夜、夕飯の買い出しにいったら、人がやけにたくさん歩いていて何事
かと驚く。
東京競馬場の花火大会のようだった。
東京競馬場の花火大会は告知をほとんどせず、毎回ほぼゲリラ的に
開催されるので、ずっと気づかなかった。
打ち上げ花火も豪快でもちろん美しいのだけれど、線香花火の寂しげで儚い
美しさも子供のころから惹かれるものがあった。
フォークシンガーの森田童子が亡くなったという情報が先日流れてきた。
リアルな世代ではないので、その存在と歌声をはじめてしったのはTBSドラマの
「高校教師」だった。
主題歌である「ぼくたちの失敗」を歌っていたのが森田童子。
かぼそくも優しい歌声と切ない世界観の歌詞に衝撃をうけた。
まさに線香花火のような美しさの声と歌詞とメロディだと感じた。
ドラマに合わせて、リリースされたアルバムを借りにゆき、CDラジカセでマクセルのテープに
移しながら全曲をじっくり聴いた。
今はもうテープもどこかにいってしまい、すべての収録曲を記憶しているわけではないが
どの曲も静かなメロディで、テープを再生しても飛ばすような曲はなかった気がした。
「高校教師」の主題歌だった「ぼくたちの失敗」も秀逸な作品だけど、アルバム収録曲に
おいて他に「蒼き夜は」とこの「逆光線」という歌はとくに好きだった。
音楽の教科書には決して載らない美しさが存在している。
それは果たして闇の中の光か、それとも光の中の闇か。
森田童子というシンガーは、その時代の「声なき声の代弁者」のような人だと思えた。
――
淋しい ぼくの部屋に
静かに 夏が来る
汗を流して ぼくは
青い空を 見る
夏は淋しい 白いランニングシャツ
安全カミソリがやさしく
ぼくの手首を走る
静かに ぼくの命は ふきだして
真夏の淋しい 蒼さの中で
ぼくはひとり
真夏の淋しい 蒼さの中で
ぼくはひとり
やさしく発狂する
ウーン ウーン ウーン
ウーン ウーン ウーン
※「逆光線」歌詞より。
もうちょっと前の時代に生まれたかったとしたら、その理由は3つある。
ひとつは、ロストジェネレーションを回避できたこと。
ひとつは、たとえテレビ映像だとしても三島由紀夫事件などの大きな事柄をリアルタイムで見れたこと。
そしてもうひとつは、この森田童子というシンガーのライブを観にゆけてたかもしれないこと。
どのチャンネルをまわしてもテレビが騒々しい今だから、
動画から流れる森田童子の声にボクは耳を傾ける――
森田童子さんのご冥福をお祈りいたします。