないため、本製品は1954年~1960年頃までの生産と推測できます。

・なお、裏面JISマーク隣の”YK"よりヤマコー製の可能性があります。

・その場合、ヤマコーは1953年にJIS認証を取得していることから、1953年~1960年頃までの生産となります。

 

 NISSAN-2 二重丸京 without YK 

・オークションで入手した日産向け二重丸京。

・こちらには"YK"が無く、KTC製と思われます。

・他のオークションを見ると、この"YK"無しが大半ですので、上のKTC展示が少数派になっています。

・但し、両方共に同じ形状ですので、製造者について何らかの解釈が必要です。

 

2)SANKI/三条機械

 NISSAN-3 by 三条機械 

・日産自動車向けのOEMです。

・JIS規則で製造者を示すことが求められていて、OEM製品には必ず製造者記号またはJIS認証番号が表示されます。

・本モデルでは  が製造者記号となり、三条機械製と分かります。

・第2世代のOEMは全て工具ブランド以外の企業向けであり、ジョーの傾きはサンキ自身と同じ15度です。

・したがい、"0A"より写真の商品は、1960年製と推定します。

 

★Alloy Artifacts 和訳版 for NISSAN

【ヤマコ】KTC "Nissan" 200mm モンキーレンチ

次の写真は、第1世代の KTCモンキーレンチを示しています。

日産OEM契約に基づいて製造されていますが、ヤマコが生産しています。

写真81B. 

KTC "Nissan" 200mmモンキーレンチ、背面、側面図、構造詳細を示す挿入写真、1953年頃から1960年代初頭まで。

 

図81BはKTC200mmモンキーレンチを示しています。

日産のロゴとフロントに鍛造された「Boron Steel」がマークされ、「KYOTO」と「K.T.C.」ともに二重丸京のロゴが裏側に刻印されています。

レンチにはJISロゴと裏面に鍛造された「Y.K」のマークも入っています。

下の挿入図は、開いたジョーのクローズアップを示しています。

固定ジョーのコーナーでの丸みを帯びたトランジションと可動顎のインセット凸カットアウェイを示しています。

可動ジョーのテールピースの全幅にも注目です。

全長は8.2インチ、最大開口部は1.0インチ。

仕上げはニッケルメッキのように見えますが、錆によるわずかな損失があります。

ウォームギアを固定しているピンを取り外し、内側の端にネジが通っていることを確認しました。

JISマークの右にある小さな「Y.K」のコードは、ヤマコーのIDコードです。

このレンチが実際にヤマコ製ーであることを示しています。

私たちの仮説は、KTCが最初に日産とOEM契約を結んだ時に、KTCはまだモンキーレンチのJIS認証を取得していませんでしたので、その結果ヤマコーが契約プロデューサーとして迎え入れられました。

ヤマコーは1953年6月にモンキーレンチのJIS認証2356号を取得しています。

そして、おそらく日産の生産はその後のどこかで始まったでしょう。

KTCは日産OEMレンチの生産開始直後の1954年11月にJIS認証3523号を取得しています。

おそらく自社で生産を開始する予定だったのでしょう。

KTCの日産レンチは、「Y.K」のマーキングが省略されていることを除いて、ここでのヤマコーの例とほぼ同じです。

日産のOEMレンチは大量に生産され、60〜70年後の今日(2024年)でも非常に一般的です。

ネット上の写真を見る限りでは、ヤマコーとKTCのバリエーションはどちらも一般的です。

ヤマコーが引き続き制作パートナーとして活動していたことを示唆しています。

 

オリジナル英語ページは、こちら

 

3. マツダ

1) ヤマコー

 MAZDA-1 by YAMACO 

・表面の漢字"工"を丸くしたロゴよりマツダと分かります。

・裏面の楕円Yamacoが製造者記号になっていて、製造元はヤマコーと分かります。

・一方で、裏面左側に"NEON"と刻印されているのが気になりますが、NEON商標を登録している前田機工と何か関係があるのかもしれません。

・但し、JIS認証を受けていて、Yamaco刻印がありますので、ヤマコー製であることは間違いありません。

・マツダディーラーの整備工場向けと思います。

 

2) 日鍛工機

 MAZDA-2 by 日鍛工機-1 

・デザイン化されたMAZDAのマークが入っています。

・どこかで見たことがあると思ったら、昔々の3輪車にあったようです。

(広告の右下にあるエンブレム)

・裏面の◇"SUPER"ロゴならびにJIS認証番号"1447"より日鍛工機製と分かります。

※JISは、製造者記号またはJIS番号から必ず製造元が分かる素晴らしい制度です。

・JIS-N/普通級。(全型打鍛造ながら、普通の鋼材を使用)

・1957年3月製と推定。(桜なしロゴと"57-3"より)

・生産年度推定が正しければ、1960年に4輪乗用車が登場する前の時代で、3輪車が主流だった頃。

↑広告の右下ロゴ拡大

 

 MAZDA-3 by 日鍛工機-2  

・東洋工業が1978年まで使用していたシンボルマーク(社章)よりマツダ向けと分かります。(ディーラー整備工場向けの工具?)

・◇"SUPER"の表示はありませんが、"1447"これも日鍛工機製と分かります。

・JIS規則に基づく"P"表示 ⇒ 部分鍛造製(下あごだけ鍛造で、本体は鋳鉄)

・1963or1973年11月製と推定。(シンボルマークと"3-K4"より)

 

・JISモンキーには23度と15度、それぞれにJIS-H/強力級、N/普通級、P/部分鍛造の3種類があり、全部で6種類(2x3)になります。

・実はJIS認証資料を見てもどの種類で認証を取得しているのか判然としません。

・その中で、日鍛工器は23度でJIS-H, N, Pの3種類を取得していると1967年度まとめに記されていて、その通りであることが実物で確認できました。(⑥-5~7)

 

4. ダイハツ

 Daihatsu by 三条機械-1 

・ダイハツ工業向けのOEMです。

 より三条機械製と分かります。

・バーコ型でかつ15度は三条機械/SANKIならではであり、非常に珍しい存在です。

 

 Daihatsu by 三条機械-2 

・SANKI/三条機械-1と同じくダイハツ工業向けのOEMです。

・スパナの例より、楕円無し "Daihatsu"モデルが先で、この楕円付き"Daihatsu"はその後と分かっています。(スパナ例 ⇒ こちら

・"8B"より、1958年製と推定します。

 

5. 日野

 HINO by 三条機械 

・ダイハツモデルと同じバーコ型15度のSANKIブランドモデルですが、裏面に"HINO"と打刻されていることから、日野自動車向けと分かります。

・SANKIモデルの流用になります。

・"9I"より1959年製と推定します。

 

 

この回、終わり