李龍徳「石を黙らせて」 | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

 

 

 

 

 

A子さんは女優のタマゴだ。21歳。

まだ新人で売れてないが、くくりでいえば瓜実顔で美しいタイプの顔

の部類に入るA子さんのもとにある仕事の依頼がきた。

 

幽霊のふりをして、一般の人を驚かせる仕事だ。

いわゆる心霊ドッキリというやつである。

 

期待していたドラマの仕事じゃなかったとはいえ、それでも

仕事がなかなかなかったA子さんは喜んでその幽霊役のオファーを

引き受けた。

 

そして仕事当日。

 

夜になり、A子さんは幽霊役で数人の一般人を驚かす仕事をした。

ただやはり幽霊を信じる人間などほとんどおらず、だいたいが失敗といえば

失敗で終わった。

 

そんな流れできた中、ディレクターの指示で最後にもうひとりだけ

驚かそうということになった。

 

ターゲットになった男は、路地裏にいた。

おそらく自分のものを思われる車の前にたち、路上喫煙禁止も気にする

ことなく煙草を吸っている。

誰かと待ち合わせだろうか、電話でも待っているのだろうか、ずっと

そこにいて煙草を燻らせていた。

 

A子さんに「あの男性を驚かせてこい」とディレクターが指示をだすと

白いワンピースの幽霊のかっこうをしたA子さんは車の前にいる男の

もとへゆっくり近づいていった。

 

目の前にきたA子さんに気づいた男。

「なんだ? あんたは?」

 

A子さんは、

「私は幽霊よ……」

と小さく答えた。

 

男は一瞬戸惑ったように見えた。

「……本当に幽霊なのか」

 

「そうよ……」

A子さんは答えた。

 

「本当に本当に幽霊なんだな……?」

 

「しつこいわねえ、そうだといっているじゃないか」

 

幽霊演ずるA子さんがそう答えると、男は一瞬、にやりと笑った

かと思ったら、すばやくAさんの腹に一発パンチを入れた。

「ぐぅ!」

うずくまるA子さん。

 

遠くから見ていたスタッフたちが驚く間もなく、男は動けない

A子さんをすぐうしろにとめてある自分の車の助手席に投げ込むと

自分は運転席にまわって車に乗り、キーをひねると車を急発進させ、

やがて夜の町へ消えてった。

 

結論、その夜、A子さんは男にレイプされた。

 

のちに男は法廷でこのようなことをアピールした。

 

「いや、レイプは間違いなく犯罪ということは承知しています。

決して許されない行為です。

ただ、それは相手が人間の女性の場合は犯罪として成立するので

しょうが、相手が幽霊だった場合も果たして成立するのでしょうか。

もちろん、相手が誰であれ道徳的には許されないのはもちろんですが

犯罪に値するのかということをいっているのです。

……

幽霊を本当に信じている人間なんているわけない、とおっしゃいますが

それをどうとるかはそれぞれの自由です。裁判官さんは信じていない

のかもしれませんが、私は信じています。相手にも繰り返し、本当に

あなたは幽霊なのかと訊きもしました。それでも彼女は自分は幽霊だと言い張ったので

私は幽霊相手に強姦罪は成立しないとふんで、行為に及んだのです。

私はたしかにレイプはしました。ですがそれは相手が自分は幽霊だといったからです。

悪いのは幽霊だといった彼女です。彼女が自分は人間だといえば私はレイプは

しなかったのですから」

 

 

 

 

 

以上、

これはオレが小説で書こうと思った毒のある世界観の創作。

本格的に文学賞応募作品として執筆しようかと思ったが、どうしても長編まで文章を

広げられそうもなかったことと、どちらかといえば純文学でなく、大衆娯楽っぽい

世界観だったので本格執筆は断念した。

あえてタイトルをつけるならば「霊姦(れいかん)」

 

いうまでもなく自分は当然やらないが、テレビで強姦や痴漢などの性犯罪の

ニュースを目にするたびに、自分が男に生まれたことを申し訳なく思うことがある。

 

もちろん同じ男でも人格は別だが、たとえばごく一部の警察官が不祥事をおこした

とき、連帯責任のような感じで警察関係者の上層部がお詫び会見するような

感覚で、ある意味、性犯罪は「男社会」の連帯責任のような気もするのである。

 

しかし、性犯罪をおかした者というのは刑期などをおえても本当に反省しているのだろうか。

光市母子殺害事件の大月死刑囚など、捕まってからのコメントを観ても、まったく

反省していないのが気になった。

 

数か月前に李龍徳の「石を黙らせて」という小説を読んだ。

 

 

――

名も知らない女性の人生を、尊厳を傷つけた。
過去の強姦を告白し、婚約者と家族から断絶された男は、
謝罪のために事件を公表し、被害者探しを思い立つ。 

せめて罰を受けさせてくれ
罪とはなにか。その罪に許しはあるのか。

『死にたくなったら電話して』の著者が突きつける、

このうえなく深い問い。

(講談社BOOK倶楽部より引用)

 

 

SNSなどで本名を公表し、自分の過去の強姦を世間に告白して、

被害者を見つけ、謝罪をしようとする男の話。

 

現実の世界で、本名を公表してまで、自分の性犯罪を告白しようとする

人間なんてこの世にいるのだろうか。

 

ロシアとウクライナの問題でも、ロシア兵の戦争犯罪(レイプ)が問題に

なっているが本当ならば実に許せないことである。

 

著者の李龍徳といえば以前にもこのブログで「死にたくなったら電話して」

という小説を紹介した。

「死にたくなったら~」はここ数年で読んだ本のなかで一番面白かった

といえる本だが、この人はどうもその1作を超えることができない印象。

 

切り口はまあまあ面白いのだが、ちょっと話が突拍子ないかもしれない。

まず、なんで主人公が今さら過去の罪を公表しようとしたのかがピンと

来なかった。

でも、この李龍徳といえばやはり「毒」が売り物。

今回は次回作に期待といったところか。