伊藤潤二『コレクション』っす | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

 

 

小学校5年生の時の一泊二日の移動教室(林間学校みたいなもの)は箱根だった。

 

芦ノ湖いって、関所跡みて、どっかの博物館だか美術館だのを見学したあと、

宿泊するホテルにいくという流れだったと記憶している。

 

みんなで風呂に入って夕食をたべたあとは、先生たちが企画したお約束の

肝試し大会が開催された。

 

先生たちも出発地点で生徒をまとめたり、出発の指示を出す役割と、

途中途中でオバケのマスクをかぶって物陰に隠れて生徒を驚かす役割といったように

それぞれしっかりと役割分担がなされていたようであり、ひとりひとりトランシーバーを

もって連絡を取り合って仕切っていた。

 

昔から団体行動や行事が苦手なオレだったけど、このころあたりまでは今思いだすと

かろうじてちょっと楽しかったかもしれない。

 

肝試しは男女ふたりずつのグループになって数分おきに出発し、目的地までゆくという

内容だった。

そしてところどころでオバケに扮した先生たちが隠れていて、いきなり木の陰から叫んで

飛びだしてきて驚かしたりする。

 

そのとき、オレと一緒だったのは男子がUというやつで、それなりに仲が良かったやつだった

のだが、移動教室後に転勤するとクラスで発表されていた男子だった。

一方で女子のほうなのだが、申し訳ないがひとりは完全に忘れた。

 

で、もうひとりは……自分でいうのも大変恐れ入るのだが、まだ小学生の頃のエピソードなので

そんな嫌悪感を抱かずに聞いていただきたいのだが、どうやらオレに好意を抱いてくれている

らしいAさんというコだった。

(オレ自身も感じていたし、周囲もAさんがオレのことが好きだといってたといっていたので)

 

男子はオレとU、女子はAさんともうひとり忘却の彼方子さん、で出発となった。

 

小学生の女子というのはほんとに暗闇に敏感でか弱い。

すぐキャーキャーと叫ぶ。

 

そしてスタートしてまだすこししか歩いてないのに、Aさんが顔をクシャクシャにして恐がりながら、

オレに

「ねえねえ!こわいよう!! はぐれたらヤだから手ぇ、つなごうよぉ!!」

と泣きそうな顔でいいながら、オレの手を一方的にギュっとつないできた。

 

焦った。そして体温が一気にカァーっと上昇した。

 

今でこそ脳みそのどこをどういう方向から切ってその断面を見ても、「雑念」という言葉しか

でてこない「雑念の金太郎飴」みたいな脳みそを持っているオレだが、当時はまだ純情一直線

少年であり、同級生の女子相手でもまともに目を見て話せないのが現状だったのだ。

 

そのAさんもけっこう可愛らしいコだったし、オレも別に嫌いではなかった。

 

だけど、そこはやはり小学生男子。

相手の女子のことを実際どう思っていようが関係なく、とにかくクラスメートから冷やかされたり

ヘンに噂されるのがとてもイヤで怖い年頃だったのである。

 

そう、当時はそういった遠足とか移動教室とかいう学年行事には専属のカメラマンが同行してて、

寺社を見学している風景とか宿で食事している風景などをパシャパシャと撮影してて、撮った写真に

番号をふり、学校の廊下に貼りだしたりするのが恒例の流れだった。

 

だからその肝試しの時も、オレらのグループが歩いているちょっと先を歩きながらオレらに

向けてフラッシュをたいてパシャパシャと何枚か撮っていたのを確認していた。

 

オレはひとつの可能性を危惧したのだ。

「オレとAが手をつないでいるところがフライデーされたら、その写真が廊下に張り出され、

全学年の目につくかもしれない」

と。

 

そうなると、それを発見した学年のお調子モンが、

「○○とAが、仲良く手つないでてアチチだー!」

とかいい出す可能性がヒジョーに高い。

 

考え過ぎ芸人予備軍のオレとしては、それをとても恐れたのだった。

 

オレはUにこうお願いした。

「おい! U! 転校する前に男同士の最後の友情としてオレの手からAの手を

離してくれ!!」

と。

 

するとUは「よし!まかせろ!」というと、右手で手刀をつくると、それを振り上げて

オレの手とAさんの手のつながれたところに上から何度もふりおろして叩いた。

 

オレも手に痛みを感じたが、Aさんもやはり痛かったようでふたりの手は

それで離され、あとはふたたび手をつなぐこともなく、ゴールへ歩いていったのだった。

 

手が離れてからの時間についてはあまりおぼえていない。

ただ、いくらまだ純情な小学生で、恥ずかしかったり、ひやかされることが怖かったから

といって、あとになって思えばAさんにたいしてかなりひどいことをしてしまったという

罪悪感は芽生え、その芽はやがてジャックの植えた豆の木のごとく想像以上にスクスクと

伸びて育ってしまった。

すべて自分のまいた種には違いないので、オレはそのチープな十字架を背負っていきて

ゆく義務があるのだろう。

 

そんな甘いような苦いような思い出があった移動教室と肝試し

……

 

さて、ここまでは前菜的なオレの思い出話であり、メインテーマとはあまり関係ないので、

話を肝試しスタート地点のあたりまで一度巻き戻してからメインテーマを書いてゆこう。

 

さっきも書いたとおり、先生たちはそれぞれ連絡用のトランシーバーを持って、それぞれの

持ち場へ向かった。

物陰などに隠れて準備ができた先生は、スタート地点でオレらを仕切る役割のМ先生に

トランシーバーでスタンバイ完了の連絡をいれたりしていた。

 

目の前にいるМ先生がトランシーバーに受信するたびに、まずはザーザーと雑音が響いた。

そして、一番最初の組が出発する直前にもまたМ先生のトランシーバーがどこかから

受信した。

M先生はそれを耳にあて、やけに芝居がかった頷きや返事をして見せていた。

 

そして、ひととおりものやりとりが終わるとトランシーバーを耳から話し、スタート待機している

全生徒に向かってこういった。

 

「今タジマ先生から連絡があって、昼に見学した美術館のあたりで首を切った人がいるそうです」

 

……

バレバレにもほどがあるウソである。

いや、それは先生たちなりに、これから暗い道を歩き出す子供たちの恐怖心を盛りあげようと

する演出だというのはじゅうぶん理解している。

 

だけど、怖がらせようとするならばテッテーしていただきたい。

 

先生はその「首を切った人がでた」という恐怖の知らせを、ものすごく楽しそうな笑顔でオレらに

報告したのだ。

 

「子供たちを怖がらせよう」という気持ちより、「子供たちを怖がらせる私は、ユニークな先生」

という気持ちが勝ってしまったのだろう。

誰も怖がってはいない。

むしろ、みんな波多陽区のネタをみるような冷めた笑いを浮かべている。

 

でも、改めて考えてみると、学校の先生っていうのは怖い話が下手な人が多かった。

ガチで子供を怖がらせたりしてしまったら、それはそれで保護者からクレームがきたりと

当時なりのコンプライアンスが生じるのかもしれないけど、どんなに熱が入った長い話だと

しても学校の先生の怪談でビビったことってないような気がする。

 

それを考えると、たった1コマでトラウマになりそうだったり、背筋がひやっとするような絵を

描ける漫画家さんというのはすごい奇才だと思える。

 

幽霊や死体の絵でもなければ、血がほとばしる残酷描写とかでもなくて、

ふつうの人間の顔なんだけど、その表情がどこ不気味だったりおどろおどろしい影が

あったり。

 

原作はほとんど読んだことないけど、絵や世界観の才能的に以前から気になっていた

ホラー漫画家の伊藤潤二センセイがまさにその奇才。

 

数週間ほど前になにげなくデータ放送のラテ欄を見ていたら、МXテレビで、

「伊藤潤二『コレクション』」

というアニメをやっているのをしって、2度ほど観てみた。

(今は放送終了)

 

原作ホラー漫画を購入して読むにはまだ抵抗がある人間にはちょうどいい入門編と

いった感じ。

 

上の動画にもちらっと登場しているクギ少年の「双一」ってキャラいかすわ。

表情も行動もキモくてアブナイんだけれど、どこか憎めず愛してしまうキャラ。

 

最初みた時は妖怪的な位置づけかと思ったけど、観た限りでは一般人のようだ(笑)

だけど一度観たらトラウマになりそうな表情満開。

 

これはきっと多くの人が経験あると思うのだが、小さい頃なぜか恐怖を感じ、目に入るのが

コワかったり、トラウマになったりしたイラストやキャラってなかっただろうか。

 

怪談とかサスペンスドラマの中の死体とかそういうのじゃなくてだ。

たとえば、街中の看板やテレビコマーシャルの中に登場する企業のキャラクターや、

外国の化粧品パッケージに描かれているリアルな似顔絵イラストとかそういうものである。

 

人間の中には、それぞれ潜在的に恐怖を感じるイラストやデザインというのが存在する

んじゃないかとオレは思っている。

そして、それは人それぞれ異なる。

 

異なるんだけれど……

それぞれの人が持つ潜在的な恐怖感覚の最大公約数をうまく表現に変えた不快感のある

絵やコマを描くのが伊藤潤二という人だと思う。

(ここでいう不快感というのは、もちろんホラー作家さんにたいする最高の敬意を示している)

 

余裕ある時に再放送とかやってたら、また観てみようかなとも思う。

 

OP曲の「七転八倒のブルース」というロックも、このアニメの世界にあっているかも。