ニュー・シネマ・パラダイス | 昭和80年代クロニクル

昭和80年代クロニクル

古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

 

小説を読みだしたのは二十歳くらいから。

温泉やラーメンへの関心もそのあとで、居酒屋巡りなどはここ数年からだ。

 

今思い返しても10代のころは面白いくらいに趣味という趣味がなかった。

学校帰りや休みの日に同級生とカラオケへゆくのは好きだったが、ひとりで

いったり楽しめる趣味ではない。

 

だから当時「趣味はなに?」と訊かれるとほんとに困った。

 

でもそこで「ない」と答えるとまさしくつまらないヤツだし、会話もピタっと止まり

オレがもっとも苦手な気マズイ沈黙がやってくるので、とりあえずなにか答えるよう

心がけていた。

 

で、仮設定しておいた答えが「映画」。

 

平均して他の人よりも数を観てもいなければ、映画館通いなんて当然していない。

通好みの名作なんてほとんど観ていない。

高校生のときにいったスキー教室(修学旅行)で、同じ部屋の友人が夜中に

テレビをつけて、なんだかやけーに画面が暗くて重い作風の映画を観ていたから

「なに観てるの??」

と訊いたら、友人が「エレファントマン」と答えたので、驚いたオレは、

「え? エレファントマンてタイトルはしってたけど、ヒーローものじゃないの!?

スパイダーマンとかバットマンみたいな……??」

といい、はるばる遠い雪国までいってまで友人を呆れさせたようなタワケモノでありながら、

それでも映画は好きには違いなく、「ドラえもん・のび太の魔界大冒険」をはじめ、いくつか

は鑑賞しているには間違いなかったから映画が趣味というプロフ設定したのである。

 

だがそのような趣味アピールにかんしてやはり誇大広告は出すもんじゃない。

そのころ、同じバイト先の先輩が開催してくれた合コンで、それを痛感した。

 

このブログで何度も書いているように、10代のころのオレは女性と話すことがとても

苦手だった。(高校時代だけ多少話せたが、そのあとまた免疫がなくなった)

 

5対5の合コンで、他の人はすごく盛り上がっているのだが、オレだけロダンの考える

人みたくなっている。

オードリー若林が人見知りだったころ、そういう場面になったら間が持たなくなるので、

とりあえず目の前にあるペットボトルのラベルに書いてある文字を読みこむといって

いたが、あれは人見知りにはよくわかる。

ネタではない。リアルに「人見知りあるある」なのだ。

 

合コンシーンでいえば居酒屋だから瓶ビールのラベルでそれをやるわけだけど、

ラベルシールなんて縦横わずか数センチの面積である。

 

ハヅキルーペでかろうじて読めるくらいの小さな文字での印刷だとしても、そんなもん、

あっという間に読み終わってしまい、また間が持たなくなる。

 

オレの場合、今度はそこで目をあげて、とくに頼むつもりもないのに壁に貼られたメニュー

の短冊を見回す作業に移行するのだが、それもすぐ見終えてしまう。

 

読みこむモノもない。かといって自分からオンナノコに話しかけることもできない。

ふたたびロダンの体勢に戻っていたら、そんなオレの姿を見た隣りの女の子が気をつかって

話しかけてきてくれた。なんと優しい。女神はニューヨークでも大きな貝の中でもなくて

居酒屋のすぐ隣りの席にいたのである。

 

合コン慣れしているのか、女の子はすごく自然に次から次へと話しかけてきてくれる。

慣れていないオレのほうは緊張して質問のほとんどに単語で返す。

まるでカタコトの日本語しか話せない不法労働者が職務質問されたみたいである。

 

オレがそんな様子でもそのオンナノコは「なんだこいつ、ほんとツマンねえな」という

ようなそぶりも見せずに続けて話しかけてきてくれた。

 

そして途中、例によって「趣味とか好きなことってなんですか!」という質問が。

 

ついにきた。きてしまった。

JAROが見ていたらソッコーでツッコミを入れてきそうなオレの誇大広告的な

プロフィールを発信する瞬間が。

 

「あ……、オレは、えっと、映画かな、そう……映画

 

するとそこでそのオンナノコの表情が一変して、少女漫画のキャラのようにキラキラと

輝きだした。

「え!! 映画好きなんですか!! 私も好きなんです!!」

 

う……しまった。マジの映画好きだ。

やばい。これはヒジョ―にやばい。

 

案の定次の質問は

「一番好きな映画ってなんですかあ!」

 

当時でいえば答えはひとつだ。「インディ・ジョーンズ」。

 

でもさすがのオレでも、今この状況でそれをいったらいけないということくらいはわかる。

いや、「インディ・ジョーンズ」は実際素晴らしい作品には間違いない。大好きだ。

うん、だけど今それをここでいっちゃいけないのだ。

 

最近観た本当に数少ない映画で、その中でも比較的知的な作品を必死に思いだして

巡らせた。

奥山和由監督で竹中直人主演の「RAMPO」。

それだけだった。仕方ない。

 

「あ、一番好きとかじゃないけど、最近観たのは『RAMPO』かな……

映画館の中にフェロモン流したり、映像にサブリミナルがあったりとかね」

 

オンナノコは「RAMPO」はまだ観ていないようだったが、やはり作品情報には

詳しく、

「あれのサブリミナルで挿入される写真って、やっぱり女優さんのヌードだったりするん

ですか!?」

と質問が止まらない。

 

向かってくる質問をのらりくらりとかわす「ひらりマント」があるのであればドラえもんに

出してもらいたい。

 

「尾道3部作の中ではどれが一番好きですかぁ!?」という質問もしっかりおぼえている。

 

オノミチサンブサクってなに……??

 

一連のその流れがいつどうやって終わり、区切りがついたかはもうおぼえていないが、

それをきっかけに、あまり詳しくないジャンルを気軽に好きだというのはやめようと思った。

そしてそのときのオンナノコにも申し訳ない気持ちになった。大好きな映画談議をできる

相手を見つけたと思ったらオレのようなニセものだったので。

 

そんな教訓や経験を踏まえてと、もっとカルチャーの知識を増やそうと思ったこともあり、

最近は1週間に1本は映画を観ることにしようと決めた。

 

地上波でもBSでも図書館の視聴覚ブースでもいい。

旧作でも新作でも、名作でも駄作でもいい。

とにかく1週間に1本。

(そういう決意の流れも含めて10月は映画ネタ増量した)

 

10月最初ほうの連休最終日の祝日にはBSで、「ニュー・シネマ・パラダイス」を

観た。

 

 

 

「映画の映画」という内容としては今のオレの心境にベストマッチで鑑賞できた作品。

 

まだ中学生か高校生くらいのときだっただろうか、劇場公開されたのは。

 

おじいさんと可愛らしい男の子が一緒に映っているスポットCMが印象的で、タイトルも

頭にすっと入ってきやすかったから存在はもちろん、それが名作映画だということは

しっていた。

 

製作当時、監督はまだ29歳だったそうだ。

 

映画好きの少年トトは街に映画館パラダイス座に通いつめ、映写技師のアレフレード

に可愛がられる。

 

やがてトトも成長し、恋愛や徴兵なども経験。

そして映画監督なったとき、アレフレードの死をしる。

 

家族やアレフレードと過ごした島へと戻ったトトは、潰れてしまったパラダイス座にて

亡くなったアレフレードからの贈り物を手にし、涙する。

 

作品の進行において、とくに大きな事件がおきたりすることもない。

くさいといえばくさいかもしれない。

 

だけど感動せずにいられない。

 

最近友人と映画談議をしたときも、この映画は派手さはないけど一度は観ておくいい

映画だと語っていた。

オレも観ておいてよかった。

 

なによりも、トトとアレフレードが人生で一貫して映画というものを愛せていられたことに

羨ましさを感じた。

 

オレが今好きなことは、だいたい大人になってから好きになったことばかり。

子供のころから今までずっと好きだったり、続けていたというものがない。

 

「幸せ」というものを改めて考えさせられる作品だった。