『赤毛のアン』再訪:第3回目 マシューがアンの話を聞いている際の不思議な心持。
マシューはアンの止むことのない話を聞いているうちに、自分がこの女の子の話を楽しんでいることに気が付きます。そしてアヴォンリーの子どものようには、アンが自分をまったく煙たがってないことに驚きます。
[英語原文] page 21, line13
Matthew, much to his own surprise, was enjoying himself. Like most quiet folks he liked talkative people when they were willing to do the talking themselves and did not expect him to keep up his end of it.
But he had never expected to enjoy the society of a little girl. Women were bad enough in all conscience, but little girls were worse. He detested the way they had of sidling past him timidity, with sidewise glances, as if they expected him to gobble them up a mouthful if they ventured to say a word. This was the Avonlea type of well-bred little girl.
※ But this freckled witch was very different, and although he found it rather difficult for his slower intelligence to keep up with her brisk mental processes he thought that he ‘kind of liked her chatter’.
So he said as shyly as usual: ‘Oh, you can talk as much as you like. I don’t mind.’
単語意味:
own surprise(自分自身での驚き):talkative(おしゃべり):keep up his end of it(相槌を打つ:参考、keep up one’s end;会話での義務をはたす⇒相槌を打つこと):the society of a little girl(この女の子の世界):conscience(善悪の観念、良心):worse(なお悪い、いっそう悪い):detested(嫌う;記憶法, test を嫌う):timidity(臆病、内気):sidewise glances(横に一べつ):gobble(丸呑みする):a mouthful(ひと口で):ventured to say(思い切って言う;venture,冒険):well-bred(良い躾を受けた):freckled witch(そばかすだらけの魔女):slower intelligence(のんびりした知性):brisk(活発な):kind of liked(好きっぽい):as shyly as usual(いつものように恥ずかしげに)
[日本語訳] 今回は、松本侑子訳より。ページ29、8行目
驚いたことに、マシューは愉快になっていた。彼は無口な人の常として、相槌を求められないなら、口達者な人が気ままに話しているのを聞くのが好きだった。
しかし女の子相手に楽しめるとは意外だった。 彼は女性というだけで苦手だが、少女はさらに不得手だった。女の子ときたら、まるで思いきって声をかけたら、マシューがぱくっと噛みつきでもするかのように、横目でマシューの様子をうかがいながら体を斜めにしてびくびくしながら通りすぎるのだった。 マシューはそれが嫌で仕方なかったが、アヴォンリーの育ちの良い少女は、皆そうだった。
しかし、この雀斑(そばかす)だらけの風変わりな子どもは、違っていた。 のんびりした彼の頭では、女の子の目まぐるしい話の展開についていくのが大変だったが、「この子のおしゃべりは 気に入ったわい」と思っていた。
そこで、いつものように照れながら言った。
「好きなだけ話していいよ。わしはかまわんからな」
白い桜の花の並木通りを過ぎて・・・・
※:三人の翻訳の違い;
But this freckled witch was very different, and although he found it rather difficult for his slower intelligence ~
◎松本:
しかし、この雀斑だらけの風変わりな子どもは、違っていた。 のんびりした彼の頭では、
○中村:
ところがこの そばかすだらけの やんちゃ児は全然ちがった。彼の のろい頭の廻転では、
△村岡:
ところがこの、そばかすだらけの こどもはまったく、ちがっていた。そしてマシューの のろい頭の動きでは~、
「witch:魔女」 と 「slower」 をどのように翻訳しているのか、三者三様です。
まず、「witch」ですが、わたしは松本さんの「風変わりな子ども」が最適だと思いました。中村さんの「やんちゃ児」も悪くないのですが、女の子ですのでちょっと違和感が。村岡さんの「こども」もシンプルで悪くないような気もしますが・・・・原文が「witch:魔女」ですので。
次に「slower」をどう翻訳するのか。これは「のんびりした」の松本訳が断トツです。「のろい頭」とした中村、村岡にはちょっと違和感を・・・・。 TVアニメでの「マシュー」の映像擦り込み効果は絶大です。 加えて、LGBTQ の時代背景と。
[参考書籍]
1.Anne of Green Gables (Puffin Classics) ペーパーバック – イラスト付き, 2008/9/11
英語版 L. M. Montgomery (著)
2.赤毛のアン 赤毛のアン・シリーズ 1 (新潮文庫) 文庫 – 2008/2/26
ルーシー・モード・モンゴメリ (著), 村岡花子(訳)
3.赤毛のアン (文春文庫 モ 4-1) 文庫 – 2019/7/10
4.赤毛のアン (角川文庫) 文庫 – 1957/11/30
モンゴメリ (著), Lucy Maud Montgomery (原名)
中村佐喜子(翻訳)