石原慎太郎「太陽の季節」他 | 昭和80年代クロニクル

昭和80年代クロニクル

古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

太陽の季節 (新潮文庫)/石原 慎太郎
¥540
Amazon.co.jp

都知事選前夜、たまたま新宿に呑みに出てたんで、猪瀬の演説に応援演説にきてた

生の石原慎太郎を見た。思ったほどオーラっぽいモンは出てなかった。


最初に言っておく。というかこのブログでも、もう何度も言っているが石原慎太郎は好きではない。

でも、好きではないのはあくまで‘都知事’と‘政治家’と‘個人ファシスト’としての石原慎太郎で

あって「小説家」という括りの石原慎太郎に関してはなんとも言えなかった。読んだことないから。


「政治家」「個人」としての石原がキライだから言って、まともに読んだこともないのに小説まで

含めたすべてを否定するのはルール違反だと思うから、オレとしては「批判する資格」を取得

する意味合いも含めて、初めて石原作品を読んで見た。

これも今さらだけど「太陽の季節」に関しては前々から気にはなっていたんでね。


なるほどん。

オレらが生まれる前に「太陽族」とかいうフレーズがあったくらいで、テレビとかでもやってたから

なんとなくはわかっていたが‘やっぱり’こーゆーハナシか。


時代で言えば、昭和で、オレらの親より一回り上くらいの世代の不良群像劇。

ドス黒いオールウェイズ三丁目の夕日。


ネタバレになるから詳細とオチは書かないけど、簡単に言えば主人公は人間のクズです(爆)

クズで始まって、途中少しマシになるけど、〆でまたサイアクのクズになって終わり(笑)

人間界ヒエラルキーにおいて「下の中」に位置するオイラから見てもさらに下ゆく「下の下」に

値するクズの完全体。キングクズ。


芥川賞をとった有名作だけど、読者の評価は割れたようだなあ。

現に、当時、「少年を悪の道に導く」としてPTAは集中的にバッシングしたようだ。

読者の感想も「後味悪い」とか「主人公がサイアクのハナシ」とかいう声が多かった様子。


ただ・・・


決して石原慎太郎の肩を持つわけでも、応援するワケでもないが、

小説家としての石原に多少の援護射撃的をするコメントを言わせてもらえば、

コレはコレで全くアリだと思う。


結果作品として面白いか否かは置いといて、

小説は教科書でも聖書でもノウハウ本でもない。

文学は別に道徳ではなく、どちらかといえば娯楽である。


憎悪、嫉妬、理不尽、暴力…普段の生活で出来ないこと言えないこと何でも出来るのが

小説および文学なのだと思う。

小説の物語とは作家が作りだせるひとつの王国なのだ。


教訓だけで進んだり、100%ハッピーエンドで終わるのが定番になってしまったら

それはもう小説でも無ければ文学でもない。

そんなモンは三流啓発本や四流教科書の腐ったヤツである。


「つまらない」とか「意味わからん」とか言う感想は存在して当然だと思うが、

石原作品に限らず「酷い主人公の話」や「エグい話」を読んで、

「後味悪い」とか「ムカつく」とか言う意見はある意味、

激辛だと分かってるカレーを食って、店に「辛いんだよ!」とか

ホラー映画見て、配給元や監督に「コワいんだよ!」とキレるのと似ている。

映画の南極物語みて、「哀しいじゃないか!」とか「気分が沈むだろ!」とかキレる客は

いないでしょう(笑)


ホラー映画は怖がらせるからホラー映画なのである。

客を怖がらせ不快にさせてなんぼ。客が不快にならなければそれはそれで駄作である。


だから文学も同じ。心地いいのも不快なのもあるから文学。

「太陽の季節」も明らかに読み手を「不快」にさせることが狙いだろう。


だから、その「太陽~」のストーリーに対し、不快という感想を持つのはちょっと違うかなと

思うと同時に、不快と思ってしまった人は無意識のうちに石原閣下の術中にハマってしまって、

そのうえ表現力を認めてしまってるのかなとも感じる。

文章にリアリティがなければ、状況はわかっても不快にならない。


ま。この表現というか文章の作風に関してだけは、一応多少の援護・・・

といってもバッシングの銃弾が飛んでくる方向に突き進む石原の100メートルくらい後方から

銀玉鉄砲で援護射撃をするような微力なモン・・・は、しておく。

だけど、やっぱ石原本人は好きじゃない(笑)


でも、まあたしかにこの主人公はムカつくわな。読めばわかるけど。

同性の男からみても最低な主人公だから、女性からみたらまさに「全女性の敵」じゃない?


それと、あっという間に解党したけど、ここから名前とった「太陽の党」はやっぱマズイだろ。

烏合の衆とはまたちょっと違うが、ろくでもない輩の集合体の党名に聞こえる。本読んだ後だと。


「太陽~」はそんな長編ではないけど、ある学者の人が「日本の文学はバッドエンドが多い」と

書いてたが、その通りかも。「ハッピーエンドに傑作なし」って言われてるようだし。

芥川賞もどちらかといえば暗くて、ドンヨリと終わるのが多いしねえ。


そんなとこで、素人意見で生意気に石原が作家として書いた「太陽~」の感想を言わせてもらう。

オモシロかったかどうかはわからない。


ただ、ここでヘタに酷評して国政が混乱したらマズイので、維新石原閣下および日本国民各位

のために、「つまらないということはない。楽しめたかはわからんが一応読み通せた」

とだけ言っておいてやる!(爆)


石原はやっぱ作家でずっとやっていったほうがいいかな。

一時期、野坂昭如が都知事石原慎太郎をボロクソに批判するうえで

「小説の世界に帰ってこい」と吠えてたのが理解できる。



先程の感想コメントの流れで、もう一冊はコノ人の本。


実験 (新潮文庫)/田中 慎弥
¥452
Amazon.co.jp

同じく芥川賞作家で、石原閣下にかみついた田中サンの作品。


表紙をみて「あ、(故)石田徹也のイラストだ!」ってピンときた。

しかも、この部屋の中のベッドの上にお墓があって、さらにその下には死体(?)があるという

シュールなイラストは石田徹也の画の中でも最も好きな中に入るんで見た時嬉しかった。


このハナシは書けなくなった作家が鬱になった旧友を訪ねることから始まるのだが、

そこで旧友の母親から鬱患者に対するテキストみたいなモノを貰うワケ。

そこには鬱患者に対して

「『頑張れ』とか言うのは逆に相手を追い詰めるからタブー」

とか書いてあるのだが、それを読んだ主人公の作家はある不穏な実験を試みる・・・


だいたい想像つくでしょう、主人公が何をしようとしてるか。このドス黒い匂いが(笑)

これもまた小説世界だからのタブー表現解放特権なり。


前にも書いたけど、オレは同じオトコを見るにあたって

爽やかで笑顔が似合っていつも前向きで声が大きくてハキハキしたヤツは苦手。胡散くさくて。


だから、この作者の田中サンみたいに実際にはアブナイことはやらないけど、

人間的に屈折した想像力や着眼点や才能を持った人って大好きだなあ(笑)

わははははははははははは・・・(壊)