伊坂幸太郎の小説『ゴールデン スランバー』の魅力について、加えて映画の『ゴールデン スランバー』についても記述することになる。
小説『ゴールデン スランバー』は首相暗殺の濡れ衣を着せられた男の、実質たった二日間ですが壮絶な逃亡劇を描いた作品です。
作品タイトルは、ビートルズの楽曲「Golden Slumbers」《黄金のまどろみ》が由来なのですが、国家権力により犯人にさせられた青柳雅春にとっては、まどろみなどではなくまるで 峻烈な悪夢の時間なのです。 映画ではビートルズの『ゴールデン スランバー』が挿入歌として使われております。
映画 (DVD)、『ゴールデン スランバー』も本当に良い仕上がりです。
原作の小説を映画にすると、「それはないんじゃない?!!」
と、違和感とか軽い怒りで終わる場合が非常に多いのですが、・・・・・これは最高の映画(DVD)です。
小説『ゴールデン スランバー』に戻ります:
仙台市では金田首相の凱旋パレードが盛大に行われていた。その首相がラジコン爆弾で暗殺され、その犯人が青柳雅春であると、何故かあっという間に特定され、犯人の必死の逃走、警察の大追跡がはじまります・・・・・。
事件の中終盤、リポーターたちが大挙して、(無実の)犯人青柳雅春の 薔薇ヶ丘 の実家に押し寄せる場面を記述してみます。
薔薇ヶ丘 の イメージ・プレート
青柳雅春の父親のポリシー:
誰しも、はからずも人を殺めてしまうことがあるかもしれない、だから殺人、それは許そう、ただ痴漢だけは絶対に許さない。
これが、青柳のお父さんの揺るぎないポリシーなのです。息子に小さい時から叩き込んできた教育なのです。冬休みの書道の課題も提出したのは『痴漢は死ね』なのです。
【物語の最終版この事件が一応の解決を見た後、ご両親のもとに差出人無記名の手紙が送られてきます。
その中に同封されていたのが半紙にかかれた書道、懐かしい文字『痴漢は死ね』だったのです。青柳のご両親はその習字をみて(嬉し)涙を流すのですが、犯罪が結末した現在も、青柳宅の監視・保護にきている警察官は「まだそんな嫌がらせをする奴がいるんですね」と、ある意味、同情しているのです】
その息子が今や首相の殺人犯として全国指名手配。
リポーターが、大挙して自宅にまで押し寄せます。
逃亡中の青柳雅春も逃走中の車の中で “ワンセグTV”を、自宅の様子が映し出されているテレビの画面を、偶然見ております。泣きたい気持ちで。懐かしい気持で・・・・。
自宅にテレビ局からと思われるリポーターが大勢:
お父さん、お父さん、とマイクを向ける女性リポーターの声が聞こえます。。
「お父さん、お父さん!」が画面の中で連呼される。
「うるせえな、おまえらは俺の娘でもなけりゃ、息子でもねえだろうが。何がお父さんだよ、ふざけるんじゃないぞ。馴れ慣れしい」
馴染みのある家の前だ。カメラの奥に、玄関の扉があり、その手前に表札のかかった門柱と門扉が見える。前に訪れたのは、去年の年末だった。カメラの正面に立ち、行儀の悪い不良少年さながらに喚いているのは、青柳雅春の父だ。手を大きく振り、「おまえら、何、人んちにずかずか土足で上がりこんでいるんだ」と大声を出していた。
「上がりこんではいないですよ」ワイドショーでときおり見かけたことのあるリポーターが、にやけた笑いを浮かべた。「家の外じゃないですか」
「おまえ名前を言えよ」と青柳雅春の父が顎を出す。相変わらずのぶっきらぼうな言い方だ。
「どうして言わないといけないんですか」
「もう一度言うぞ、おまえらは、そして特におまえは、俺んちに土足で上がりこんで来てる。俺んちっていうのは家の敷地だけじゃねえぞ。俺の気持ちもだ。
俺と、俺の家族のことを犯罪者呼ばわりして」
「息子さんは今、容疑者として手配されています。警察が犯人として認めているんですよ。視聴者や市民からも・・・・・」年齢のはっきりしない女性がマイクを突き出している。
「おまえ、雅春のことをどれだけ知っているんだ? 言えよ。どれだけ詳しいんだよ」
リポーターたちが一瞬、黙った。困ったというよりは、ぶつけるべき言葉の矢を選別しているようでもあった。
「俺は、あいつが素っ裸で生まれて来た時から、知っているんだ。
母ちゃんなんて、あいつのことに関してはもっと詳しい。腹にいた時から知ってんだからな。歩き始めた時も、・・・・・。
昨日今日雅春のことを調べたようなおまえに、何が言い切れる」
「息子さんを信じたい気持ちは分かりますが」
「わかるのか?」青柳雅春の父が短く言い放つ。目はじっと女性リポーターを見ていた。
「信じたい気持ちは分かる? おまえに分かるのか? いいか、俺は信じたいんじゃない。知ってんだよ。俺は知ってるんだ。あいつは犯人じゃないよ」
青柳雅春はテレビの画面から目を離せなかった。鼓動が速くなる。血が血管の中を勢いよく走り、出口を探し、手や足の先を突く。そんな感覚がある・・・・・。
「でも、お父さん・・・・」
「うるせえ、うるせえ」青柳雅春の父が右手を、蠅を追い払うように、振る。
「よし、おまえたち、賭けるか? 俺の息子が本当に犯人かどうか賭けねえか?」
と自分を取り囲むリポーターを一人ずつ指差した。
「名乗らない、正義の味方のおまえたち、本当に雅春が犯人だと信じているのなら、賭けてみろ。
金じゃねえぞ、何か自分の人生にとって大事なものを賭けろ。
おまえたちは今。それだけのことをやっているんだ。俺たちの人生を勢いだけで潰す気だ。
いいか、これがおまえたちの仕事だということは認める。・・・・ただな、自分の仕事が他人の人生を台無しにするかもしれねえんだったら、覚悟はいるんだよ・・・・」
父親は、「おい、そこのカメラ」と明瞭な声を出した。「そっちに向かってしゃべればいいのか?」と訊ねた後で、「おい、雅春。おまえがなかなか出てこないから面倒なことになってるぞ」
「いいか、大変、面倒なことになっております」となぜか、丁寧に言い直した。・・・・そして、父親は続けた。
「なぁ、雅春、ちゃっちゃと逃げろ!」
青柳雅春は胸のあたりから喉元に、重い空気の塊がこみあげてくるのを感じた。そのまま気を抜くと何が起きるのかは想像できた。喉にせり上がった思いが、目を震わせ、そして、まちがいなく涙が出る。・・・・青柳雅春は奥歯を噛む。泣いたらお終いだ。
泣けば、今、自分を動かしている―――それを燃料と呼ぶのであれば―――燃料が確実に少なくなる。
[使用小説、DVD]
1.ゴールデンスランバー (新潮文庫) 文庫 – 2010/11/29
伊坂 幸太郎 (著)
2.ゴールデンスランバー [DVD]
堺雅人 (出演), 竹内結子 (出演), 中村義洋 (監督) 形式: DVD

