少し前から「午前十時の映画祭」以外にも、往年の名画を映画館で観られる機会が増えました。嬉し!

 

で、「ミツバチのささやき」(1973)。初見でした。

 

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とても静かで、台詞が少なくて、画面も暗めで、まったく心躍るお話ではないのですが、全てを凌駕するのが主演の5歳の少女、アナ・トレント。

長いまつげと澄み切った大きな瞳!お姉さん役の子(イサベル・テリェリア)も可愛いんだけど、無垢さが違うというか何というか。

 

2人は大きなお屋敷に住んでいるんだけど、両親の仲は冷え切っていて、温かい家庭という雰囲気ではない。

アナはイサベルと一緒に、街の公民館で上映された「フランケンシュタイン」を観て作品の世界に囚われていく…単純に夜泣きするとか悪夢を見る、というのではなく、じりじり、ゆっくりと彼女の心に幻想が根を下ろしていく感じが恐ろしくもあり、自分自身にも何となく思い当たる記憶がありました。

親や兄弟にも言えない、というより言いたくない。なのに見ず知らずの赤の他人に、この人となら分かり合えるのでは、みたいな希望的観測を持ったりして。

今思うと、その時の観測はあながち間違ってはいなかったんじゃないか、なんて気持ちになったり。

…という風に、子どもの頃に感じた思いの朧な記憶が次々に浮かんでは消えるような、そんな映画体験でした。

 

子どもの頃の方が「生と死」について真剣に考えていたなと思います。

きっと他の余計なことを考えなくても良かった時代なんだと思います。

歳を重ねるにつれて雑務が増えて、本当に考えなくてはいけない課題を脇に置きっぱなしにして来たなあ、と振り返って思います。

 

舞台は、内戦が終結した翌年の1940年のスペインの小さな村、ということで、時代背景を知ってたら分かる描写もたくさんあるみたいです。
ミツバチの巣と働きバチが何度も出てくるんですが、それもきっと、抵抗せず疑問も持たず働き死んでいった市井の人々のメタファーではないかと感じました。