「そうだ、村上さんに聞いてみよう」:『感想文を書くコツは?』『小説は頭から順番に書かない?』『生理的に我慢できないことは?』・・・・など。かなり、面白いです。

 

 

 

 

質問:「読書感想文を書くコツは?」

 

私は、小学校の教師をしているんですが、この季節になると憂鬱 になります。それは読書感想文コンテストがあるからです。自分で書くわけではないのですが、子供たちにどういうことを書かせればいいのか、分からないんです。

 

子供たちに何も言わずに感想文を書かせると、みんな、延々と粗筋を書いてきます。読んで思ったことや考えたことを書くんだよ、というと今度は

 

「主人公の○○○はえらいと思います。ぼくだったらそんなことはできません」

 

のような、ぼくだったら、わたしだったら・・・・という文章ばかりになってしまうんです。原稿用紙5枚も、その話題だけではもたないですよね。

 

作家の村上さんに聞くのは筋違いのような気もするのですが、読書感想文のこつを是非お教えください。

 

村上さんは、子供の頃、きっと感想文とか、上手だったんでしょうね。

 

 

回答

こんにちは。

 

はっきり申し上げまして、全国の新聞雑誌などに掲載されている、いわゆる「書評」の多くの部分は、あなたの生徒さんが書いているものと、(技術的にはともかく)内容的にはほとんどかわりません。

 

ですから、そのことで子供たちを責めるのはちょっとかわいそうだなという感じはします。あ、まずいかなこんなことを書くと・・・・・まあ、いいや。

 

 

先生としてあなたにできることはいくつかあります。ひとつは、ただ漫然と「本を読んで感想文を書きなさい」というのではなく、テーマやポイントをもう少し細かく限定してあげることです。

 

 

たとえば「誰でもいいから、一人の登場人物を選んで、その人について思ったことを書きなさい」とかそういうことですね。

 

この人は毎日何時に起きて、どんなものを食べて、どんな友達がいるんだろうとか、なんでもいいですから、とにかく子供たちに具体的に考えさせて、想像させるのです。

 

でもテーマを設定したり、ポイントを絞りこんだりするためには、あなたも一生懸命本を読んで考えなくてはなりません。そういうことが大事なのではないかと、僕は(偉そうに)思うのですか。

 

※:「憂鬱」 この漢字難しいです。現在は         PC時代ですからともかくとして、すこし昔では、書くことを(書かれることを?)拒否している漢字(感じ?)です。

これと同類は、「褥瘡」(ジョクソウ)とか「癲癇」(テンカン)とか「顰蹙」(ヒンシュク)とか・・・・・。たくさんあります。

 

ただ、面白いことに、日本人は中国人より、面倒な漢字が けっこう好きという性向があるようです。

ある意味、中国人より漢字を愛しています(中国の 小・中学校、高校で、書道の授業とかあるのかな? 墨をシコシコ磨って・・・たぶん、ありますよね)。 おそらく、日本人と漢字との距離が、偶然にも絶妙だったのでしょう。近からず、遠からず・・・・・  

 

「薔薇」も同類ですけど、これは

 

「わたしに触れないで!! 見るだけ」

 

という感じがあり いいですね。

 

日本人に、

 

「明日から【薔薇】という漢字の使用を法律で禁止します!」

 

とかいうと、時の政権がぶっ飛ぶかも。 まさか、ね。

 

 

 

 

質問:小説は頭から順番に書かない?

 

質問です。『ウォーク・ドント・ラン』「あれは順番に書いていくわけじゃなくて、映画でいえば、シーンごとに撮っていくわけ。それを後で編集する」と、小説の書き方について語っておられます。

今でもそのような書き方をされるのでしょうか。行き当たりばったりで書き進められるのでしょうか?

 

 

回答:

最初の二作(『風の歌を聴け』、『1973年のピンボール』)ではわりにそういうコラージュ な書き方をしていたと思います。

 

でも、『羊をめぐる冒険』からあとは、とにかく頭からどんどん書いていくというストーリー・テリング重視の書き方に、がらっと変わりました。本の内容もそれにつれて一変していると思います。小説を書くのが本当に面白くなってきたのは、そのあたりからです。

 

※: コラージュ(collage)とは,もともとは「coller」というフランス語から由来する言葉で,「のりで貼る」という意味。 写真や絵や文字などを,新聞・雑誌などから切り抜き,これを画用紙やケント紙などの台紙に貼って1つの作品にするもの。

 

 

 

 

 

質問:生理的に我慢できないことは?

 

春樹さんは、生理的、感覚的に我慢できないことってありますか? ガラスを爪で引っ掻く音がイヤっていう人は多いですが・・・。

 

ちなみに、私の夫は発砲スチロールがこすれる「キュッキュッ」という音を聞くと のた打ち回ります。

 

彼は、私が嫌がらせをするとでもすると思ったのでしょう。結婚してしばらくの間も、このことを隠しておりました(新しいテレビを買って箱から出す時にバレた)。

 

もちろん、発砲スチロールがあったら、わざとではないふりをして、わざと「キュッキュッ」ってやってやります。

 私のことも一応書くと、リンゴの皮をむいたり、かじったりするときの「サクッ」がイヤです。鳥肌が立ちます。

 悪用はしませんので是非聞かせてください。

 

 

回答:

我慢できないというほどのこともないんですが、気になることはいくつかあります。

 

 

①  カレーを食べる前に水の中にスプーンをぽちゃんとつける人。

 

②  割り箸をささっとこすりあわせる人。

 

③  おしぼりの袋をぽん! と手で割る人。

 

④  トイレット・ペーパーをすぐに三角形に折る人。

 

⑤  はなをかんで、その成果をまじまじと観察する人。

 

⑥  モンブランの上だけを食べてあとを残す人。

 

⑦  ピアノを見かけると「猫ふんじゃった」を弾く人。

 

⑧  道を歩きながら携帯で喧嘩している人。

 

きりがないので、この辺でやめますけど、とりあえず。

 

 

 

 

 

質問:村上さんは自分の変化をどう思いますか?

 

私は村上さんの本に高校2年生の時に出合いました。もう10年近く前になります。村上さんの何に惹かれたかというと「反社会的」というか「周囲が気にならない」というか「自分は自分、他人は他人」というような「村上像」を抱いていたからです。

 

 しかし、最近の村上さんはこのような質問大会までやってしまうほど「社交的」で、『アンダーグラウンド」を書くような「社会的」な方になっているように感じます。私としてはかこの村上さん好きだったのでこのような疑問を抱いております。歳を重ねることで人間変わっていくのは当たり前であるとは思いますが、御自分では何がどう変わったと感じておられるのか教えて頂ければ嬉しいです(受けての私が変わってしまったとも言えるでしょうが)。

 

 

回答:

僕は今こういうことをしているから「社会化した」というようには考えていません。むしろ逆になっているんじゃないかとさえ考えています(笑い)。つまりむしろ、「非社会化」の方向にみんなを引きずっていこうとしているのではないかと。

 

 

それはまあさておき、いずれにせよ、今ある村上の姿もあくまでかりそめのものです。形のあるものはどんどん過ぎ去っていき、消えていきます。同じ形のまま、留まるものは何一つありません。このホーム・ページだって、そのうちにたぶん消えてしまいます。

 

 

「過去の村上さんが好きだった」ということですが、もし僕が「過去の村上さん」のままだとしたら、逆説的な言い方になりますが、あなたは今頃がっかりしていると思います。なぜなら「村上さん」の本質は変化していく中にあるからです。変化のない「村上さん」は、もはや村上ではないからです。

 

 

あなたの書いていることで、ただひとつ気になったことがあります。それはあなたが僕の事を「反社会的だった」と書いてあることです。

 

僕は一貫して徹底した個人主義でやってきましたが、「反社会的」であったことは一度もありません。

 

僕はこの現存する社会システムと並行するものとして、自己のシステムを営々と築き上げてきただけです。今でもそれと同じことをやっています。僕がこのホームページでやろうとしていることは、あるいは『アンダーグラウンド』の中でやろうとしたことは、かって『世界の終り・・・・』や『ノルウェイの森』でやろうとしたのと、基本的には全く同じことなのです。

 

もしまだ読んでいなかったら、『アンダーグラウンド』をいちど読んでみてください。それがただの「社会化」した本でないことはわかっていただけると思います。僕があの本の中で本当に言いたかったことの一つは、

 

個人が個人としてこの社会の中で生きていくのがどれほど大変なことかということです。

 

僕が地下鉄サリン事件というショッキングな事件を軸にして、てこ にして、そういう人間の営みを細密に描きたかったのです。

 

 今すぐ、あなたにそういう事を理解してくださいとは言いません。ただ僕がそういう考えを持って生きていて、変化しているのだ、ということを、頭の隅にちょっとだけ留めておいてください。勝手な言い分かもしれませんが。

 

 

 

 

[使用書籍]

 

「そうだ、村上さんに聞いてみよう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける200以上の質問 (アサヒオリジナル) ムック – 2000/8/1

村上 春樹 (著)