全人代代表の妻の名が
建っているのは、いまだ手つかずの古びた町屋だが、建築計画概要を記載した標識は立っている。建築主の欄に書かれているのは「WU・LAM・LI(ウー・ラム・リー)」の文字。明らかに日本人の名前ではない。
不動産登記によれば、この土地の現所有者は中国の香港特別行政区・九龍に所在地を置く「香港南湖投資有限公司」と、やはり中国資本の様子。標識に書かれた代理連絡先に電話をかけてみたところ、「建築主様の個人情報をお伝えすることは難しい」との回答しか得られなかった。一体彼らは何者なのだろうか。
「このウー・ラム・リーという女性、すなわち李琳という人物は、中国の不動産会社『セントラル・チャイナ・リアル・エステート』の創業兼会長を務める胡葆森(ウー・ポー・サム)の妻です。
夫は推定22億2000万ドル(約2800億円)の資産を持ち、フォーブスの中国富豪リストにも掲載された、中国でも最も裕福な人物の一人。しかも過去'08年と'13年の2回、中国の全人代の代表に選出されている大物でもあります」(中国の不動産事情に詳しいエコノミスト)
宿は中国資本ばかり
それは京都市が公開している『旅館業法に基づく許可施設及び施設外玄関帳場一覧』を見れば明らか。「華」、「紅葉」、「柳」、「禅」……と施設名称に使われるのは何とも雅な和の雰囲気を漂わせる漢字や熟語たち。
しかし、その施設の所有者を示す「申請者氏名」を確認するとどうだろうか。会社名こそ日本風だが、〈代表取締役劉〇〉〈代表社員蔡〇〇〉といった形で中国人らしき名前がずらりと並んでいる。「中国人オーナーの物件って、うちらにはすぐ分かるんどす。清掃業者を全然いれしまへんさかい、壁は汚いし、雑草も伸びっぱなし。あんなん町家の情緒なんてあったもんやあらしまへん。どないかならんもんやろか」「短期間の売買で値上がりを狙うなら、今でも中国本土の不動産に分がありますが、実は賃貸用物件とすると利回りは年1〜2%に過ぎないのが実情です。その点、京都は4〜5%の安定した利回りが期待できる。余ったお金を人民元のまま放置しておくなら、手堅い投資先として京都に分散しておいたほうがいいと考えるのも不思議ではありません」
「宇治茶」も標的に?
コロナ禍のウラで着々と広がる中国資本の波。それは将来、京都市街に飽き足らず、市外にある意外な「観光資源」にも向けられるかもしれない。
一つは、久美浜など美しい海と風情漂う温泉宿が集う京丹後市だ。元中国国営メディア系企業幹部はこう証言する。
「国有企業の大幹部と旅行で訪れ、とある旅館に宿泊した際のことです。彼は木造吹き抜けの建築と部屋から見える海の夕景をいたく気に入り、温泉の利権付きということもあって、50億円弱で買い取りたいとオーナーに交渉したんです」
旅館側は「売れない」の一点張り。売る気などさらさらない様子に、彼は引き下がった。
「けれど後日、『ああいう温泉旅館は後継者もいないし、かといって日本人の買い手もいないんだろう?我々が手に入れるのも時間の問題だよ』とも言っていた。京丹後ももはや標的になっているのです」もう一つは静岡茶、狭山茶と並んで日本三大茶と称される宇治茶の産地、宇治地域。中国人の狙いは茶そのものだ。前出の王氏が語る。
「お茶といえば、中国でも日本と同じく緑茶が定番。特に宇治茶や八女茶は中国の富裕層に需要が高まっています。宇治の茶畑を買収して、経営に乗り出す人物が出てもおかしくありません」
ちなみに、外国人に対して完全所有権(土地と建物の所有)を認めている国は、日本のほか、アメリカやカナダがあります。
外国人に対して不動産投資規制をしている国は東南アジアに多く、
例えば、インドネシアでは、土地の所有権はインドネシア人のみ。
フィリピンでは、土地は法人の場合、資本の60%以上がフィリピン資本の場合購入可。
ご存じの方も多いと思いますが、中国では、土地は所有権ではなく使用権のみ。
ロシアでも、土地の所有は認められていないため、戸建て住宅を取得する場合は土地の定期借地権。
ニュージーランドでは、「ニュージーランドの居住ビザを保有していない外国人」による中古不動産の購入が全面的に禁止。
アメリカでも、物件を購入する前に個人用納税者番号(ITIN)を取得する必要があります。