新橋「末げん」~三島由紀夫最後の晩餐店~ | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

次の三連休、初日は出社なのでかわりに今日休み。


ちょっと最近身の周りでもいろいろあり、それに付随して思うこともまたあって

とある場所に飯を食いに行ってきた。


こちらも数年前からいつか行こうと思っていた店である。


『鳥割烹 末げん』

東京都港区新橋2-15-7プラザ弥生ビル1F

詳しくはココ



末1


知る人は知っている老舗中の老舗である。


三島由紀夫が市ヶ谷で自決する前の夜に、楯の会のメンバーを引き連れてここで

最後の晩餐を行ったことで有名な店である。

また、初代総理大臣の原敬も愛していた店だ。


訪問になかなか踏み切れなかった理由は大体想像がつくと思う。


敷居が高い!! ような印象を受けるから。言うまでもない。


ラーメン屋なら一人で入れる。ひとり居酒屋も最近クリアした……が、

今回のステージは「割烹」!


いくらランチ営業をしているとはいえ、そんな政治家が会合するような店(しかも老舗)

に一人で行って、一人で飯食って出てくる。という作業は決して気楽ではない。

でも行った。


ランチ営業は11時半からなので、それよりも少し早めにつくように出かけたのだが

開店20分前から、店の前に一人のおばさんが並んでいる。

そして、3分、4分と立つにつれていかにも新橋といったスーツを着たサラリーマンが

並びだす。


そこに紛れて並ぶのは何ちなく抵抗あったので、反対側の歩道でしばらく様子をみた。

時間になると軒先に暖簾がかけられて、おばさんやサラリーマンが次々に中へと吸い込まれて

いった。

列がなくなったところで自分も出陣。横断歩道を渡って店前へ。


ランチの種類は3種類。

名物は「かま定食」。



末2

ひとり入口はごらんのとおり、上の画像のような佇まい。

「ひとり割烹」は初だ。


入ってしまえばどうってことない、行け。

と、自らを勢いづけて暖簾をくぐる。

なんだか、聖杯を取りにゆくための試練に挑むインディジョーンズ博士みたいだ。

あ、3作目ね。最後の聖戦のラスト。


一歩。

頭頂部に暖簾がふわっとする風を感じる。


よし、入ったぁっ!!

「風雲! たけし城」で言えば、とりあえず第一関門の「国境の坂」はクリアした。



お店の人がお出迎え。

「一人ですけど、大丈夫ですか?」と聞くと

「おひとりさま? はい、こちらへどうぞ」と店内右側へ案内される。


割烹料理屋だから、当然クツを脱いであがる。

オレが案内された右側は単独客あるいは2人客用のテーブル席エリアで、左側には

座敷は個室があるそうだ。


幸い、残った一つのテーブル席に座れた。オレより先に一人入ってしまっていたら

座敷席で相席だったような。早めに来ておいてよかった。



こちらがテーブル席の風景。



末3

ここは名物である「かま定食」を頼むことにした。


本当のことを言えば、この店で食べたかったのは

「『わ』のコース」

という鍋である。


三島由紀夫と楯の会のメンバーが自決前最後の晩餐として食べた料理がそれなのだ。

昼には出していないというのもあるが、それはさておいても価格が高い!

一人前8000円前後~なのだ(爆)


いくら三島が食べたものと同じものだと言っても、そんなお金はさすがに出せない。

ここはとりあえずおとなしくランチで済ませるのが賢明。

いいや、いつか芥川賞の賞金100万円が入ったら、その時に食おう(笑)


当時もランチがあったとして、三島も「かま定食」を食べていたならなぁ、とも思ったが

自衛隊に対して「諸君らは武士だろう!」と檄を飛ばしていた益荒男三島がОLみたいに

「ランチひとつ」と店の人に言っている姿はやはり見たくない。


待っている間、メニュー表の裏に貼ってあった記事を読む。



末4


そして、料理到着。

早かった。



「かま定食」 1080円 

プラス100円で大盛も可。



末5

お吸い物。お新香。酢の物つき。


丼は思ったよりもこぶりだったが、女性にも人気なのは頷ける。


一応、親子丼を謳っているが、街の定食屋でよく見かけるような親子丼とは異なる。

三種のひき肉の卵とじである。


オレにとってはうれしい形の親子丼。玉ねぎの気配がないので。


さっそくひとくち。



末6

これは……美味い!


甘味がありながら、それがしっかりとしたうま味になっている。


これは開店前から並ぶ人がいるのも納得できるかも。



食べているあいだにもどんどんお客さんが入ってくる。

満席だったり、相席になってしまうことで残念そうに帰ってゆく人もいた。


お吸い物のほうはショウガが効いているのか少しからく感じたものの、出汁に鳥特有の

臭みは感じされない。上品な味。



じっくりと舌で味わって完食した。

満足だ。 来てみてよかった。 口の中で鳥が羽ばたいている。


自決前夜に三島が食べた料理もぜひ食べてみたいものだと改めて思った。


三島と楯の会の最後の晩餐はここで行われたが、三島自身は学生のころから家族で

この「末げん」には通っていたらしい。

お気に入りの店だったことで最後の晩餐店に選んだのだろう。



絶命後の三島がいる場所 (多磨霊園)

絶命した瞬間に三島がいた場所 (公開されている総監室)

絶命する前夜に三島がいた場所 (末げん)


三島の最期に最も近い時間にあたる三か所への巡礼はこれでほぼ、コンプリートした

かもしれない。

三島の人生を逆から辿るようにしてオレは動いてきたから。


味に浸りながら店を出るために、玄関でクツを履く。


男性客は入店時にクツを預ける際、番号の描かれたプレートを渡されるようだ。

場所柄、サラリーマンが多いため、似たような黒の革靴が多く、客が間違って履いてゆくのを

防ぐためらしい。ちなみにオレはスニーカーなので平気だった。

女性の場合もクツが多様なので大丈夫な場合が多いらしい。



末7

以前にもちらっと書いたが、あの日、三島は食事を終えて、こうして店を出ようと

クツを履いているとき、うしろから「先生、また来てくださいね」と女将に声を掛けられた。


それを聞いた三島はクツを履きながら

「また来てくれって言われてもなあ…… 女将にそう言われちゃったらあの世から来るか……」

とつぶやき、店を出ていった。


もし、オレだったら、その時なんて答えるだろうか。


「また来てくれって言われてもなあ…… 府中から来るか」



……(-.-)



普通かっ!!




映画「自決の日」では、この末ゲンでの最後の晩餐シーンがあるかと期待して当時観たのだが

なかったので残念。サウナのシーンがその代用だったのかな。


来月は憂国忌。