"JIS+1976~1980"って何?

 

【2022年5月6日追記】

スパナ/B4630でJIS認証を取得している全ての会社が国会図書館の資料より判明しました。

全21社です。

【2024年6月29日追記】

最終的に全25社で確定。

詳細はこちらにて。

本稿は調査過程の記録のために、手を加えずにこのまま残しておきます。

 

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JISマークを伴って"1978"と表示された大阪鍛工のスパナ3種類を見つけました。

"1978"と来れば、西暦でスパナの生産年を表示していると考えるのが普通です。

でも、スパナ形状は真ん丸で、インチサイズも裏面に併記されていて、いかにも古そうな佇まいです。

これまでの経験から勘を働かせれば、1950年代の商品です。

実は1ヶ月ほど『これは何なんだろう?』と不思議に思っていたのですが、そうこうしている内に、工具メーカーが異なる"No.1980"、"No.1979"、さらに"1976"まで見つけました。

必ず特定のメーカーとセットになっています。(例えば、"1978"は大阪鍛工だけ)

そして、"1979"と"1980"には頭に"No."が付いています。

また、何故か"1977"は見つかりません。

 

1."1976、1978~1980"の意味

 

必ずJISマークを伴っているので、JIS認証の取得年も考えましたが、三木ネツレンで確認すると取得年とは10年ほど違うことが分かります。(この時点では日本規格協会の資料から1967年と思っていましたが)

いずれにしても、JIS関連の可能性が高そうだとは思っていました。

JISの初期10年(1952年~1962年)のデーターが確認出来ないため、『調べようが無いな』と追跡をあきらめかけました。(担当していた通産省が保存していなくて、"失われた10年"と勝手に呼んでいます)

でも、KTCだけは取得年や認定番号を直接教えて貰っていたことを思い出し、資料を読み返したら、1ヶ月間の疑問が氷解しました。

KTCのJIS認定番号は、"001977"。

つまり、"1976、1978~1980"は、工具メーカーそれぞれのJIS認定番号だったのです。

 

これにより、これまで疑問だったJISの初期10年の一部が分かってきました。

まず、自動車編その3で、『"TORI"と◇"工"の記号は失われた10年にJIS認証を取得した工具メーカーだろう』と推測していましたが、大正解でした。

そして、JIS認証の取得順と取得年度も明らかになりました。

 

三木ネツレンに関しては日本規格協会の公開資料より1967年10月のJIS認証取得と理解していました。

しかしながら、改めて三木ネツレン・ホームページの会社沿革を確認すると『1952年、日本工業規格スパナ(JIS)日本工業規格表示許可工場の認定を受ける』と説明されていました。

それでは、日本規格協会の資料は何なんだと言うことになります。

日本規格協会が、規格管理だけで無く、JIS認証実務も始めたのが1962年ですので、1962年以降しか情報が無く(通産省は資料を紛失しているし)、恐らく1976年10月に何かJIS届け出に変更があったのかと思います。(同年に三木熱錬工業から三木ネツレンに社名を変更)

 

同時期に取得していた昭和スパナとKTCは、JIS認定番号を商品に全く表示させていませんが、何故4社だけが表示させたのかは不明です。

当時はJIS認証取得はステータスだったと思いますので、高らかに宣伝したくて表示させたのかなと思います。(JISの義務だったとの意見もあります)

☆追記:"2174"/池田工業製も見つけました。⇒2.商品詳細の一番下

なお、25年経つと西暦に追いついてしまい、西暦と勘違いされることは当初は考えなかったのでしょう。(まして、70年後にスパナコレクターが1ヶ月も悩むなんてことは...)

ちなみに、三木ネツレンと大阪鍛工のその後を見ると、番号表示はすぐに止めています。

 

JIS認証と製造者記号の一覧表を別ページの『JIS製造者記号とOEM製造元』に掲載していましたが、最新版にして当ページの巻末にも載せます。

 

2.商品詳細

 1976-① by 三木ネツレン 

・表に"JIS + NETSUREN + 1976"。

・"1976"は、NETSUREN製ですが、両口ではこの1本しか確認できていません。

・一番最後のNo.1980-③以外はJIS-NやJIS-Hでは無く、JISだけの表示になっています。

・JIS-NとJIS-Hは1955年から採用されていて、1952年に規格が始まった当初はJISだけでしたので、最後の◇"工"以外の3社は1953年にJIS認証を取得して、すぐに番号表示を止めたようです。

・"1976、1978~1980"の全てのモデルで、スパナ形状が1950年代に主流だった真ん丸になっていて、古いタイプのモデルであることが形状からも分かります。

 

 1976-② by 三木ネツレン 

・上の1976-①の片口版。

・真ん丸スパナ、JISだけの表示(N、H無し)が同一です。

・恐らく、三木ネツレンの片口スパナ第1号モデルと思います。

 

 1978-① by 大阪鍛工 

・"1978"は大阪鍛工。

・裏にインチが併記されています。(英国インチBSF/ブリテッシュ・スタンダード・ファイン)

・BSFは、英国二輪の昔のトライアンフやノートン用。

・インチ併記であること、スパナ形状が真ん丸であることから、大阪鍛工の最初期モデルと思います。

 

 1978-② by 大阪鍛工 

・上の①に対し、表の"1978"表示は同じですが、裏面の表示が異なります。

・①のDROP FORGED(落とし鍛造)の代わりに表示されている"N56-CR"の意味は不明です。

・裏にBSFインチ併記があるのは①と同じ。

 

 1978-③ by 大阪鍛工 for 三菱メイキ 

・三菱のエンジン製造会社である三菱メイキへのOEM納入スパナ。

・裏面に" + 1978 + JIS"。

 

 1979 by "TORI" for 三菱メイキ 

・三菱メイキ向けで、工具メーカー名は不明ながら、製造者記号の"TORI"に、JISと"No.1979"が表示されています。

 

 1980-① by ◇"工" 

・工具メーカー名は不明ながら、製造者記号が◇"工"(漢字の工?)にはJISと共に"No.1980"が表示されています。

・"1979"と同様に頭に"No."が付き、さらに"N"の文字が"1980"の上まで伸びています。

 

 1980-② by ◇"工" for ダイハツ 

・ダイハツ向けで、上の①と同じ上線付きの"No.1980"になっています。

・ちょっと悩ましいモデルで、JIS規格では必ず製造者記号の表示が義務づけられていますが、"No.1980"以外には製造者記号の類が見当たりません。

・①と同じ"No.1980"表示ですので、同じ工具メーカーである◇"工"製と思いますが、"No.1980"を製造者記号として取り扱っているのかもしれません。

 

 1980ー③ by ◇"工" /片口スパナ 

・片口スパナにも◇"工"のJIS-H + No.1980があります。

・ただし、これには上線は無く、単純に"No.1980"になっています。

・"JIS + 1976、1978~1980"モデルの中で、これだけがJISだけの表示では無く、JIS-Hになっていますので、JIS-Hが設定された1955年頃の商品だと思います。

・SCM(Steel Cr Mo)よりクロモリ鋼であることが分かります。

 

☆追加

 2174 by 池田工業 for "MOK" 

・"2174"も見つけました。

・JIS認定番号002174の池田工業製です。

・さすがに"2174"になると150年間は西暦と間違えられないでしょう。

・1953年3月にJIS認証取得とホームページ会社沿革に載っていますので、上の4社と同月または1、2ヶ月後のJIS認証取得と分かります。

(4社は、KTCの1953年1月と池田工業の1953年3月にサンドイッチされた3ヶ月間に取得)

・上の1980-①と同じくJIS認定番号以外には製造者(池田工業)を示す記号は刻印されていませんので、『JIS認定番号の表示だけでも良い』というお墨付きをJISは与えていたのかもしれません。(『製造者を識別できること』と言うJIS規格の趣旨には沿っていますので)

・『認定番号の表示は義務だった』と言う声も聞こえてきました。

しかしながら、KTCと昭和スパナには認定番号表示モデルが無いので、義務では無かったと思います。

KTCと昭和スパナはJIS規格が誕生する以前からスパナ製造を始めていて、一方4社はJIS認証取得とほぼ同時にスパナ製造を始めたらしく、このことが対応の差に表れているのかもしれません。(2022年4月9日追記)

・"MOK"は、播州三木の老舗金物問屋が運営していた工具ブランドで、1990年代に販売し、問屋自体は数年前に廃業しています。(播州三木は、三木ネツレンと同じ兵庫県三木市で、戦国時代から鍛治刃物で有名な地域)

 

3.『JIS認証番号と製造者記号』一覧

注.1) 認定番号順

注.2) JIS認証取得年は、各社のホームページ情報を第1優先させ、情報が無い場合は日本規格協会の一覧表より。(トップ工業のB4630認証取得年が間違っているように思うが、ホームページに情報が無いため、日本規格協会情報のまま)

注.3) 製造者記号は、他社へのOEM供給時に表示義務があり、TONEと北陸KTC以外は使用実績を確認済み。⇒使用実績はこちら

・TONEは、スパナのOEM供給をしていないため、登録している"T"の使用実績は無い。

・北陸KTCは、自社ブランドのM41コンビレンチには  を使用しているが、JIS認証のM41コンビレンチのOEM供給実績は無い。(JIS認証の無いM41コンビレンチのOEM供給はあるが、  JIS商品では無いため  を表示させる必要は無く、表示させていない)

 

☆JIS認定番号の取り方

スパナはB4630という規格ですが、これはB:一般機器内のB027(スパナ類)の規格のひとつです。

JIS規格には最初のアルファベット1文字の部分だけでAからZまでありますので、物凄い数の規格群になります。

その全てに対して共通の一連番号を与えているようですので、1976から1980までスパナが連番になっていると言うことは、同時に審査し、同時に認可されたと考えて良いかと思います。

ちなみに、スパナの1980/◇"工"/1953年1~3月の次は2174/池田工業/1953年3月ですが、この間はMax3ヶ月ながら他の項目が200件以上もJISを取得しているのが分かります。

 

☆日本規格協会が公開しているJISスパナ類の認証メーカー一覧

(B4630…スパナ、B4632…メガネ、B4651…コンビレンチ)

 

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昭和スパナの会社資料を国会図書館で見つけた時も興奮しましたが、今回もJIS認定番号だと気が付いた時には大いに興奮しました。

昭和スパナで悩んだのは2週間、今回は1ヶ月も掛かりましたので、今回の方が興奮度合いは大きかったと思います。

スパナはナゾナゾが多過ぎて、闇を感じていましたが、少しずつながら解明は進んでいるようです。

 

この回、終わり