エッセイ『葡萄』について:村上春樹「ランゲルハンス島の午後」から。西島三重子『池上線』との相動性?

 

 

エッセイ『葡萄』

 

ジャンボ機の墜落 に比べればかなりささやかな事故かもしれないけれど、何年か前に一度台風にあって中央線の列車の中に一晩とじこめられたことがある。

夕方に松本から特急に乗って大月の少し先まで行ったところで、崖崩れのために列車が完全にストップしてしまったのである。

 

※:日本航空123便 墜落事故は、1985昭和60年)8月12日月曜日)、日本航空123便(ボーイング747SR-100型機)が群馬県多野郡上野村の山中ヘ墜落した航空事故

 

*:中央線総武線って、ほぼ並行して走ってますよね。 わたしは友達と、中央線の電車と、総武線とでは、真剣に勝負すればどちらがスピードが出てるかの話をして盛り上がることがあります。友人は、中央線が勝ち総武線の電車が負ける「可哀そうな総武線!?」、と言います。・・・そうなのかな?

 

 

 

夜が明けると台風はすでに去っていたが、線路の復旧作業はなかなか捗らず、我々は結局その日の午後まで列車の中で時間をつぶすことになった。とはいっても僕はもともとが暇だから一日や二日東京に帰るのが遅れたところでまったく支障はない。列車が停まった小さな町を散歩して葡萄を一袋とフィリップ・K・ディックの文庫本を三冊買い、座席に戻って葡萄を食べながらのんびりと読書をした。急ぎの旅をしておられた方には申しわけないと思うけれど、僕なんかにとってはこれはなかなか楽しい経験であった。まとめて本は読める詩、お弁当はもらえるし、特急券は払い戻してもらえる*し、これで文句を言ったらバチが当たりそうな気がする。

 

*:今でもこのシステムあるのかな? むかし学生で、自分が暇だったこともあり、下りた駅でお金をもらえるのは嬉しかったです。記憶では、2時間遅れれば返金してくれたと思います。遅れは、長距離だと結構ありましたから。

 

普通の状況であれば絶対に降りることのないであろう小さな駅で降りて、そこにある小さな町を何の目的もなくぶらぶらと歩くというのもとても気持ちの良いものだ。

名前は忘れてしまったけれど、十五分もあれば端から端まで歩いてしまえそうな所である。郵便局があって、本屋があって、薬局があって、消防の分団のようなものがあって、やたらと運動場の広い小学校があって、犬が下を向いて歩いている。

 

台風が通り過ぎてしまった後の空は抜けるように青く、いたる所にちらばった水たまりに白い雲の姿がくっきりと映っている。

 

葡萄を専門に扱っている問屋のような店の前をとおりかかると、若々しく甘酸っぱい香りが漂ってくる。その店で僕は 葡萄を一袋 買ってフィリップ・K・ディックの小説 を読みながら それを一粒残さず 食べてしまったのだ。

 

 

 おかげ僕の持っている『火星のタイム・スリップ』にはいたるところに葡萄のシミがついている。

       

               【おしまい】

[エッセイ、小説関係なく 村上の情景描写は、いつも上手ですね。いつか、『ノルウェイの森』で抽出(取り上げ)してみます]

 

 

 

わたしは、このエッセイを読むと、西島三重子さんの楽曲『池上線』を思い浮かべてしまう。

 

歌詞を書いてみます。

 

歌詞の中で、たった一ヵ所「フルーツ・ショップ」のところだけなんですけど、何故か わたしには、 この歌がピタリと嵌るのです。 

 

 

 

『池上線』

 

古い電車のドアのそば
二人は黙って立っていた
話す言葉を捜しながら
すきま風に震えて
いくつ駅を過ぎたのか
忘れてあなたに聞いたのに
じっと私を見つめながら
ごめんねなんて言ったわ
泣いてはダメだと胸にきかせて
白いハンカチを握りしめたの
池上線が走る町に
あなたは二度と来ないのね
池上線に揺られながら
今日も帰る私なの

 

 

 

終電時刻を確かめて
あなたは私と駅を出た

角のフルーツショップだけが
灯りともす夜更けに


商店街を通り抜け
踏切り渡ったときだわね
待っていますとつぶやいたら
突然抱いてくれたわ
あとからあとから涙あふれて
うしろ姿さえ見えなかったの
池上線が走る町に
あなたは二度と来ないのね
池上線に揺られながら
今日も帰る私なの

 

 

 

※:西島三重子さんを知らない方のために;

池上線 西島三重子 1976

https://www.youtube.com/watch?v=vo6C8nAksfA

 

西島三重子「池上線~New Version~」【メロディーレコーズ】公式本人映像

https://www.youtube.com/watch?v=IsB7jJS49tQ

 

さっき昼頃、TVで聴いた加藤登紀子さんの『百万本のバラ』、すごかったです。得した気分です。

心が揺さぶられる なんてもんじゃなくて、村上春樹が言うように「体も物理的に偏移させられる」という意味がわかりました。

 

 

去年の今日、わたしが書いたブログだそうです。真面目そのものでした。

 

1年前の今日あなたが書いた記事があります

フィッツジェラルド代表作『グレート・ギャツビー』の野崎孝訳 と村上春樹訳 の比較。

 

 

使用書籍

ランゲルハンス島の午後 (新潮文庫) 文庫 – 1990/10/29

村上 春樹 (著), 安西 水丸 (著)