「え?」
まるでブラウン管テレビの電源を落としたように
布を透けて見える明かりが急速に遠くに小さくなって行く、あっという間に目は見えなくなった。
しかし耳と頭はフル回転していた、けたたましく鳴り響くアラーム音、
心拍と連動して眠くなるような単調なクリック音だったものが間隔が
バラバラになり遂には止まったように聞こえた。
執刀医と看護士の声が飛び交う… 私はその時何を考えていたのか
思い出せません、「オレ死ぬのかな…」とか考えれば物語にもなるでしょうが、
今考えても思い出せない。
やがて騒々しかったのがだんだん遠くに感じられてきた。
そして執刀医の「息吸え!息吸え!!」の声が耳に届いた、
渾身の力を胸と腹に込めて上半身を浮き上がらせるように息を吸い込んだ「あーゴム臭いな…」
私の鼻腔には酸素マスクから流れ出る酸素が届いていた、
そしてもう一度 何度も繰り返し深く息を吸った。
そこからしばらくの間の記憶は今はもう薄れてしまっている。
その後落ち着きを取り戻した私は引き続き手術を続行する事になった、
ただし局部麻酔の量を抑えたらしく呼吸困難に陥る事は無かったが時間が経過するとチクチクとした
痛みを感じるようになった、その時は「先生、痛くなってきました」
と申告して麻酔を打ってもらうと言う繰り返しで手術を受けた。
執刀医はその辺のもどかしさからか
「あーこれなら全身麻酔でカパーっと開けば良かった」と
軽口も出るほど安定した状態を保てるようになった。
手術の時間は1時間半を要した。
つづく