『赤毛のアン』再訪。 第47回目:アンの虚栄と苦悶、そしてshingle hair-style、”刈り上げ君” となる決断。

 

 

アン! その髪に何をしたんだね?

わたし染めたのよ

・・・・私ならそんな色に染めたりはしないがね

わたしだって、緑にする気はなかったわ

 

その髪染、誰から手に入れたの

売りに来た人がいたのよ

イタリア人を家に入れちゃ駄目だっていつも言ったじゃないか

あら、イタリア人じゃないわよ―――ドイツからきたユダヤ人よ。それにわたし外の階段のところで話を聞いたのよ

美しい黒髪になるって

・・・・・・・

わたし、自分が悪かったって後悔してるわ

まあ、後悔のしがいがあってもらいたいものだよ

 

石鹸と水で何度もごしごし洗ったのですが、その緑色は一向に落ちなかった。

 

アン、これはもう切るしか方法がないみたいだね

 

 アンは唇が震えたが、マリラの言うとおりに違いなかった。

 

この物語『赤毛のアン』では、イギリス人以外は、フランス人もイタリア人も、多少貶められております。アメリカ人でも。

 

 

 

[英語原文] Page 302, line 5 from the bottom.

 

  ‘Please cut it off at once, Marilla, and have it over.  Oh, I feel that my heart is broken.  This is such a unromantic affliction苦悩.  The girls in books lose their hair in fevers or sell it to get money for some good deed行為, and I’m sure I wouldn’t mind losing my hair in some such fashion half so much. 

 

But there is nothing comforting(慰める)having your hair cut off because you’ve dyed it a dreadful colour, is there?  I’m going to weep all the time you’re cutting it off, if it won’t interfere.  It seems such a tragic thing.’

 

  Anne wept(泣く) then, but later on, when she went upstairs and looked in the glass, she was calm with despair絶望.  Marilla had done her work thoroughly徹底的に and it had been necessary to shingle the hair as mildly as may be.  Anne promptly即座に turned her glass to the wall.

 

  ‘I’ll never, never look at myself again until my hair grows,’ she exclaimed passionately.

  Then she suddenly righted the glass.

 

  ‘Yes, I will, too.  I’d do penance後悔 for being wicked邪悪な that way.  I’ll look at myself every time I come to my room and see how ugly I am.  And I won’t try to imagine it away, either.  I never thought I was vain虚栄心の強い about my hair, of all things, but now I know I was, in spite of its being red, because it was so long and thick and curly.  I expect something will happen to my nose next.’ 

 

 

 

 [単語・語句の意味]

affliction(苦悩): fevers(発熱): deed(行為): fashion(仕方、~のように):comforting(慰める):dyed(染める): dreadful(ひどい、いやな):weep(泣く、涙を流す):interfere(妨げる、じゃまをする):tragic(悲惨な、痛ましい):wept(泣く、涙を流す):upstairs(二階): glass(鏡): calm(平静な、落ち着いた参考、calm down,落ち着いて!): despair(絶望、絶望させるもの:thoroughly(すっかり、徹底的に): shingle(刈り上げ;例文、シングル・カット<刈り上げくん> 注意、single-cutではない ):mildly(優しく、穏やかに): promptly(敏速に、即座に): turned(逆さまの):exclaimed(声をあげる): passionately(激しく、熱心に):righted(まっすぐにもどる):penance(ざんげ、後悔):wicked(邪悪な、不道徳な):ugly(醜い、見苦しい):away(去って、なくなって):vain(うぬぼれの強い、虚栄心の強い):in spite of(にもかかわらず):thick(厚い、厚みのある):curly(巻き毛の) 

 

:"火の用心!"「刈り上げくん」は誰にも厳しいのです。

 

 

[日本語訳]:今回は、村岡花子訳を提示してみます。

ページ376、後ろから           5行目。

 

 どうかばっさり切って、早くすませてしまってちょうだい、マリラ。ああ、胸がひきさかれるようだわ。本に出てくる女の子はみんな、熱病で髪を切るとか、なにか気高い目的のためにそれを売ってお金にするとかいうんだけれど、あたしもそんなふうにして髪をなくすなら、この半分もつらくはないんだけれど。

 

恐ろしい色に染めたからって切ってしまうのでは、どうにも気持ちの慰めようがないじゃないの。もし、じゃまにならないなら、マリラが切っている間、泣いてるわ。とても悲劇的なことですもの」

 

 そう言ってアンは泣いたが、しかしあとで二階へあがって鏡を見たときには、あきらめてしまってかえって落着いた。マリラは徹底的に切った。 できるだけ短く切ってしまわなければならなかったからである。その結果はいくらひいきめに見ても、似合うとは言えなかった。アンはたちまち鏡を壁のほうへ向けてしまった。

 

 「もうけっして、髪がのびるまでは、二度と自分の姿を見ないわ」とアンは激しく叫んだ。

 それから突然、鏡をもとに返した。

 

 「いいえ、見るわ。そうして、わるいことをした罪ほろぼしをするわ。この部屋へくるたびに鏡を見て、どんなに自分がみにくいかを見るつもりよ。そして想像でまぎらわしたりもしないわ。なんとしてもあたし、髪だけはうぬぼれていないつもりだったけれど、やっぱりそうじゃなかったってことがいまわかったわ。 赤くはあったけれど、とても長くて、濃くて、ちぢれていたんですもの。このつぎには、あたしの鼻がどうかなるんじゃないかと思うわ」

 

 

 

[三人の翻訳の比較]

  ‘Please cut it off at once, Marilla, and have it over.  Oh, I feel that my heart is broken.  This is such a unromantic affliction.  The girls in books lose their hair in fevers or sell it to get money for some good deed, and I’m sure I wouldn’t mind losing my hair in some such fashion half so much. 

 

参考訳:

マリラ、一思いにバッサリ切ってお仕舞にしてくださいな。 でも、胸がつぶれそう。 だって、ちっともロマンティックな苦しみじゃないんですもの。 物語りの中の少女はたいてい熱病で髪を失うとか、良いことのために売ってお金にするとか。 それだったら わたしが髪を切るのもそんなにつらくはないんですけどね。

 

 

⦿村岡花子:“This is such a unromantic affliction.”の訳がすっぽり抜けているが、満点の翻訳と思う。 訳が抜けているのは彼女の意図ではなく、当時頻繁に発令された空襲警報のためと推察します

 「どうかばっさり切って、早くすませてしまってちょうだい、マリラ。ああ、胸がひきさかれるようだわ。本に出てくる女の子はみんな、熱病で髪を切るとか、なにか気高い目的のためにそれを売ってお金にするとかいうんだけれど、あたしもそんなふうにして髪をなくすなら、この半分もつらくはないんだけれど。

 

○松本侑子:原文を大切にした丁寧な翻訳。

 「マリラ、どうか一思いに切って、早くすませて。ああ、胸がはりさけそうだわ。でもこんなことで苦しむなんて、少しもロマンティックじゃないわ。本に出てくる女の子は、熱病や気高い目的のために髪を切るというのに。私もそんな理由で髪を失うなら、半分も気にならないけど、・・・・・

 

○中村佐喜子:いつも江戸っ子的なシャープな翻訳。

 「さっさと切って、ひと思いにすませてちょうだい、マリラ。ああ胸がやぶれるわ。これは全然ロマンティックじゃない苦悶だわ。 物語の少女たちは、熱病で髪を切るとか、よい目的に使うお金を得るために売るとかいうんでしょ。 あたしだってそういうことなら、きっと半分も心がいたまないと思うけど。

 

 

 

 [使用書籍]

1.Anne of Green Gables (Puffin Classics) ペーパーバック – イラスト付き, 2008/9/11

英語版  L. M. Montgomery ()

 

2.赤毛のアン 赤毛のアン・シリーズ 1 (新潮文庫文庫 – 2008/2/26

ルーシー・モード・モンゴメリ (), 村岡花子(訳)

 

3.赤毛のアン (文春文庫  4-1) 文庫 – 2019/7/10

LM・モンゴメリ (), 松本 侑子 (翻訳)

 

4.赤毛のアン (角川文庫文庫 – 1957/11/30

モンゴメリ (), Lucy Maud Montgomery (原名)

中村佐喜子(翻訳)