関西支店の売り上げが昨対を割ったのである。社長にとっては裏切られた気分なのだろう。可愛さあまって憎さ百倍というのはまさにこの事なのか!ほとんど無視に近い。

何かあったら「どうせ関西だろ?」と


その時ボクは思った。


ー これが社長という立場のする事か?いい時は共に仕事が出来ても、悪い時は共に仕事が出来ない人だ!いよいよ本性を表して来たな! ー


入社当初の社長はボクたちと親切丁寧に接してくれていた。常に営業と同じ目線で仕事をしているし、「こんな事まで」と思う仕事までし、社長なのにすごいなぁとただ単純に思っていた。

しかし年月が経つにつれ、ボクは世の中目線でモノゴトが見え始めた。仕事にも慣れ、社内事情に詳しくなり始めたある時、ある事に気付く。


ー ちょっと待てよ!社長の仕事ってオレらがやってる内容をチェックしてあーだこーだ言ってるだけやん!しかもほとんどがあら探しとダメ出しやで! ー


例えばこんな事。

展示会で1件当たりの単価が低い時

1点で終わる所を23点と勧めて下さい。2サイズ展開しているアイテムは2サイズの受注をもらって下さい」

とか日頃の得意先からの追加問合せに対しては

「得意先からパンツのクロの追加で、クロが在庫になければ、その時にあるアカやグリーンを勧めて下さい」とか


ハッキリ言ってそれ以上の提案は新入社員の頃からやっている。

だって営業は数字が欲しいのだからましてや、クロがなければアカやグリーンを勧めろって営業としての資質を疑われる。


ー 相変わらずそんな事しか言えないのか!新入社員研修じゃあるまいし!お願いして買ってもらえる時代じゃないだろ! ー


そしてまだまだある。

次の様なケースはもっと最悪だ。

全体の売り上げ着地予想が目標に対して少なく、現状社内在庫が多くある状況で、店頭状況は?と言うと、たとえ新しく作ったアイテムを提案しても店頭在庫が多く、売りたくても買ってもらえそうにない状況なのは営業として感じていた。

そんな時、いつも通り社長が

「どうするんですか?」

と、詰め寄って来た。

「今ある在庫を販売します。例えば金額と枚数共に稼げそうな得意先にはスケールメリットを活かして掛け率を10%下げてより稼ぐ。それ以外は全営業徹底して勧めるアイテムを絞り込んで売る」

と、僕たち営業は答えた。

売れるアイテムは誰だって売れる。残っているアイテムをいかに売るのかを考えての答えだった。もちろん新しいアイテムを作れば確かに売りやすい。得意先にとっては目新しいのだからただ完売しない限り在庫が増える。当社としては在庫リスクとなる。出来るだけリスクを背負いたくないのはメーカーも得意先も同じだ。作れば売れる時代、仕入れれば仕入れただけ売れる時代ではないのだから


もし新しいアイテムを作って1ヶ月後の棚卸しで少しでも社内に残っておれば社長に怒鳴られる。猶予は1ヵ月なのだ。

しかし、案の定社長は

「新しいアイテムを作らなくても売れるんですか?」

「はい、作っても社内外共に状況が良くないので今ある在庫を売る方が賢明だと思います」

と、僕たちは答えた。

常に営業は経営的な立場と得意先の立場と自分の立場になって考えなければならない。だから目の前にある在庫を売ろうと考えた。

「無理です。売れっこないです。新しいアイテムを考えて作って下さい」

と、強引に締めくくって出て行った。

全く営業を信用していない。まだ作るなと言われるよりマシだが


結局新しいモノを作って1ヶ月後

「どうするんですか?こんなに作っちゃって!全然売られてないじゃないですか!どうするんですか?」

と、言って出て行ってしまった。


ー 無理だと言ったのに作れと言ったのは社長だろ ー


それに生産に入る前に渋々「これだけ作りますよ」と数字で報告もしている。営業は作っても売りさばく自信がない事も前もって会議で伝えている!それなのに今になって社長は強烈に怒鳴り散らして出て行くとは。

全く話にならない。出て行っては何の解決にもならない。分からないから出て行ってしまうのだろう


この繰り返しが続く。よくなるハズがない。

いつも悪いのはすべて営業。

しかし,少しでも社長の思い通りにコトが運ぶと「ほら見ろ!オレの言った通り上手く行くと思ったんですよ!」とすべての手柄を自分のものにしてしまう。

偉いのはすべて社長。

結果論で善は社長、悪は社員だ。

そして、いつも社長は自分の描いた筋書きを押し通す。それに対して全く応用がない。人には臨機応変にと言いながら自分には全く柔軟性がない。自分の筋書きに他人が意見をする様な事があれば即キレる。そうして過去に何人もの社員の首を切ってきた。常に社員は自分の奴隷でないと気がすまない。

戦争に例えると隊長(社長)は、作戦も戦略も持たずに兵隊(営業)に戦わせておいて、負ければ怒鳴り、また休む間もなく即戦わせて負ければまた怒鳴る。兵隊が負け過ぎると殺してしまう。でも勝てばすべて隊長の手柄。酷い時には、負けると分かっている戦にも兵隊を突っ込ませて、負ければ即殺してしまう事もある。ハッキリ言ってやってられない。社長の器量の小ささが伺える。部下が育っていないのもうなずける。

関西支店は東京本社と違って営業だけの男3人しかいない。その為、雑用に至るまでのすべての業務をこなさなければならない。1人の勝手な動きが全体の足を引っ張る事につながる。だから僕たちはいつも何かを始める時、最初に大まかな段取りを決める。1人1人が自分の役割や立場やお互いの性格まで熟知している為、円滑に仕事が運ぶ。

常に心がけている事は

「全体が動いている中で、今何が出来ていないか?今何に手が回っていないか?を考える。仕事に境界線を作らない」

である。


まさにチームだ!


また、僕が出張で会社にいない時は会社にいる田中さんや山田が得意先からの問い合わせの対応を行い、時にはすすんで追加提案まで行い、僕の代わりに売り上げを作ってくれる事も多々ある。

人を助けて自分の仕事が成り立ち、人に助けられて自分の仕事が円滑に運ぶ。欠けている箇所を補い合う。僕はこのチームで

「理解と心配り」

を教えてもらった。

こんな僕たち関西支店でも、本社と比較した際にどうしても本社に敵わない点はある。

そしてイチ営業では出来る事も限られる。

そんな時は出来るだけ社長や取締役デザイナーの松井さん、その他の本社スタッフを巻き込んで協力してもらい、僕と共に得意先との関係をより一層深めてもらった。営業にとって会社全体で得意先との関係を深めさせておいて得はあっても損はない。

例えば、得意先の1周年記念パーティで僕が司会を務める事になった時、社長に出席してもらった。その時社長は緊張している僕と得意先オーナーにコップ1杯のビールをガブ飲みさせて緊張をほぐしてくれた。また、得意先のファッションショーで松井さんはカリスマぶりを発揮して、ショーを大いに盛り上げてくれた。

これらは得意先とのより良い関係と数字につながった。


こうして関西支店全体の売上は年々伸び続け、社長は僕たちを会う度に食事などでもてなしてくれた。

僕たち3人は社長の実費でスノーボードに連れて行ってもらった事もある。また、僕は担当の得意先と共に温泉へ連れて行ってもらった事まであるくらいだ。

しかし、こうまでしてくれた社長が、ある日を境に180度態度を変えた。

入金率70%以上。何それ?

これはアパレル卸業界では当たり前にまかりとおっている事実。

例えば締め日が6/20、支払い日が7/10で請求金額が100万の場合、支払い金額は100万であるのが普通である。

がこの業界は違うのです。70万からでOKなのです。もちろん全額100万を支払ってくれる得意先もある。常に全額を入金して頂けれるに越した事はないですかそして残りの30万は次月に繰り越され、それらが毎月繰り越されながら年2回の精算をしてもらえればいいのである。(最近では50%以上とハードルが益々低くなる傾向もある)

2回の精算月も設定してあり、大体が1月と7月。新卒入社当時は全く意味が分からなかった。
「何故、入金は全額じゃないんですか?売った買ったは全額支払うのが常識じゃないんですか?」

「アパレルメーカーは人件費やその他の経費なども含めて月々最低70%の入金率と年2回の精算で会社は回るんだよ!」
「そうなんですか
と、腑に落ちない返事。実際の数字を落とし込んで考えてみると、利益や経費の内訳が分かり

ー なるほど! ー


営業は売って回収するまでが仕事である。10日、15日、20日、25日、月末と毎月の入金チェックも欠かせない。
「ラヴさんの毎月100%全額入金は気持ちいいですよね~!やっぱりお金は信用ですもんね」
と、全得意先が当社基準の入金率70%以上であるかどうかをチェックしていた。そんなチェックの終盤に差し掛かった時、70%を下回るお店が出て来た。
「あれっ?ユーさん30万しか入金されてない!5万足りんなぁ!」
請求金額は50万、入金は35万でないといけない。
契約違反だ。

そんな時はすぐさま電話をかけて残り5万の催促をする。
「もしもし?アペリティフですけどいつもお世話になってます。あっ、社長ですか?今お電話大丈夫ですか?」
電話の為、今の相手の状況が見えないので前もって確認する。さすがにお金の事だけにタイミングも重要だ。
「ご入金有り難うございました。あの~用件なんですけど約束より5万少ないのですが明日にでも残り5万振り込んで頂けますか?」
「明日?ん分かった。明日振り込んでおくよ。」
と、無難に電話を終える。

この様な場合、すぐに対応しなければ相手になめられる。契約では70%と謳っておきながら、それを下回っても担当が何も言って来ないとなれば、許してもらえると勝手に解釈されてしまう。

人間は自分にとって都合よく考えてしまうものだ!

しかし、こんな楽なケースはめったにない。支払い不足と分かっていながら、たいがいは一言二言言い逃れをしようとする。
「いやぁ~あまり売れていなくてね売れていないのに払えないよ~」とか「カードだから手元に入るお金が先なんだよね~」とか、あの手この手と「払えない」と言うより「払わない」理由を考えてその場を凌ごうとする。特に売れていない得意先はいつも口から出る言葉は売れない理由ばかりだ。そんな事を考える前にもっと売る理由を考えてもらいたいものだ!

ー そんな事で通用すると思ってるのか!銀行だったら約束通り支払わないと不渡りになる。だから絶対に約束通り支払うハズだ!メーカーを都合のいい銀行にさせへんでぇ~ ー


と、思いつつ僕は
「色んな状況や都合があるのは承知してるんですけどウチも楽じゃないんですよねぇ何とか25日の金曜日までに追加入金お願いします」
と、柔らかく期限付きで催促する。約束事は必ず期限を付ける事を心掛ける。期限を付けると人は守ろうと義務感が働き何とかしようとするものだ!
また、支払日の遅れるお店は要注意だ。間違なくお金が回っていない証拠だ。そんな得意先には特に注意し、支払日が近付けば前もって連絡を取る。
日々の営業活動はザッとこんなもんだ。

もちろん大事な新規開拓活動も行なう。

後は自分達で出荷や伝票入力、展示会時は受注入力なども行ない、やれる事は何でもする