小学校の時、図書館に掛けられてあったモナリザの画に小さな恐怖心を感じた時期があった。
気がつくと、いつも見ているのだ。オレのことを。
面白そうな本を探して通路を歩いている時も、席に座って本を読んでいる時も、なにげにふと
視線を感じ(たような錯覚をおこして)、ふと眼を向けると彼女はオレのほうを見て、額縁の中で
静かに微笑んでいる。
立っていても座っていても、右にいても左にいても、真下にいても、どの方向にいても
必ず視線が合うという不思議。
画のほうを見るたびに毎回視線が合うのはちょっとこわいけど、何回目に見た時にいきなり目が合わない時があったとしたら、それはそれでコワい。
感じる視線投げかけてくるものは決して人間に限らないのだな。
ふと、背後の壁から視線が注がれるのを感じると思って、そっちを見たらGKBRがそこに
いやがったということも多々ある。
壁に張りついた人間以外の生命体、あるいは絵画のように生命を持たない物質からの視線にはそういったコワい物が多かったりするが、時には誘惑的な視線も投られてきて、振り向くと目が合い、そこにあるモノをムショーに欲したくなることがある。
そして、その状況はパーキングエリアのレストランや一部の和食店でよく遭遇する。
メニューにある「ソースカツ丼」という名前とその写真。
ソースカツ丼というメニューがそこに貼ってあると、ソースカツ丼好きなオレは、そこから向けられる
ラブコールのような熱視線を敏感に察知してしまい、振り向いてその写真と目があってしまったものならば、悩み初めてしまう。
ソースカツ丼という食べ物はてともズルイんだよ。
夏に食べても冬に食べても、海で食べても山で食べても、仕事で徹夜している時に食べても
スキー場に向かう途中のまだ日が昇る前の早朝のパーキングエリアで食べてもうまいのだ。
ソースカツ丼のやつら、それをしっかりと自覚していやがる。
それを踏まえた上で「オレを食いたいんだろう?」と壁からオレに向けて誘惑を仕掛けてくる。
ふだんの生活圏であまり扱っている店がないだけにドライブインやサービスエリアなどで
そのメニューを見ると、どうしても食べたくなってしまう。
いや、ふつうのサービスエリアとかなら食べていいと思う。
でも、これがまた海の幸が美味い漁港のレストランとかにもたまにあるのだ。
その存在はオレを悩ます。
潮風の漂う町の飲食店に入った時は、せっかくそういう土地に来たから新鮮な海の幸を
食おうといった心意気で挑むわけだが、いざ店に入っ壁や卓上のメニューを見た時、
刺身や焼き魚のメニュー写真に混ざって「ソースカツ丼」がそこにあったりすると、オレの決心は
揺らぎだす。
この港町に来てソースカツ丼を食べるというのは愚か者の選択ではないかとわかっていながらも
簡単にソースカツ丼の誘惑を断ち切れない己の意思の弱さを恨む。
さんざん悩んだ挙句、そこはやはり海の幸を使用した海鮮丼などを選ぶのだが、それがイマイチだった場合、「やっぱソースカツ丼にしとけばよかった」と未練タラタラの女々しさをさらけ出す結果と
なるのだ。
ソースカツ丼の何がそんなにいいのか。
それはふつうのカツ丼に比べて使用されている食材は減っているのにも関わらず
ふつうのカツ丼よりもずっと魅力的だということ。
タマネギが入っていないのだよ。これはデカイことだ。
カツ丼の世界の歴史が大きく動いたことを意味する社会的出来事だといっても過言ではない。
カツも米もタマゴも大好きなんだけれど、子供の頃までのカツ丼という概念にはやはりどうしても
そこにタマネギという破壊出来ない壁が存在していたので、カツも米もタマゴも好きなのに
食事でカツ丼が出た際には、まるごと食べられないという苦労をずっとしてきた。
タマネギをよけて出して食べればいいではないかという意見もあるだろう。
しかしタマネギと言う奴はなかなかいやらしい奴で、自分の身からでた体臭と体液を下にある
米にべったりとしみ込ませていやがるのだ。
だから本体を抜いたところで、下の米にはその味と臭いがしっかりと浸み込んでしまっている。
いや、いいんだよ、タマネギがあったって別に。
味覚なんて人それぞれで当然だからタマネギが好きな人だっていて当然だし、否定はしない。
否定もなにも食べ物の好き嫌いに正解も不正解もない。
それはわかる。わかるけど……
ちょっと日本の料理はタマネギに依存し過ぎてはいないか?
グリーンピースやトマトの頻度レベルで使用されるならわかるが、何から何までタマネギありきという認識が強すぎる印象がある。
ちょっと前から感じているのだが日本人が歴史上もっとも依存してきたものは原発でもスマホでもなくて「タマネギ」ではないだろうか。
それなりに使うならよい。だけど……もう「料理はタマネギありき」といった認識が地中に根を張っている気がする。
(愚痴が続いておりますが、もうちょっとで終わりますのでお付き合いください)
そうだ。タマネギを使用していなくとも美味しいものこそ、ホンモノの料理だ。
そんな料理はないのか……
あった!
それがソースカツ丼だ。
米とカツの間にタマネギを挟まないカツ丼の存在を知った時、オレは米という国とカツという国に国境に存在していた高い壁がついに崩壊し、これで米とカツを自由に行き来して食べることが出来るようになったといった明るい未来を感じずにいられなかった。
ソースカツ丼を生んでくれた人、そしてそれを広げてくれた方々、あなた方は革命者です。
どうもありがとう。
そんなソースカツ丼を愛するオレが先日行ってみたのは、比較的最近、国分寺駅前にオープンした店。
『かつ上』
東京都国分寺市本町2-10-5
国分寺も再開発が進んで数年前に比べると風景もかわってきた。
この店はすぐ駅前。
先に隣にできた蕎麦屋と同じ系列らしくて、価格の安さがウリっぽい。
さっそく「ソースカツ丼」を頼んでみた。
料金590円。
おしんことみそ汁付き。
値段が安いだけあってカツはちょっとこじんまり。
味はけっして悪くないが、値段が値段だけに格別美味いというわけでもない。
まあNDSO
値段相応かな(-_-)
呑んだ後にはいいかもしれない。