BRUTUS特別編集: カンヌ国際映画祭で脚本賞ほか3冠を受賞した、村上原作の映画『ドライブ・マイ・カー』について。

 

BRUTUS特別編集 合本 村上春樹 (マガジン・ハウス・モック) 

「読む。聴く。観る。集める。食べる。飲む。そして、思う。」

 

 

村上春樹の「観る。」より。

国内外を含め、いろいろな映画の賞をもらった『ドライブ・マイ・カー』に関しての、映画監督 濱口竜介さんへのインタビュー。

 

 

『ドライブ・マイ・カー』は、村上春樹の短編集「女のいない男たち」に収められている作品のひとつです。BRUTUS特別編集 合本はもちろんの事、DVD『ドライブ・マイ・カー』も観たくなります。

 

 

原作と映画を見比べる。

~監督たちは、短編をこう変えた。

短編原作映画は改変が面白いという村上さんの言葉を受け、過去5作の原作との違いをネタバレ覚悟で探る。まずは村上さんの感想に「嬉しい」と漏らす濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』から。

 

濱口竜介監督が組み合わせたのは、短編集「女のいない男たち」に収められている3つの短編。

 

―――(聞き手):原作の『ドライブ・マイ・カー』に出合ったのはいつ頃ですか。

 

濱口竜介:初めて読んだのは30代半ばの頃だったと思います。初出の『文芸春秋』に掲載されていたのを人から薦められて読んだんですが、読んでみると、「演じる」という主題や車中の会話を通じで進行していく物語が、それまで自分が取り扱ってきた物語と近かった。当時の自分には村上作品の映画化まったく現実味がなかったですが、これは自分がアプローチできるかもしれない作品かもしれないなと確かに思ったのは覚えています。

 

―――:今回の映画化に際して、初めにプロデューサーから打診されたのは別の短編だったんですよね。

 

濱口:プロデューサーの山本晃久さんがハルキスト(村上主義者)と言ってもいい方で、最初は村上さんの別の短編を提案されたんです。ただ検討はしたものの、正直難しいなと。その時に『ドライブ・マイ・カー』のことを思い出して、あれならできるかもしれませんという話をしたんです。

 

 

 

ポイント1.

『シェラザード』と『木野』の要素はなぜ付け加わったのか?

 

―――:とはいえ、『ドライブ・マイ・カー』は短編だし、自分の映画にするためには膨らます必要があった。

それで「女のいない男たち」に収められた『シェラザード』と『木野』の要素が映画には付け加えられました。構想の段階では、ほかの膨らませ方も検討したりしましたか。

 

濱口:村上さんに映画の許諾を得る手紙をお送りした段階では、今の映画に近い構造になっていました。『ドライブ・マイ・カー』ならできると思った大きなポイントの一つは現実に起こることしか物語の中では起きないからです。基本的にリアリズムをベースにしていて、異世界みたいなところには行ったりしない。それは予算が甚大にあるわけではない映画にとって重要なことでした。一方で村上さんの小説の魅力は、特に長編においては「井戸」を掘るように現実の底に潜在している異界にまで降りていくような感覚にもある。そういった要素が『シェラザード』や『木野』には含まれているので、そのモチーフを借りることで、村上さんが展開しているような世界観に近づけるのではないか、と考えました。

 

 

ポイント2.

原作には描かれていない みさき の物語が独自の展開を見せる理由。

 

―――:『木野』に関しては、そもそも『ドライブ・マイ・カー』の中に『木野』の舞台となるバーが描かれていて、そういった意味でも取り込む必然性はあったのかもしれません。

 

濱口:そうですね、『ドライブ・マイ・カー』を原作の通り映画化したとしても、明確な解決とは感じられない。長編映画を観る観客にとっては、フラストレーションにもなるでしょう。どうすれば物語があるべき終着点に辿り着けるのか、悩ましかったです。

 

 ところが、短編集「女のいない男たち」を読み返すうちに、なんだ『木野』に書いてあるじゃないかと。『木野』はご指摘の通り『ドライブ・マイ・カー』とも明確に繋がった世界で、主人公の状況も重なる。『ドライブ・マイ・カー』の方が順番的には先に書かれているはずですが、「女のいない男たち」を書いていくにつれ、村上さん自身の中で変化がおきた部分が『木野』には書かれているのかなという気がしたので、家福(主人公)が辿り着く場所として採用しました。

 

―――:『シェラザード』 は家福の妻のディテールを補強する形で組み込まれていますよね。

 

濱口:妻の人物像を立体化するのもそうなんですが、妻が遺した何かを高槻が持っているという流れを考えた時に『シェラザード』がぴったりはまったんですね。その何かとは物語である、しかもセックスと結びついたものであると。

 

―――:そうして2つの短編がモチーフとして用いられた一方、(家福が雇った運転手みさき の物語は映画独自の展開を見せています。

 

濱口:彼女の物語が膨らんでいったのは、原作の みさき 自体が謎めいて、とても魅力的なキャラクターだったからです。

 

村上さんが書いた中でも、最も魅力的な一人だと思います。その魅力を損なわずに、自分も映画の中に取り込みたいと思った時、・・・・・。

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【以下続きは、BRUTUS特別編集 合本をどうぞ、悪くないです。本当です。短編小説『ドライブ・マイ・カー』だけでは、映画として、物語の可変性、膨らみが足りないのがよくわかりました。 ドライバー みさき 役の三浦透子さん、本当に存在感あります。

 

 村上は自身のエッセイの中で書いております:女性ドライバーの殆どは、多かれ少なかれ同乗者(主に男性)にある種の緊張を強いる、と。 いくら LGBTQ の世の中とはいえ、これぐらいの二分法はOKでは? ただ、この映画の中の みさき の運転は、まさに完璧なのです。

 平らな面の上に立てて置いた100円玉4個が、運転中も、駐停車でも微動だにしないのです(これは、私の創作です、言うまでもなく)

 

 

 

[使用書籍]

1.BRUTUS特別編集 合本 村上春樹 (MAGAZINE HOUSE MOOK) ムック – 2022/10/25

BRUTUS編集部 (編集)

 

2.ドライブ・マイ・カー  インターナショナル版 [DVD]

西島秀俊 (出演), 三浦透子 (出演), 濱口竜介 (監督)  形式: DVD