第35回:「赤毛のアン」 アンの成長と巣立ち、アンを手離すマリラの悲しみ。
薄緑の生地は優雅な夜会服に縫いあがりました。
それにはエミリーの趣味で、許す限りのタックやフリルやシャーリングがついていた。 アンはある晩、マシューとマリラのためにそれを着て台所で、詩「乙女の誓い:The Maiden’s Vow 」 を暗唱します。
Maiden (処女の、未婚の:発音 メイドゥン)
[英語原文]
As Marilla watched the bright, animated(生き生きした) face and graceful(優美な) motions her thoughts went back(戻る、帰る) to the evening Anne had arrived at Green Gables, and memory recalled(思い出させる) a vivid picture of the odd(奇妙な:しつこいですが、発音は アッド), frightened child in her preposterous(途方もない、ばかげた、妙な) yellowish-brown wincey(綿毛交織物、ウィンシィ織) dress, the heartbreak(悲嘆) looking out of her tearful(涙ぐんだ) eyes. Something in the memory brought tears to Marilla’s own eyes.
👆 ここを少し真面目に和訳すると:「その記憶の中の何かが、マリラの目を涙でいっぱいにしていた」
下の [日本語訳ピンク部:松本さん] での意訳のほどが分かっていただけると思います。 村岡さんの訳では「思いだしているうちに、マリラの目にも涙があふれてきた」。 ♪ むかしの「あなたならどうする?」っていう歌を思い出しました。
‘I declare, my recitation has make you cry, Marilla,’ said Anne gaily(陽気に) stooping(体を前に屈める) over Marilla’s chair to drop a butterfly kiss on that lady’s cheek.
‘I just couldn’t help thinking of the little girl you used to be(以前は~だった), Anne. And I was wishing you could have stayed a little girl(小さな子供のままだったらなあ!:仮定法過去完了の一種?), even with all your queer ways. You’ve grown up now and you’re going away; and you look so tall and stylish and so – so – different altogether(全然) in that dress – as if you didn’t belong in Avonlea at all – and I just got lonesome thinking it all over.’
‘Marilla!’ Anne sat down on Marilla’s gingham(ギンガム:縞模様の綿布、あるいはリンネル) lap(膝;類例‐ラップトップPC), took Marilla’s lined(シワのある) face between her hands, and looked gravely(重々しく、真剣に;grave, 重要な;gravity, 重力) and tenderly into Marilla’s eyes. ‘ I’m not a bit changed –(略) at heart I shall always be your Anne, ’ (略)
[日本語訳]
晴れやかで生き生きしたアンの顔、優雅な身振りを見ていると、マリラの想いは、アンがグリーン・ゲイブルズにきた晩へと帰っていった。 回想するうちに、あざやかに思い出されたのだった。風変わりな怯えた子供が、粗末に黄ばんだ茶の交織服を着て、泪をためた目に胸が張り裂けそうな表情をうかべていた。 そうした追想にひたっていると、マリラ自身の目にも涙がうかんできた。
「まあ、私の暗唱で泣いたのね、マリラ」アンは嬉しそうにマリラの椅子に身をかがめ、婦人の頬に、蝶が触れるようなキスをした。
「お前さんの小さかった頃を、つい思いだしたのさ、アン。 たとえ変ちくりんなことばかりしてもいいから、前の小さな女の子のままでいてくれたらと思ってね。 それが今じゃ大きくなって、遠くに行ってしまうんだね。それに背丈ものびて、垢抜けて・・・・こんなドレスを着ていると、なんだかすっかり見違えて・・・・まるでアヴォンリーの者じゃないみたいだ。・・・・そんなことを考えていたら寂しくなったんだよ」
「マリラ!」 アンはマリラのギンガム服の膝に座り、しわの寄ったマリラの頬を両手で包み、その目を真剣に、そしてやさしく見つめた。 「私、少しも変ってないのよ。 心の中は、いつまでもマリラの小さなアンなのよ・・・・・・・・」
※:マシューもマリラと同類の感情は抱いているものの、(幸い)男性ですので、今は体の芯からの悲しみは感じておりません(?)。 思春期の男女での成長過程の相違に類似していると思います。たぶん。
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The Maiden’s Vow「乙女の誓い」:
乙女が恋人を愛しぬく覚悟を語る詩。
大人びたアンが恋の詩を朗読したため、マリラは、なおさらアンの成長と巣立ちを感じて涙ぐんだのです。
優美な夜会服の若々しいアン、シワの寄った頬に日常のギンガム服のマリラ。 美しい娘へと育ちゆくアンと、老いゆくマリラの対比を、作者は愛と感動をこめて描いております。
使用書籍
英語で楽しむ赤毛のアン (CD1枚付き) 単行本(ソフトカバー) – 2014/7/18
赤毛のアン 赤毛のアン・シリーズ 1 (新潮文庫) 文庫 – 2008/2/26
ルーシー・モード・モンゴメリ (著), 村岡花子(訳)
赤毛のアン (文春文庫 モ 4-1) 文庫 – 2019/7/10