- 小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)/新潮社
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前回の記事で書いた「おかずクラブ」
アメトークに出ていた回はそのキャラにけっこう笑った。
観ていた人はわかると思うからあえて詳細記述は割愛するが、なんというかその表情と
テンポがよかった。
別にいけないことでも何でもないのだが、ただ女性だったらそれを言うのにはちょっと
躊躇するかなという告白をまず最初に一言淡々としゃべってから、ごく自然に本題にスライド
されてゆくそのテンポ。 痛快。
FUJIWARAのフジモンがそれを聞いて「そんな淡々と…」って静かにウケていたが、オレも
地味にウケていた。
そうなのだ。
トークにしてもこういう文章にしても、ちょっと大したことを淡々と告白すると、印章を与える
という意味では逆に破壊力を生む。
プロレスの実況のように派手に「オレは実は○○だぁぁぁっ!」と叫んだり、聞き取りづらい小さい
声で告白したりすると、なんだかその演出に興ざめすることもある。
え? それ、そんな普通のテンションで言っちゃうの?
え?! すごく自然に言っているけど、それって新聞に載って、おかしくないんじゃない!?
っていう感じで告白されたほうがインパクト台だ。
ものすごく大事件だったりしても、その口調とテンションがあまりに普通のための、なんか滑稽で
逆に笑えてしまったり、ずっこけたりしてしまいそうになったり。
志賀直哉という作家の作品は今まで「和解」しか読んだことがなかった。
オレが好きな太宰治のことを批評していたことから、なんとなくの抵抗で読むのを避けていた
フシはあったのだが、ちょっと時間がたった今、有名である「城の崎にて」を図書館で借りて
なんとなく読んでみた。
その一行目…。
「山の手線の電車に跳ね飛ばされて怪我をした」
…何ィィィ!!! ( ゚Д゚)
とにかく「怪我をした」って書いてあるから死んではいないという安心はあるが、それにしても
一体何がきっかけでそういう惨事に巻き込まれてしまったのだろうか!志賀は!(爆)
少年ジャンプで連載していた漫画の「ろくでなしブルース」の中では高校の不良同士が駅の
ホームでケンカして蹴り飛ばされたヒロトというヤンキーが、ホームにすべり混んできた電車に
接触して病院に運ばれるという話があったが、志賀も同じようにたまたま居合わせたアブナイ
やつに襲われて、突き飛ばされ接触し跳ね飛ばされたのだろうか?
それともカップ酒を片手に千鳥足でホーム歩いていて、接触したのだろうか?
読者としては、そこまでの過程が知りたい。
果たして事件なのか、それとも事故なのか!?
真相を知りたくて続きを読む。
電車に跳ね飛ばされるというのはかなり大きな事故であるのに、一行だけ淡々と
「山の手線の電車に跳ね飛ばされて怪我をした」と書いた次の2行目は
もう療養先の城崎温泉のシーンで、その風景描写に変わっている。
電車事故の件はもう一切書かれていない。
…
ええ゛っ !! あれだけ大きい事故に逢っていて、それについてはたった一行で
もう気分は温泉かいっ!
すごい。こうやってしょっぱなから読者をイスからひっくり返すような表現と進行が出来てこそ
作家なのかなと痛感した。
かのカフカも「変身」の一行目で、すご~く自然に「朝起きたら毒虫になっていた」と淡々に
書いていたし。どうして毒虫になったのかとか、前の日に芋虫を踏んづけて殺したのかとかそういうことも書いてない。
「なってたものは、なってたんだからしょうがないじゃん」というようなその淡々とした自然さが
異様でもあり滑稽でもある。
オレも勉強せんといかんな(´・ω・`)
城崎温泉という場所も行ったことないから行ってみたいな。
年間に100回以上。もちろん日帰りで(笑)
どうしても、城崎温泉と聞くとあの、野々村元議員が頭に浮かんでしまう。
でも今となって発想を転換して捉えると、野々村議員の件には結果的にあれでよかったんじゃないかなとも思えてしまう。
と言っても誤解しないで欲しい。 資金をごまかして着服するには許せないことだ。
だけど、彼は不正がばれて最終的に日帰り出張として計上した資金をすべて返還している。
結果だけで考えると、彼は無償で「泣き芸」というネタを振りまき、日本中に話題と笑いの2つを
提供したのだ。(ただ外国には恥をばらまいたが)
オレら一般人はともかく、テレビ局のワイドショー担当者なんかはしばらくネタに困らなかったんじゃないか。モノマネ芸人とかにも恰好のネタを与えたし。
まあオレを含めて怒りだけじゃなく、少しでも笑った人間やマネした人間はそういう部分を認めざる負えないな(笑)
でも議員には絶対復帰しないでね。
で、今回のもう一冊。正確には上下で2冊だけど。
- 悪人(上) (朝日文庫)/吉田 修一
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読んだ人のレビューを見て気づいたことがあった。
この本の世界は世の中を風刺している部分があるのかなと。
この世界において、本当の悪人はどこに位置しているのかと。
たとえばだ。
本作の筋とは関係ないが、とあるいじめられっ子がいたとする。
そのいじめられっ子は、いじめられてもずっと反撃せずに我慢してきたけど、ある時
急に家族のことをバカにされて、そのいじめっ子をナイフで刺して殺してしまって逮捕された
とする。
それがセンセーショナルな事件として世間で話題になる。
家族の元に昼夜問わず押しかけるマスコミ、自分の息子がいじめてたことを棚に上げて
叫ぶいじめっ子の家族、
刺してしまったiいじめられっ子のことをネットで匿名で誹謗して面白がるオタクたち…
だけどそういう彼ら彼女らは罪には問われない。
逮捕されたという事実だけで罪に問われて「悪人」とされるのはずっと我慢して
最後に爆発してしまったいじめられっ子の彼なのだ。
人間の掟というのは悲しいねえ。
あと、関係ないけど小説が映画化決定したとき、それに合わせて表紙カバーを
出演している俳優や女優の顔ヴァージョンにするのをやめていただきたい。
電車の中とかで読んでても、はたから見たらなんかミーハーっぽく見えそうなんで。