近年、「合同会社」という組織形態を選択する企業が増えてきました。

 

「合同会社」は、先日ご紹介した投資スキームに用いられるほか、日本に進出する大手企業もこの合同会社を選択しています。

 

 

【日本に進出する米国企業のうち、合同会社を選択している主な企業】

 

・グーグル合同会社

・Apple Japan合同会社

・アマゾンジャパン合同会社

・P&Gプレステージ合同会社

・エクソンモービル・ジャパン合同会社

・合同会社西友

・ユニバーサルミュージック合同会社

・ワーナーブラザーズジャパン合同会社

・シスコシステムズ合同会社

 

 

※Apple Japanは、2011年に合同会社へと会社形態を変更しています。
アメリカ本社のAppleは株式会社ですが、日本法人は株式会社であったのをあえて合同会社に変更しています。

※Googleの日本法人も、2001年の設立当初はグーグル株式会社でしたが、2016年に合同会社に組織変更しました。
 

 

 

大手企業も含め、あえて「合同会社」を選択する理由について考察していきたいと思います。

 

 

まずはじめに、「合同会社」とは何か。

 

合同会社は、アメリカで始まりました。

「Limited Liability Company」、つまり「有限責任会社」です。

 

日本では、合同会社は持分会社に分類され、社員は有限責任で出資額に応じた責任しか負いません。

 

様々な特徴がありますが、

「設立が簡単」であることに加え、「社員は有限責任社員」であることなどが挙げられます。

また、「決算公告義務がない」というのも特徴の一つです。
 

 

米国企業の場合、国際税務の観点から次の特徴も挙げられます。

(1)米国税制上、パススルー課税が選択可能。
(2)米国タックスヘイブン対策税制の適用を受けない。

 

 

(1)について、

日本国内で外資系企業に合同会社が多くなったのは、会計監査基準など、母国のルールに合わせて会社経営ができることが大きな理由の一つです。

日本の株式会社では、株主総会や取締役会、監査役や会計監査人監査などが必要となり、すべて日本のルールに則って進めなければいけません。

米国の日本法人が合同会社の場合、アメリカの税制上ではパススルー課税を選択できます。

※パススルー課税とは、法人や組織に課税せず、構成員に対して課税する方式です。
企業の利益には法人税がかからず、出資者が所得税を支払う方式です。

 

 

米国財務省規則では、チェック・ザ・ボックス規則(Check-the-box Classification Regulations)を定めています。

この規則の下、米国企業はパススルー課税と事業体課税を選択することができます。

このチェック・ザ・ボックス規則は、この規則が適用されない外国事業体を列挙しています。その中に日本の「株式会社」が含まれます。

米国企業の海外子会社は、原則的に事業体課税が適用されます。

チェック・ザ・ボックス規則が適用されない「株式会社」の場合は、強制的に事業体課税が適用されます。

したがって、日本の子会社が「株式会社」の場合は強制的に事業体課税、日本の子会社が「合同会社」の場合は事業体課税とパススルー課税が選択できることになります。

 

例えば、米国親会社-日本子会社で、日本子会社が赤字の場合は、その日本側の赤字と米国側の利益を通算することができます。

 

また、外国税額控除(FTC:Foreign Tax Credit)を適用すれば、すでに日本で支払った税金を米国側で控除することができます。

 

 

 

(2)について、

米国にもタックスヘイブン対策税制(サブパートF条項)が存在します。

米国企業がタックスヘイブンで稼得した一定の利益は、米国で課税されます。

 

例えば、低税率国に所在する事業実態のないタックスヘイブン子会社Aは、米国タックスヘイブン対策税制の適用対象となります。

その子会社の利益は、米国で合算課税の対象となります。

 

しかしながら、このタックスヘイブン子会社Aの下に事業実態のある子会社Bが存在するとします。

そして、その子会社Bについてチェック・ザ・ボックス規則を適用する場合、米国税制上は、タックスヘイブン子会社Aと子会社Bを一体の事業体とみなし、これらを事業実態がある一体の子会社として、タックスヘイブン子会社Aもタックスヘイブン対策税制の適用対象から除外されることになります。
 

これらの手法で、米国タックスヘイブン対策税制の適用を回避することができるのです。

 

 

 

「GAFA(ガーファ)」の課税逃れには世界各国で反発が広がっている。日本でも東京国税局が米グーグルの日本法人が利益をシンガポールに移していたとして、約35億円の申告漏れがあったと指摘していたことが1月に判明した。収益が巨額にもかかわらず低税率国に利益を集め節税しているGAFAは、本来払うべき税金を払わず、高税率国のインフラにただ乗りしているとの批判にさらされている。

 グーグルの日本での申告漏れでは、日本法人「グーグル合同会社」とシンガポール法人との間の関係が問題化。国税局は平成27年12月期に約35億円の申告漏れがあったと指摘した。広告主が払う広告料が、日本法人ではなく、税率の低いシンガポールの法人に払われていたことなどが国税局の判断の背景にあったとみられている。

 GAFAの課税逃れをめぐっては、欧州でも2016年、欧州連合(EU)欧州委員会が、アップルがアイルランド政府から不公平な税優遇措置を受けていたとして、アイルランド政府にアップルへ追徴課税するよう命令。アップルが低税率のアイルランドに置いた子会社に利益を集め、不当に税負担を逃れていたと判断した。アイルランド政府は昨年9月、アップルが総額143億ユーロ(約1兆7875億円)を支払ったと発表した。

 

※「GAFA」とは、Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字をとったものです。
これらの企業は各国で莫大な利益を生んでいるにもかかわらず、タックスヘイブン等を利用した複雑なタックスプランニングによる税逃れが指摘されています。

 

 

一方、日本では、このような判決が下されました。

必要のない組織再編で不当に法人税を減額させたとして、東京国税局から約181億円の申告漏れを指摘された音楽会社「ユニバーサルミュージック合同会社」が、国に約58億円の課税処分の取り消しを求めた訴訟の上告審判決が21日、最高裁第1小法廷であった。岡正晶裁判長は「組織再編は合理的なものだった」と述べ、国側の上告を棄却した。課税処分の取り消しを認めた1、2審判決が確定した。

 判決によると、同社は、グループの組織再編に伴い、2008年、グループ内のフランス企業から約866億円を借り入れて、別の日本法人の株式を取得するとともに、フランス企業に支払った利息を損金として申告。国税側は損金の算入は法人税の負担を不当に減少させるものだとして、12年12月期までの5年間について申告漏れを指摘した。

 同小法廷は「組織再編には税負担を減らす目的もあった」とする一方で、国内法人の資本関係を整理するといった経済的な合理性があり、不自然な点もないなどとして、法人税を不当に減少させたとはいえないと結論づけた。