共有者から他の共有者への差止請求を信義則違反と認定した事例 | 著作権コンサルタントが伝えたいこと

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共有者から他の共有者への差止請求を信義則違反と認定した事例

 

▶平成23年04月28日 大阪地方裁判所[平成21(ワ)7781]

5 争点⑹(被告らによる被告カタログの作成利用行為は,原告が原告カタログについて有する著作権ないし著作者人格権の侵害行為であるか)

上記認定のとおり,被告会社は,平成16年9月14日の会社設立当時から,原告と密接な関係を持って保安用品の取引を行っていたところ,証拠及び弁論の全趣旨によれば,そのような取引関係のあった当時,原告と被告会社において営業に用いるカタログは,原告の担当者である個人被告らと被告会社の代表者であるP3との3人が,共同して商品の写真撮影をし,その写真データをカタログ用データに造り替えたりして共同で作成したものであり,その同一の商品カタログを基本として,表紙の会社名だけを,原告と被告会社で入れ替えて使用してきたことが認められる。

したがって,そのように作成された商品カタログは,原告においては個人被告らが,原告の発意に基づき,その職務として作成したものと認められ,またこれに協力したP3は,単に原告の業務を手伝っていたのではなく,それと同時に被告会社の商品カタログの作成をしていたものといえるから,その面では,これは被告会社の発意に基づき被告会社の職務として作成に関与していたものと認められる。そして,商品カタログが,その法人名で公表される著作物であることは明らかであるから,このようにして協力して作成された商品カタログは,原告にとっては原告の職務著作物であるだけでなく,被告会社にとっても被告会社の職務著作物であると認められるから,結局,両社の共同著作物であるというべきことになる。

そうすると,取引関係を絶った平成20年9月当時に原告と被告会社それぞれで用いられていた原告カタログ及び被告カタログに同一の部分が多いことは,その作成経緯に照らし,もとより当然のことであり,いずれのカタログとも,原告と被告会社の共同著作物であるというべきものである。

そして,その利用実態に照らし,その当時,原告と被告会社が上記カタログをそれぞれ独自に利用することについてはお互いに了解しあっていたものと認められるし,いずれのカタログにも,商品の販売主体としてのそれぞれの社名の記載はあるものの,その作成者(著作者)の表示がないが,これも営業に用いる商品カタログとしては当然のことであって,そのような扱いも両社ともに了解しあっていた事柄であると認められる。

ところで上記のとおり,原告カタログが原告と被告会社の共同著作物であるとするなら,被告カタログも原告と被告会社との共同著作物であるというべきことになるところ,共同著作物であるなら,その著作権及び著作者人格権を行使するためには著作権法64条1項,同法65条1項により著作者全員の合意が必要であるということになるから,被告会社は,原告の合意なくしては,被告カタログの複製・頒布をすることが許されないということになりかねない。

しかしながら,上記認定した経緯のとおり,原告と被告会社は,保安用品の営業上の協力関係を構築し,そのなかで共同してカタログを作成して,作成者をことさらに明らかにすることなく(換言すれば,氏名表示権を行使することなく),それぞれの会社のカタログとの体裁で営業活動を行ってきたものであり,そのような著作物の利用は両者の了解事項であったと認められる。

そして,そもそも商品カタログは,もともと営業活動の手段としての性格を有するものであるから,原告と被告会社が営業上の協力関係を絶った後であったとしても,従前と同じ商品を取り扱うのなら,従前どおりの商品カタログを営業に用いることは当然であり,現に原告においても,基本的には同じ原告カタログを営業に用い続けている(被告会社が被告カタログの利用行為が許されないのなら,原告カタログの複製利用行為も許されないはずである。)というのであるから,以上のような事実関係のもとでは,原告と被告会社の関係の基礎となった取引関係が終了した後とはいえ,原告が被告会社に対して,その共同著作物の著作権者及び著作者人格権者としての権利を行使して,被告カタログの利用行為の差し止めを求めることは,信義則に照らし,許されないというべきである。

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