けっこう前に姫野カオルコの本の紹介記事にて、
「普通なんていう概念は存在しない」と書いた。
自殺した漫画家の山田花子の言葉を借りていえば、
皆「平均」を「普通」だと勘違いしているだけだと。
その考え方は基本今でも変わっていないのだが、それをいうとその
言葉が入っている事例や作品を語れなくなってしまうため、今回は
「普通」という概念が自然にあるものと仮定して話をすすめてゆきたい。
日曜の朝日新聞に「悩みのるつぼ」という読者のお悩み相談コーナーが
掲載されている。回答者はビッグなところで美輪明宏だったりするが
週によって人は変わる。
一か月ほど前だっただろうか。50代の女性からの
「成功者の不幸を願ってしまう」
というお悩み相談が載っていた。
回答者は岡田斗司夫だった。
女性の相談ごとをざっと簡単にまとめると以下。
・うまくいっている人を見ると、彼・彼女が失敗しているところを見てみたいと思う。
・自分でいうのもなんだけど性根が腐っているのだと思う。
・たとえば将棋の藤井総太七段や大リーグにいった大谷の華々しい活躍を見ると
ただただ気分が悪くなる
・彼らだって、普通の人以上に努力して苦しいこともあると頭では理解できているが
本能的に「落ちぶれてしまえばいいのに!」と思う気持ちを抑えられない
何点かだけ抜粋すればこのような感じで、それをふまえ人の幸せを一緒に喜べる
人間になるため、なにか出来ることはあるでしょうか?
というお悩みだった。
なんだ!実はオレと同じ感覚を持った人だっているじゃないか。
将棋はまったくわからないけど大きく文化系という区切りと、人の良さそうなキャラから
して藤井七段は応援したいと思うが、それでもやはりアスリート系やIT系の社長とかに
ついての考え方はこの50代の女性とかなりシンクロしている。
この相談だけでもかなりホッとしたのだが、岡田斗志夫氏の的を得た回答はオレを
さらにホッとさせ、また納得させてくれた。
以下岡田氏の回答。
――
「成功している人を見ると、ケッ!チクショー、不幸になればいいのに!と思う」
私にとって、こういうあなたは「普通の人」です。
「成功した人を祝福する」のは「良い人」です。
(略)
「成功した人を引きずり下ろすために、ネットに悪口を書いたりする」。
こうなってくると、そろそろ「迷惑な人」「悪い人」です。
そう書いたうえで、相談者に向け、決して器の小さい人でも悪い人でもなく、
あなたは「普通の人」です、と伝えている。
落ち込んでいたり、うまくいっていない時、たいていの人は「成功している人の不幸」を
望んでいて、それを心理学者の間で「シャーデンフロイデ」と呼ばれ、人間がもつごく当たり前
の心理状況だという。
逆にそういう感情があるからこそ、自身が悪い人にならず、不幸からも立ち直れるらしい。
たとえば高熱というのはあまりいいイメージがない。
だけどウィルスを退治する必要悪である。
同様に「成功者を呪う」のも、心が風邪をひいているから発生する精神の防御作用でしか
ないということだ。
ここまでの知性と優しさを持った理論を今まで聞いたことがない。
感動した。
そうだ。だからオレがゾゾタウンの若大将がどっかでしくじるの願うのは決してイカレてる
わけでも、みみっちいわけでもないのだ。安心した(笑)
ただ「普通」っていうことは「平均」ていうことだから、悪人や器の小さい人間じゃないにせよ
やはりそのへんの人と同じような感じだったんだなとは思う。
そして、この50代の‘普通’の女性もこのように悩んで自問自答を繰り返してきたことを
思うと世の中において、やはり‘普通’の人ほど人しれず深く悩み考えて思いつめたりして
るんだろうなと考える。
実際に崩壊してゆきやすい人は、悪人でも善人でもなく本当に普通と呼べる人なんじゃ
ないだろうか。
ロバート・レッドフォード監督、ドナルド・サザーランド主演の映画『普通の人々』は
タイトルのとおり、まさにどこにでもありそうな中流一般家庭がゆっくり静かに崩壊
してゆく姿を描いている。
![]() |
普通の人々 [DVD]
880円
Amazon |
――
ロバート・レッドフォードの監督デビュー作。
長男をボート事故で亡くした一家。
父親(ドナルド・サザーランド)と母親(メリー・タイラー・ムーア)は、精神を病み、
自殺未遂を起こした次男(ティモシー・ハットン)に気を使いながら日々を送る。
その風景は平凡な家庭ではあるが、それぞれの関係にはすきま風が吹いていた。
レッドフォードの真面目な資質が色濃く出た作品。
まるで演劇を思わせるタッチで、タイトル通り“普通”の家庭に起こった出来事を、
緻密に映像に刻んでいく
(解説より引用)
映像も地味でとくに激しい動きもない。
ストーリーも本当に静かに進行してゆく。
観ていて肩がこらないこともない。
だけどそんな映像だからこそ、どこにでもある家族と、その中で漂う気まずさや独特な空気が
とてもよく伝わってきて切なくなる映画だった。
母親と次男の間にはなんとも微妙でよそよそしい空気が存在している。
そんな間をなんとか修復しようと考えた父(ドナルド・サザーランド)が、家の中で母と次男を
ならばせて2ショットの写真を撮ることを提案する。
もちろん本当の目的は撮影ではなく、母と次男を並ばせて距離を近づけようとすることだ。
互いに気まずいふたりをとりあえず並ばせる父。
そしてシャッターを押そうとするが、なかなかうまく作動しない。
本当はすぐ押せるのだろうが、一秒でも長くふたりを近づかせておこうとするため、
カメラの調子が悪いふりをしているのだ。
父が「あれ?あれ?」といっている間も母と次男はモジモジイライラしている。
父の企みと、母と次男の表情に見える気まずさの描写がなんともリアルで印象的
だった。
やがて迎えるラスト。
なんとも切なくブルーになる。
とても静かな波のような映画だが、それでも一度は観ておくべき作品だと感じた。