村上春樹の「裁判所に行こう」という超真面目なお話。あなたも裁判員?

 

 

 

あなたは裁判員を務めたことってありますか? 僕はまだありません。

 

アメリカにいるときに、陪審員の召喚状をときどき受け取った。米国市民権を持たない人は陪審員になれないので、そのつど断りの理由を書いて書類を返送したけど、何度もそういう通知があったところをみると、アメリカ市民はかなり頻繁に陪審員の義務を果たしているみたいだ。

 

「面倒だし時間もとるし、勘弁してほしいよ」とこぼす人は多かったけど。

 

 

日本の陪審員制度については賛否両論あるけれど、僕は基本的には良いことだと思っています。

 

というのは、裁判陪審員制度が導入される前の裁判を僕はよく傍聴していたから。まだ実際の裁判を体験したことのない方は、一度見学に行かれるといいと思います。

 

テレビ・ドラマの裁判なんかとはずいぶん違う。

 

僕がいくつかの裁判を傍聴して個人的に強く感じたのは、

 

「何があっても、刑事裁判にかけられる事態だけは避けなくては」

 

ということだった。

実物を見ればわかると思うけど、現行の裁判制度はとても完全とは呼び難いものです。裁判官や検事や、弁護士 の中には、優秀で高潔そうな人もおられるけどその一方

 

「こいつ、かなりやばいかも」「もう少し常識があってもいいんじゃないか」

 

と首を傾げたくなるような人々もたまに見かける。

 

裁判にかけられ、運悪くそんな裁判官に当たったりしたら、これはもう悲劇でしかない。

 

だから僕は法律には極力逆らわないように心がけています。ドラッグもやらない、飲酒運転もやらない。いや、ほんとに。

 

 

普通なら裁判所になんてまず足を運ばない一般市民が裁判員に選ばれ、裁判に参加し、その運営の実態を前にして、僕みたいに「被告席にだけは座らないようにしなくちゃな」と決意を固めるとしたら、それは社会にとって健全な事だと思う。そのぶん犯罪も減るわけだし。

 

 

でもそんな僕も、裁判員に 死刑判決までを委ねる現行のシステムにはいささか疑問を感じます。一般市民に具体的な量刑まで決定させるのは、ちょっと酷じゃないか、と。

 

 

ここに一人の原告がいます。二十一歳の男性で失業中、世田谷区の住宅に侵入し、

奥さんと五歳の娘 を台所の包丁で刺殺した。

犯行当時、一種のノイローゼ状態にあった。

本人は有罪を認め、今では自らの行動を悔いている。

 

 

(ケースA):残された夫は涙ながらに裁判員に訴える。「これほどむごい犯罪はない。私は人生で最も大切な二つのものを奪われてしまいました。どうか犯人を死刑にして下さい。こんな人間に生きている値打ちはありません」

 

 

(ケースB):残された夫は涙ながらに裁判員に訴える。「これほどむごい犯罪はない。私は人生で最も大切な二つのものを奪われてしまいました。しかし、どうか犯人を死刑にしないで下さい。私はもうこれ以上、人の死を目にしたくないのです」

 

 

あなたが裁判員だとしたら、それぞれにどのような判決を選びますか? 

 

もし仮にAとBで違う判決が選ばれるとしたら、「刑罰の倫理性」とか、そういうものはどこにあるのだろう?  

 

これってずいぶん難しい問題だと思いませんか。

 

 

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1年前の今日、わたしが upload したブログです。昭和35年頃の水着美女写真。

1年前の今日あなたが書いた記事があります

日本の、世界のディープな街を村上春樹・吉本由美・都築響一の3人で訪れ、話をし、そして書いている。

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使用書籍

サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3 ハードカバー – 2012/7/9

村上 春樹 (著), 大橋  (イラスト)