『ノルウェイの森』での 「小林 緑」の ファンは非常に多い! 直子よりも・・・?

 

 

 

この物語ノルウェイの森では、の象徴として直子が呈示されている?

 

そもそも『ノルウェイの森』の先頭に、

 

 の対極としてではなく、その一部として存在している」

 

とありますし・・・・。

 

 

ただここでは、を主役にとりあげてみます。

 

「緑」 のキャラクターは出色です。

とりわけ彼女のくりだす言葉の鮮度には驚かされます。これまで、どんな女の子の口からも発せられたことのない、しかしミドリならありうる発言なのです。村上の小説おける人物の立ち上げ方には、いつも感心させられます。 

 

以下に、ミドリ(緑)が発する秀逸?な 「ぶっ飛びセリフ」を、いくつか抜粋してみます。

たくさんの(優れた)作家が世界中にいるが、人間性から滲み出た “すっとぼけた会話” というのは なかなかないものです。 仮に、村上の文章・文体を真似ることができたとしても、彼のヒューモアを真似することはほぼ不可能だと思います。

 

ヒューモア は、村上の特異な シグニチャー でしょう。

(シーモア は サリンジャー のシグニチャー?)

 

 

〈上巻〉

1.       主人公(ワタナベ君)に「とても良く似合っていると思うな。きっと頭のかたちが良いんだね。耳もきれいに見えるし」と言われて。

 

そうなのよ。わたしもそう思うのよ。坊主にしてみてね、うん、これも悪くないじゃないかって思ったわけ。でも男の人って誰もそんなこと言ってくれやしない。・・・・・どうして男の人って髪の長い女の子が上品で心やさしくて女らしいと思うのかしら?

私なんかね、髪の長い下品な女の子 二百五十人ぐらい知ってるわよ、本当よ

 

 

2.       主人公とミドリ〈小林 緑〉の会話。

 

「緑色は好き?」

「どうして?」

「緑色のポロシャツあなたが着ているからよ。だから緑色は好きかって訊いているのよ」

「特に好きなわけじゃない。なんだっていいんだよ」

「『特に好きなわけじゃない。なんだっていいんだよ』」と彼女はまた繰り返した。

「私、あなたのしゃべり方すごく好きよ。 きれいに壁土を塗ったみたいで。これまでにそう言われたことある、他の人から?」

ない、と僕は答えた。

 

 

 

3.       ほぼ同じシーン。主人公とミドリとの会話。

 

「ありがとう。ねえ、ワタナベ君、あさって学校にくる?」

「来るよ」

「じゃあ、十二時にここに来ない? ノート返してお昼ごちそうするから。別に ひとりでごはん食べないと消化不良おこすとか、そういうんじゃないでしょう?

「まさか」と僕は言った。 「でもお礼なんかいらないよ。 ノート見せるくらいで」

「いいのよ。私、お礼するのが好きなの。 ねえ、大丈夫? 手帳に書いとかなくて忘れない?」

 

 

 

4.       (懐かしい)ゲバ学生に占拠された教室から、抜け出して

ここは、例外的に、緑のセリフではなく、主人公の科白です

 

「べつにかまわないよ。僕は時間のあり余っている人間だから」

「そんなに余ってるの?」

「僕の時間を少しあげて、その中で君を眠らせてあげたいくらいのものだよ」

緑は頬杖をついてにっこり笑い、僕の顔を見た。「あなたって親切なのね」

 

 

 

5.4.のつづき。

 

なるほど、という風に彼女は二、三度肯き、またブレスレットをいじった。「そうね、そういうの思いつかなかったわ。あなたの電話番号そうすれば調べられたのにね。でも その病院のことだけど、また今度話すわね。今あまり話したくないの。ごめんなさい」

「かまわないよ。なんだか余計なこと訊いちゃったみたいだな」

ううん、そんなことないのよ。私が今すこし疲れているだけ。 雨にうたれた猿のように疲れているの

「家に帰って寝た方がいいんじゃないかな」と僕は言ってみた。

「まだ寝たくないわ。少し歩きましょうよ」と緑は言った。

 

 

 

6.ふたりは四ツ谷駅の前を通りすぎ、緑が高校時代に通っていた学校の前まで来てしまった。

 

二人で公園のベンチに座って彼女の通っていた高校の建物を眺めた。

「ワタナベ君、あの煙なんだかわかる?」突然緑が言った。

わからない、と僕は言った。

「あれ生理ナプキン焼いているのよ」

「へえ」と僕は言った。 それ以外に何と言えばいいのかよくわからなかった。

「生理ナプキン、タンポン、その手のもの」と言って、緑はにっこりした。「みんなトイレの汚物入れにそういうの捨てるでしょ、女子高だから。それを用務員のおじいさんが集めてまわって焼却炉で焼くの。それがあの煙なの」

 

 

 

7.緑の高校時代の思い出を緑が語る。

 

「ねえ、私って無遅刻・無欠席で表彰までされたのよ。そんなに学校が嫌いだったのに。どうしてかわかる?」

「わからない」と僕は言った。

「学校が死ぬほど嫌いだったからよ。だから一度も休まなかったの。負けるものかって思ったの。一度負けたらおしまいだって思ったの。一度負けたらそのままずるずる行っちゃうじゃないかって怖かったのよ。三十九度の熱あるときだって這って学校に行ったわよ。先生が、おい小林具合悪いんじゃないかって言っても、いいえ大丈夫ですって嘘をついてがんばったのよ。それで、無遅刻・無欠席の表彰状とフランス語の辞書もらったの。だからこそ私、大学でもドイツ語をとったのよ。だってあの学校に恩なんてきせられちゃたまらないもの。そんなの冗談じゃないわよ

 

 

 

8.高校時代の思い出話。つづき。

 

「高校一年生のときにわたし どうしても卵焼き器が欲しかったの。だしまき卵をつくるための細長い銅のやつ。それで私、新しいブラジャーを買うためのお金を使ってそれを買っちゃったの。 おかげでもう大変だったわ。だって私三か月くらい たった一枚のブラジャーで暮らしたのよ。信じられる? 夜に洗ってね。 一生懸命乾かして、朝にそれを着けてでていくの。乾かなかったら悲劇よね。これ。 世の中で何が哀しいって 生乾のブラジャーつけるくらい哀しいことないわよ。 もう涙がこぼれちゃうわよとくにそれが、だし巻卵焼きのためだなんて思うとね

 

 

 

9.高校時代の思い出話。つづき。二人の会話。

 

「苺のショート・ケーキを窓から投げることが?」

「そうよ、私は相手の男の人にこう言ってほしいのよ。『わかったよ、ミドリ。僕がわるかった。君が苺のショート・ケーキを食べたくなくなることくらい推察するべきだった。 僕はロバのウンコみたいに馬鹿で無神経だった。おわびにもう一度なにか別のものを買いに行って来てあげよう。 何がいい? チョコレート・ムース、それともチョコレート・ケーキ?』」

「すると どうなるの?」

「私、そうしてもらったぶんきちんと相手を愛するの」

「ずいぶん理不尽な話みたいに思えるけどな」

 

 

 

10.緑の家で食事も終え、火事も収まり、その日最後の会話。

 

「一日中家の中にいて電話を待ってなきゃいけないなんて本当に嫌よね。 一人きりでいるとね、体が少しづつ腐っていくような気がするのよ。 だんだん腐って溶けて最後には緑色のとろっとした液体だけになってね、地底に吸い込まれていくの。 そして後には服だけが残るの。 そんな気がするわね、一日じっと待っていると」

「もし電話待ちをするようなことがあったら一緒につきあうよ。昼ごはんつきで」と僕は言った。

「いいわよ。ちゃんと食後の火事も用意しておくから」と緑は言った。

 

 

 

〈下巻〉

11.京都山奥で療養中の直子に会い。次週の大学で主人公と緑との会話。

ドイツ語の授業が終わると我々(主人公と緑)はバスに乗って新宿の町に出て、紀伊国屋の裏手の地下にあるDUGに入ってウォッカ・トニックを二杯づつ飲んだ。

 

「そんなにお昼から飲んでるの?」

「たまによ」と緑はグラスに残った氷をちゃかちゃか音を立てて振った。「たまに世の中が辛くなると、ここに来てウォッカ・トニックを飲むのよ」

「世の中が辛いの?」

「たまにね」と緑は言った。「私には私でいろいろな問題があるのよ」

「たとえばどんなこと?」

「家のこと、恋人のこと、生理不順のこと―――いろいろよね」

「もう一杯飲めば?」

「もちろんよ」

 

 

 

12.バー-DUGでウォッカ・トニックを飲みながらの会話。

 

「何もかも放り出して誰も知っている人のいないところに行っちゃうのって素晴らしいと思わない? 私ときどきそうしたくなっちゃうのよ、すごく。だからもしあなたが私をひょいとどこか遠くに連れてってくれたとしたら、私あなたのために牛みたいに丈夫な赤ん坊をいっぱい産んであげるわよそして、みんなで楽しく暮らすの。床の上をころころと転げまわって」

僕は笑って三杯目のウォッカ・トニックを飲み干した。

「牛みたいに丈夫な赤ん坊はまだそれほど欲しくないのね?」と緑は言った。

 

 

 

13.DUGでウォッカ・トニックを飲みながらの会話。前からの続き。

  

「いいのよべつに、欲しくなくたって」と緑はピスタチオを食べながら言った。 「私だって昼下がりにお酒飲んで あてのないこと考えてるだけなんだから。何もかも放り投げてどこかに行ってしまいたいって。 それにウルグアイなんか行ったって どうせロバのウンコくらいしかないのよ

「まあそうかもしれないな」

「どこもかしこも ロバのウンコよ。ここにいたって、向こうに行ったって。世界はロバのウンコよ。ねえ、この固いのあげる」緑は僕に固い殻のピスタチオをくれた。

 

 

 

14.新宿DUGでウォッカ・トニックを飲みながらの会話。 前からの続き。

少しだけ、性的な会話が入りますので、ダメな方はスキップしてください。

 

「『・・・・私そういうのってけっこう堅いのよ。だからやめてお願い』って言うの。でもあなたはやめないの」

「やめるよ僕は」

「知ってるわよ。でもこれは幻想シーンなの。だからこれはこれでいいのよ」と緑は言った。「そして私にばっちりと見せつけるのよ、あれを。そそり立ったのを。私直ぐに目を伏せるんだけど、それでもちらっと見えちゃうのよね。 そして言うの、『だめよ、本当に駄目、そんなに大きくて固いのとても入らないわ』って」

「そんなに大きくないよ。普通だよ」

「いいのよ、べつに。幻想なんだから。するとね、あなたはすごく哀しそうな顔をするの。そして私、可哀そうだから慰めてあげるの。よしよし、可哀そうにって

「それがつまり君が今やりたいことなの?」

「そうよ」

「やれやれ」と僕は言った。

 

 

 

15.五時半になると緑は食事の支度があるのでそろそろ家に帰る、と言います。

僕は、新宿駅まで緑を送り、そこで別れた。

 

「ねえ、いま私が何をやりたいかわかる?」と別れ際に緑が僕に訊ねた。

「見当もつかないよ、君の考えることは」と僕は言った。

「あなたと二人で海賊につかまって裸にされて、体を向い合せにぴたりと重ね合わせたまま紐でぐるぐる巻きにされちゃうの」

「なんでそんなことをするの?」

変質的な海賊なのよ、それ」

「君の方がよほど変質的みたいだけどな」と僕は言った。

「そして一時間後には海に放り込んでやるから、それまでその格好でたっぷり楽しんでなって船倉に置き去りにされるの」

「それで?」

「私たち一時間たっぷり楽しむの。ころころ転がったり、体をよじったりして」

「それが、君のいちばんやりたいことなの?」

「そう」

「やれやれ」と僕は首を振った。

 

 

 

16.日曜日の朝九時半に緑は僕を寮に迎えに来た。

 

「これから顔を洗って髭を剃ってくるから十五分くらい待っててくれる」と僕は言った。

「待つのはいいけど、さっきからみんな私の脚をじろじろ見てるわよ」

「あたりまえじゃないか。男子寮にそんな短いスカートはいてくるんだもの。見るにきまってるよ、みんな」

「でも大丈夫よ。今日のはすごく可愛い下着だから。ピンクの素敵なレースの飾りがついてるの。ひらひらっと」

そういうのが余計にいけないんだよ」と僕はため息をついて言った。・・・・緑を寮の外に連れ出した。冷や汗が出た。

「ねっ、ここにいる人たちがみんな マスターベーション してるわけ? シコシコって?」と緑は寮の建物を見上げながら言った。

「たぶんね」

 

 

 

17.ふたりは お茶の水 にある大学病院に入院している緑の父親を見舞いに行きます。

緑は、父親の入院中の世話をしていることに対しての親戚の発言に怒りを感じている。

 

「・・・・・『ミドリちゃんは元気でいいわね』だもの。みんなは私のことを荷馬車引いてるロバか何かみたいに思っているのかしらいい年をした人たちなのに どうしてみんな世の中の仕組みってものがわからないのかしら、あの人たち? 口でなんて 何とでも言えるのよ。 大事なのはウンコをかたづけるか かたづけないかのよ 私だって傷つくことはあるのよ。私だって ヘトヘトになることはあるのよ。私だって泣きたくなることはあるのよ。・・・・・お姉さんだってこんな状態じゃ結婚式だってあげられないし」

 

 

 

18.前に会ってからしばらく経ったある日、主人公の寮の部屋に、電話がかかっていることを知らせるブザーが鳴った。主人公は、泥のように眠っていた。 緑からの電話です。

「上野駅、今から新宿にでるから待ちあわせない?」

 

バー DUGに着いたとき、緑はすでにカウンターの端に座って酒を飲んでいた。緑は何やかやで非常に疲れています。彼氏ともうまくいっておりません。喧嘩中なのです。

 

「だいたいタンポン事件以来、私と彼の仲はいささか険悪だったの」と緑は言った。

「タンポン事件?」

「うん、一ヵ月くらい前、私と彼と彼の友だちの五,六人くらいでお酒飲んでてね、私、うちの近所のおばさんがくしゃみしたとたんにスポッとタンポンが抜けた話をしたの。おかしいでしょ?」

「おかしい」と僕は笑って同意した。

「みんなにも受けたのよ。すごく。でも彼は怒っちゃったの。 そんな下品な話をするなって。それで何かこうしらけちゃって」

「ふむ」と僕は言った。

「良い人なんだけど、そういうところが偏狭なのと緑は言った・

 

 

 

19. 18.と同じ状況での会話。

 

「私ってあまりセクシーじゃないのかな、存在そのものが?」

「いや、そういう問題じゃないんだ」と僕は言った。 「何ていうかな、立場の問題なんだよね」

「私ね、背中がすごく感じるの。指ですっと撫でられると」

「気をつけるよ」

「ねえ、今からいやらしい映画館に行かない? ばりばりの いやらしいSM」と緑が言った。

 

 

 

20. ふたりで成人映画を観ながらの静かな ひそひそ会話です。 どこを切り取っても「ぶっ飛び会話」ですが、あまり酷くないのを少しだけ抜粋しておきます。

 

「ねえ、ワタナベ君?」と緑が訊ねた。「そういうの見てると立っちゃう?」

「まあ、そりゃときどきね」と僕は言った。「この映画って、そういう目的のために作られているわけだからさ」

「それでそういうシーンが来ると、ここにいる人たちのあれがみんなピンと立っちゃうわけでしょ? 三十本か四十本、一斉にピンと? そういうのって考えるとちょっと不思議な気がしない?」

 

 

 

21.ふたりは、映画を楽しんだあと、どこかのバーに入って、僕はウイスキー、緑はわけのわからないカクテルを,四杯飲んだ。店を出ると、緑が木登りがしたいと言いだした。

 

「このへんに木なんてないよ。それにそんなにふらふらしてちゃ木になんてのぼれないよ」と僕は言った。

「あなたっていつも分別くさいこと言って人を落ち込ませるのね。酔っ払いたいから酔っ払ってるのよ。 それでいいじゃない。 酔っ払ったって木登りくらいできるわよ。 ふん。 高い木の上にのぼっててっぺんから蝉みたいにおしっこしてみんなにひっかけてやるの」

「ひょっとして君、トイレに行きたいの?」

「そう」

 

 

 

22.僕らは山手線で大塚まで行き、小林書店のシャッターを上げた。家に入っての会話。危険な会話ばかりですので、許される部分を。

 

「なんでまた?」といささか唖然として質問した。

「なんとなく見せたかったのよ。だって私という存在の半分はお父さんの精子でしょ? 見せてあげたっていいじゃない。これがあなたの娘ですって。まあ、いささか酔っ払っていたせいわあるけど」

「ふむ」

「お姉さんがそこに来て腰抜かしてね。 だって私がお父さんの遺影の前で裸になって股広げているんですもの、そりゃまあ驚くわよね」

「まあ、そうだろうね」

 

 

 

23.主人公は緑の家に泊まることになり、緑が眠りにつくまで話し相手になっております。ここも、主人公の会話です。

 

「すごく可愛いよ」

「ミドリ」と彼女は言った。「名前をつけて言って」

「すごく可愛いよ、ミドリ」と僕は言いなおした。

「すごくってどれくらい?」

「山が崩れて海が干上がるくらい可愛い」

緑は顔を上げて僕を見た。「あなたって表現がユニークねえ」

「君にそう言われると心が和むな」と僕は笑って言った。

「もっと素敵なこと言って」

「君が大好きだよ。ミドリ」

「どれくらい好き」

「春の熊くらい好きだよ」

 

 

 

24.新学期(学年)になっても僕の心は直子のことで一杯です。大学に行って。

 

「ねえ、どうしたのよ、ワタナベ君?」と緑は言った。 「ずいぶんやせちゃったんじゃない、あなた?」

「そうかな?」と僕は言った。

「やりすぎたんじゃない、その人妻と?」

僕は笑って首を振った。「去年の十月の始めから女と寝た事なんて一度もないよ」

緑はかすれた口笛を吹いた。「もう半年も、あれやってないの? 本当?」

「そうだよ」

「じゃあ、どうしてそんなに痩せちゃったの?」

「大人になったからだよ」僕は言った。

 

 

 

25.主人公と緑の大学での会話つづき。

 

「元気ないのね?」

「元気を出そうとはしているんだけれど」

「人生はビスケットの缶だと思えばいいのよ」

僕は何度か頭を振って緑の顔を見た。「たぶん僕の頭が悪いせいだと思うけれど、ときどき君が何を言っているのかよく理解できないことがある」

 

*:緑の髪がやっとのび、素敵な髪形を決めて主人公の新しい一軒家に泊まるためのパジャマまで持ってきたのに。 僕は まったく気が付かず、彼女の心を深く傷つけてしまいます。

 

 

26.喧嘩から二ヶ月後の六月、緑は自分が彼氏と別れた旨を主人公に話します。

 

「どうして」

「どうして?」と緑は怒鳴った。 あなた頭おかしいんじゃないの? 英語の仮定法がわかって、数列が理解できて、マルクスが読めて、なんでそんなことわかんないのよ? なんでそんなこと訊くのよ? なんでそんなこと女の子に言わせるのよ? 彼よりあなたの方が好きだからに決まってるでしょ。 私だってね。もっとハンサムな男の子好きになりたかったわよ。 でも仕方ないでしょ、あなたのこと好きになっちゃったんだから」

 

 

 

27.六月の大学でのふたりの会話のつづき。緑は主人公を許しております。緑の方も主人公以上に、とても哀しい思いをしていたのです。

 

「ねえ、私は生身の血のかよった女の子なのよ」と緑は僕の首に頬を押しつけて言った。 そして私はあなたに抱かれて、あなたのことを好きだってうちあけているのよ。 あなたがこうしろって言えば私なんだってするわよ。 私多少むちゃなところあるけど正直でいい子だし、よく働くし、顔だってけっこう可愛いし、おっぱいだって良い形しているし、料理もうまいし、お父さんの遺産だって信託預金にしてあるし、大安売りだと思わない? あなたが取らないと私そのうちどこかよそに行っちゃうわよ」

 

 

 

28.ふたりは地下鉄を乗り継いで茗歩谷にある、緑の新しいアパートまで行った。そこで二人は、愛を確認しあいます。

 

緑は肯いて布団の中でもそもそとパンティーを脱いでそれを僕のペニスの先にあてた。 

「ここに出してもいいからね」

「でも汚れちゃうよ」

「涙が出るからつまんないこと言わないでよ」と緑は泣きそうな声で言った。「そんなの洗えばすむことでしょう。遠慮しないで好きなだけ出しなさいよ。気になるんなら新しいの買ってプレゼントしてよ。それとも私のじゃ気に入らなくて出せないの?」

「まさか」と僕は言った。

「じゃ出しなさいよ。いいのよ出して」

 

 

 

29.これが緑の登場する、ほぼ最後の会話シーンです。

 

夕方になると彼女は近所に買い物に行って、食事を作ってくれた。僕らは台所のテーブルでビールを飲みながら天ぷらを食べ、青豆のごはんを食べた。

「沢山食べていっぱい精子をつくるのよ」と緑は言った。「そしたら私がやさしく出してあげるから」

「ありがとう」と僕は礼を言った。

 

 

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村上春樹翻訳『グレート・ギャツビーを追え』について。

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[使用書籍]

ノルウェイの森  上・下巻 (講談社文庫) ペーパーバック – 2004/9/15

村上 春樹 (著)