サバンガンフォーラム | Cordillera Green Network インターン体験記

Cordillera Green Network インターン体験記

フィリピン・ルソン島北部のバギオを本拠地に、山岳地方(コーディリエラ地方)で活動する現地法人の環境NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network:CGN)」の日本人インターンによるブログです。お問い合わせはcordigreen(a)gmail.com
まで。

こんにちは。インターンスタッフのKazukiです。
バギオも2月中旬を迎え、大分暖かな小春日和を満喫できる日々が続いています。
フィリピン人スタッフ曰く、既に夏!だそうですが。
昼夜半袖で過ごせるくらいの気候に早くなってほしい今日この頃です。

さて、そんな2月も中旬に、1月下旬に行われた環境教育フォーラムの様子をお伝えします。
大分間が空いてしまいました。。。
というのも、日本のこの時期は、大学の春休み。
ここフィリピンにも、スタディツアーということで研修にいらっしゃる大学生さんがこの時期増えています。その準備やら何やらでということで、気がつけばこんな時期に。。。
ともあれ、素晴らしいフォーラムだったので、簡単ではありますが、ご紹介したいと思います。


今回はの題目は、
Sabangan Environmental Forum Theatre Performances」


というのは、CGNが長年環境教育ワークショップを実施しているマウンテン州サバンガン町で行ったプログラムの一環で、「演劇を通じた環境教育プログラム」という試みです。
これは、サバンガン町にある5つの高校の学生に参加してもらい、環境、民族等彼らの生活やルーツと切り離せないトピックについて、
30分~1時間の演劇発表をしてもらうというフォーラムです。
ルソン島北部の地方を差す「コーディリエラ地方」は、標高1,500m級の山々が連なる山岳地帯で、カンカナイ族、イフガオ族等の先住民族が暮らしています。彼らはローカル言語として各々の民族の言葉を話し、また自分たちのルーツや生活している地域に誇りと連帯感を感じて生活しています。
しかしながら、これはCGNが環境教育を継続している背景でもあるのですが、生活や現金収入のために山を切り開いたり、或いは自然環境にとって好ましくない生活習慣等によって、彼ら自身が守りたい自然環境が崩れつつあるのが現実です。
今回のシアターパフォーマンスでは、そうしたトピックに学生自身が取り組み、表現するプロセスを学ぶことで、そうしたトピックに関する理解関心を深めるとともに、物質的に豊かでなくとも自分に表現すること、伝えられる術があることを学んでもらうねらいがあります。

前節が長くなってしまいました。それではフォーラムの様子をお伝えします。


ここが今回の舞台、サバンガン町ラガン地区の高校です。
学生がリハーサルのため、周りの学校から、CGNのジプニーのお迎えでやってきます。


リハーサルの様子。背景も、CGNスタッフが前入りして手持ちの材料でこしらえました。
右は照明を中心としたCGNスタッフの準備風景です。



オープニングセレモニーから、いよいよフォーラムの開始です。
CGNスタッフのEkiがCGNの紹介と挨拶をし、Gieloが今回の開催にあたって一言述べます。
Gieloは劇団員としても活動しており、昨夏、サバンガンで高校の先生を対象に演劇指導についてワークショップを行った際の中心メンバーでもあることから、今回のフォーラムにも思いはひとしおのようです。


続いてCGN代表Mariko Sorimachiさんが挨拶を述べます。
また今回は、特別講師として、演劇の世界で長くご活躍され、現在は武蔵野美術大学でも教壇に立たれているSetsu Hanasakiさんをお招きしました。流暢な英語で、演劇を通じて自己表現を学ぶことの意義等、熱心に話しかけられる姿が印象的でした。

いよいよパフォーマンスのスタートです。
スペースの都合上、全てはお伝えできませんが、ストーリーについては各学校と、いくつかの際立った学校を写真つきで紹介します。
午前中の3校は、Folktale theatre performancesという形式で、いわゆる演劇形式でのパフォーマンスです。

トップバッターはSabangan National High School
ストーリーは、彼らの地を訪れた外国人が、利益のため木々を伐採し、原住民と対立するというところからスタートします。一度は住民に追い返された外国人も、開発と金銭的な利益獲得を要求して迫りますが、住民にとって重要なものはお金ではなく先祖代々守ってきた土地であることを強調し、武力行使をじさない姿勢を掲げて最終的には外国人を追い出すことに成功します。
これは史実だそうで、実際に訪れたのはヨルダン人だったそうです。フィリピンは様々な国の支配下にあった長い歴史がありますが、最初にフィリピンを訪れたのは実は中東の国々なのです。


赤、白、黒を中心とした民族衣装に身を包み、民族楽器やダンスで空気を醸造していきます。
ドラのような「ガンサ」を鳴らしながら、列をなして円を描いて周るのがコーディリエラ地方の伝統的な舞踏です。


左は外国人がやってきた様子、右はそれに伴い部族会議が行われている様子です。
言語は全てカンカナイ語で、当然僕には理解できません。実はスタッフが起こした議事録を参照しながら書いています。それでも、それを補って余りある表現力とストーリー構成が、理解を助けてくれます。


再度現れた外国人に対峙する、バランガイキャプテン達(各地区の長)。
高まる怒気、少しオーバーな演技からも、武力を以てしても追い出そうという姿勢がよく伝わってきました。


演技の終了後には、Ekiが司会となって、監督をした各学校の先生にインタビューが行われました。半年かかって準備した、先生たちの努力も実ったようです。


続いてPingad National High School。
彼らのトピックは、むやみに木々を伐採に行った数人が森の精霊に呪われ、病に罹るというもの。
薬師の女性の助言に従い儀式を執り行い、回復の後彼らは森に気を上に行き、次第に森も回復を見せ健全な状態に戻ったという、まさに先住民族のストーリーでした。



3番目はNamatec National High School。
彼らは、彼らの土地の名前Namatecの由来となったストーリーを披露してくれました。
ある昔、村の女性がheadhunter(首狩り族です。コーディリエラ地方のいくつかの部族は伝統的に、戦の戦利品として首を刈って帰るという習慣がありました。)にさらわれ、戦が起こります。
ある夫婦が、戦から逃れ、ある高地に移住に適する場所を見つけました。そこで、子供を木々の下に隠していると、leech(ヒル)が子供に噛み付きました。それはその地方では吉兆であると信じられており、最終的に村の住民が移住し平和に暮らし始めてから、その吉兆に基づいてその村をnamatec=ヒル、と名付けたそうです。


木々や周囲の自然を表していますが、日本の文化祭劇の木の役よりも堂に入っていますね!


左は戦の様子、右は、ヒルに噛まれた木の下で子供を抱く夫婦の様子です。


ここで午前の部は終了となります。
これまでのパフォーマンスの素晴らしい出来について、率直に感想を伝えるせつさんのコメントで一旦幕を引きます。
午後は、ジェロから、これまでの健闘とこれからのパフォーマンスを、会場全体で祝福するため、みんなで円陣を組むよう提案が出ます。




これから行われる2校はforumtheatre performancesといって、演劇ベースですが、ある問題についての問題提起をします。その問題は何が問題で、何が原因なのか、ヒントとなる場面がストーリーの中に組み込まれており、パフォーマンス終了後、オーディエンスがその場面を指摘し、問題を起こさないためにはどうすべきだったかプレイバックして議論するという、観客動員型のパフォーマンスです。
せつさん曰く、こうした手法はブラジルの演出家Augusto Boalによって開発されたもので、特定の社会問題等をディスカッションするのに大変有効な手法だそうです。

4校目は
San Alfonso National High School。
ある若夫婦が川で豚小屋を洗っていました。しかし彼らは多量の洗剤を使用し、それについて周囲の住民が苦情をいうも、彼らは聞く耳を持ちません。あるとき、多くの住民が川魚を食べた後に腹痛を起こし、また彼ら若夫婦の双子の子供も皮膚病を患いました。


ストーリーテラーによるイントロダクションです。
右は、川で豚小屋を洗う様子。普段着を着ていることで、一層現実感が湧いてきます。


川魚を食べた住民が腹痛に犯されます。


ストーリーが終わった後、ストーリーテラーから、何が問題であったか、オーディエンスへの語りかけが行われます。


オーディエンスの一人が、問題箇所を指摘します。

劇をプレイバックし、自分がそこに参加します。そして、アクターの言動の誤りを指摘します。
こうしてオーディエンスが実際に劇中に加わり、会場全体がディスカッションの場となります。


こうしたディスカッションが、複数回続きます。
驚きなのは、学生が積極的に意見を述べに手を上げること、そして劇に加わって即興でパフォーマンスを見せること、そしてそれに会場全体が熱狂的に盛り上がることです。日本ではまず見られないのではないでしょうか。
と思いきや、せつさん曰く、日本でもこうした手法の場合は、大変盛り上がるそうです。
また代表の反町さん曰く、この地域はコミュニティの絆が深く、収穫祭などのイベントを通じてお互いをよく知り合う文化が強く残っており、違う学校同士とはいえこうした一体感が生まれる土壌が残されているそうです。


アクターに対して、せつさんから感想や質問が投げられます。
こうしたプロの講師に意見やポジティブなリアクションをもらうことは、彼らの自信アップにつながります。

最後はData National High School。
彼らのストーリーは、民族の土地の境界に関する争いの話です。その昔、書類による境界線の取り決めがなかったため、境界を巡って土地や所有物の争いが頻繁に置きました。そこで彼らは”sapata”をすることを決めました。それは、特別な杯をあおり、どちらか嘘をついていた方が、当人はもとより一族郎党死に絶えるという儀式でした。






あたかもはじめから劇に加わっていたかのように、オーディエンスも加わります。
この最後の学校は、見せ方も特に際立っていたように思います。


これで全ての学校のパフォーマンスが終了しました。
最後に、各学校の代表者が立ち、フォーラムの準備、当日を終えて、学んだことなどをインタビュー形式で答えていきます。


いくつかを例に上げると、
Q.劇を創り上げるにあたって、直面した問題点は何ですか?
A.タイムマネジメント。表現方法。人物像の描写。役になりきること

Q.今まで起こったことで最高だったことは?
A.自分の才能を発見し、共有できたこと。自身の新たな可能性を見つけられた。スピーチ力が磨かれた。チームビルディングのスキルと有用性。人の意見に耳を傾けられたこと。

Q.今、仲間と共有したいことは?
A.最初は学校同士の競争のように感じたけど、やり遂げた今、とても良い気分です。最初は無理やりやらされた感があったけれど、いろいろな発見を得られてとても有意義だった。
・劇を終えて、今自分に自信がついた。周りの学校のみんなも、とても良い仕事だったと褒めてくれた。仲間と、先生たちに感謝したい。
等々。


このインタビューも、1時間近く時間を設け、学生たちも恥しがりながらも、英語カンカナイ語交えて、自分の言葉で意見を述べたことが印象的でした。
全体を通じて、とにかく学生たちの熱気、熱心さ、リスペクトが会場を満たした、大変有意義な一日だったと思います。
こうした演劇を通じての環境教育は、環境保全にダイレクトに結びつくものではありませんが、間接的には、多くのメリットがあると、せつさんは語ります。
一つには、多くの準備とリハーサルを通じて取り扱ったテーマは各人の心の中に深く刻まれ、将来どこかのステージで、顧みられる可能性がとても高くなります。それは、彼らが何らかの職業に就いた際に、具体的に環境保全に取り組むきっかけになります。
二つには、物質的に豊かでない地域では、コンテンツの伝達手法は限られるため、やる気と工夫で誰にでも取り組め、目にも印象的なこうした手法は、大変効果的だそうです。
また将来芸が身を助くということが言うように、具体的なキャリアの一つとして可能性を学生に示せるというメリットもあります。


最後に、先生達とディスカッションを行い、これまでのプロセス、この日の成果などについて話し合いがなされました。

振り返りを通じて、単発的な開催ではなく、どういう成果があったか、発見があったかを共有し、発展的な意見交換を持つことは、こうしたプログラムの次回の開催をさらに充実したものにするという点で非常に重要です。

A. t