川口浩探検隊と禁断の王国ムスタン | 昭和80年代クロニクル

昭和80年代クロニクル

古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

「死の美学」という言葉に惹かれたことはないだろうか。

いやいや、こういう言い方すると、またロクでもない哲学を語り出した!とか誤解されそう
だから、言い方を変えよう。

たとえば自分が刑事ドラマに出演した場合、最終回まで普通に活躍する刑事役よりも途中
で劇的な殉職する刑事を演じたいとか、恋愛ドラマに出演した場合、最終回までそこそこ幸せな女性役を演じるよりも途中で死んでしまう悲劇のヒロインを演じたいとか言った、そういう願望を持っていませんかということである。

被害妄想思考だとか言われそうだけれども、どうもオレは小さい頃から勝者よりも敗者、
強者よりも弱者に美しさを感じてしまう体質のようだ。

西部警察とか観てた時も、たくましい不死身の大門団長より一作目で絶命した舘ひろしや
五代高之の殉職シーンがとても印象深かった。
※無敵だった団長も最終回スペシャルでは絶命したが、なぜか復活版では生きていた。

小学校低学年の頃、大好きだった番組があった。

『川口浩探検隊スペシャル』というドキュメン……いや、エンタメ番組である。
若い人は知らないかもしれない。




今は亡きは俳優・川口浩が隊員をひきつれて、アマゾン奥地やジャングルの中に
新種の生物や怪鳥や猿人を探しにゆく超大型スペクタクルである。


朝起きて、朝刊のテレビ欄を見た時に「川口浩探検隊」という文字が目に入った日は
心が弾み、つまらない学校も夜の放送を励みに乗り越えたものだった。

そして夜に放送が始まると、疑うということを知らない純粋な少年は、まるで校門の外で
インチキおじさんが売っているカラーヒヨコを見入るかのように、ブラウン管に釘づけとなった。


見ていると隊長はタフなんだけれど、その後ろを歩く隊員が毎回、ケガをしたり何かに
襲われたりするのだ。
なぜか骨だけになった死んだピラニアに指をかまれたり、落石にあったり。

だけど、当時のオレはタフな川口隊長よりも、流血したり襲われたりして負傷し叫び声をあげる隊員のほうに何となくかっこいいものを感じていた。先ほど書いた負の美学である。

なんだろうか? 注目浴びたいっていう願望の一種なのかもしれない。
あ、あれだ! いきなり松葉づえついて登校してきたり、ギブスまいてくるやつがヒーロー気取りなのと似たような感覚? うーん、幼稚だ。まあ低学年だから幼稚で当然といえば当然だけど。

とにかくオトコノコだけに、川口浩探検隊にはオレも友人も憧れた。
うちのほうは都内でも田舎のほうのなので、近所に裏山というものがあった。
冒険ごっこには最適である。

友人2,3人と、学校から帰ってからよくそこで「川口浩探検隊」ごっこをしたものだ。
友人の家の前に集合した時から、探検隊ごっこは既に始まっている。
そこから裏山に向かうまで、また裏山の入り口についてからも、目に入った生き物は
すべて未知の生物や、毒虫や、猛獣という設定で会話をしながら裏山まで歩いてゆくのだ。
武器は駄菓子屋で売っていた銀玉鉄砲とカッターナイフ。

向かいから犬を散歩しているオジイチャンが歩いてきたら
「気をつけろ! 現地の猛獣使いだ!」と言い合ったり、ハチが飛んで来たら
「殺人バチの群れだ! 逃げろ!」などと叫んだりしながら裏山まで行った。


裏山には国分寺崖線というのがあった。道の両側がちょっとした高台になっているのだ。
そこを登ったり下りたりしていた。

当然道ではなく崖なので、足場は悪く岩や石がゴロゴロしている。
崖を下っているときに、オレは足を踏み外し転んで、数十センチだが滑りおちたことがあった。
膝がいたい。見たら血が出ている。

だけどオレは驚くどころか、負傷した隊員みたいでなんかカッコイイと思い、大袈裟に
「うわあああっ!!」と声を上げた。

実際にはたいした傷ではない。
ちょっとすりむいて痛かっただけの異邦人である。

だけど今も探検隊ごっこの最中だということが友人もわかっているから、そこは
「どうした! ケン隊員!!」
と、しっかり乗ってくる(笑)

高台の上は背の高い草がぼうぼうに生えていたのだが、畳2畳分くらいだけ草が刈られて
開かれているスペースがあった。そこには前まで段ボールを敷いたホームレスの人が住んで
いて、鍋や缶など生活の跡がしっかりと残り、放置されていた。

オレらはそれを知っていたので、子供ながらに不謹慎なたとえながらも、そこに住んでいた
ホームレスを幻の類人猿にたとえ、段ボールハウスの残骸をその類人猿の住処にたとえて
そこを探検隊のゴール地点として、遊んでいたのだ。

いやー、今思い出してもあの頃は楽しかった。

外でスポーツをする子供でもなければ、家でゲームをするわけでもないオレらのような子供は
いろんな遊びを自分たちで考えた。

自分たちで企画し、自分たちでプレイして遊んだ。

でも、遊びのヒントを与えてくれたのは川口浩探検隊だった。
それを考えると、川口浩と以下隊員は子供に夢を与えてくれたんだなあ(笑)

シリーズが終了するまでずっとすべて真実だって信じてたよ、うん。

上に動画も貼り付けたけど、洞窟に入って言って凶暴な猿人が登場した時のあの興奮は
今でも覚えている。

「すげー! すげー!」と思った。


子供ながらに、これだけの発見だから、明日の新聞やニュースは大変なことになるゾ!と
期待し、翌日ウキウキしながら普段は読まない新聞の社会面を見たけど、どこにも
「幻の猿人、ついに発見!」
といった見出しが見当たらない(-.-)
猿人の写真ではなく、ナカソネの顔写真があるくらいだ。

そのころでも探検隊を放送しているテレ朝と、朝日新聞は同じ系列だということは感じていたから、もしかしたら朝日新聞以外の新聞はその発見を載せてはいけないのかななどとも思ったが
そうだとしたらテレビ朝日のニュースでは報道されるはずなのに……などと頭を悩ませた。

結論から言えば報道がなかった理由は「演出だったから」。の一言なんだけど(笑)

しかしなあ、今改めて思い出してみると全体的に本当に思い切った「演出」と「設定」
だったわ。

探し求める対象の呼び方が「新種」だとか「怪鳥」だとかならまだ通じるし、理解も
得られる思う。

地球上にすむ虫や鳥のほとんどを知っている人間なんて、滅多にいない。
ちょっと見た目が珍しい虫や魚をカメラに移して新種だと伝えたり、獰猛な鳥を見つけて
怪鳥だと表現しても、まあまあ説得力はある。

それにしても「猿人バーゴン」は思い切り過ぎだろう(笑)
明らかにメイクした人間だ。
それを言いきって放送してしまう突き抜け具合はもうあの時代としては素晴らしいとしか
いいようがない。

当時、替え歌の名手・嘉門達夫が「行け! 行け!川口浩」という歌を歌っていて小学生
の間ではちょっと話題になった。

今考えれば、純粋な暴露とうか営業妨害だ。
歌っている内容も誇張しているんじゃないかと思ったこともあった。

洞窟に入ったら天井から蛇が落ちて(襲ってくる)のだが、不思議なことになぜか尻尾から
落ちてくると歌っている。

何年も前に探検隊の昔の映像を見て検証してみたら、牙をむいて頭から落ちてくるのではなく
本当に数匹の蛇が尻尾からボトボトを落ちてきていた。

いや、それは決してスタッフが上から蛇を降らしているのではない。
探検隊の持っているタイマツの炎の熱をうけた天井の蛇があぶられて落下したのだ。
そう思うことにしよう(爆)



テレビ朝日がこれだけ思い切った演出を決行した探検隊は、問題なく放送をまっとうしたが
似たような冒険ものでも世間から大バッシングされた番組もあった。


憶えてらっしゃるだろうか?
何年も前にNHKが放送した「禁断の王国ムスタン」という番組である。

いわゆる「やらせ」という言葉が世間に広く浸透したのはこの番組の騒動がきっかけと
行っても過言ではないかも。

NHKの取材班がヒマラヤの奥地にあるムスタンという場所に向かうのだが、その過程で
流砂に巻き込まれたり、スタッフが高山病に掛かり倒れて震えたりするのだけれど、
それらのハプニングがすべて嘘、つまり演出だったのだ。

カメラに映らないように別のスタッフが上から砂を流したり、嫌がる部下スタッフに無理やり
高山病の演技をさせたりしていたのが発覚。

高山病の演技をしたスタッフに関して、最初はやはりそんなことやりたくないと拒否したらしい。しかし現場のディレクターだかが、「だったら顔がわからないようにマスクとサングラスをさせてやる」とまで言い、実際にその恰好をさせて演出を決行した。

それらが当時は大問題となった。

川口浩のほうはOKで、NHKはアウト。
その違いは何か。

簡単に言えば、川口浩のほうはドキュメントだなんて一言もいっていない。
かと言って、バラエティだとも言っていない。
そこがお見事だ。
大型冒険コントだと言われればそれだけだし、プロレスと同じで見ているほうもわかっている。
(当時のオレは信じていたけど)

一方でNHKのほうははっきりと「ドキュメント」と謳っていた。
受信料まで撮っておいて、そういった欺きは演出ではなくて、やらせ。
完全アウト。


残念ながら当時のムスタンの動画は見当たらなかったけど、あの汚点をオレは忘れませんよ、
NHKさん♡


とりあえずブログもそうだけれど、何かを発信する立場にある人は自分のその舞台について
真剣だとか、教養だとか、そういった真面目なことを前提にしないほうがいいかも。

真剣ぶってしまったら、何かちょっとしくじった時にバッシングされる可能性が大だ。


そういうことで、今後もこのブログで際どいテーマを書いたり、際どい価値観を語ったり
するかしれないけど、このブログはエンタメなんで、ご理解のほどよろしくお願いします。

うーん、なんだかよくわからん終わり方になった(-.-)