主人公の白日夢?『国境の南、太陽の西』のものがたり。物語をご存じない方には、

「何これ?!」って言われるかも知れませんが・・・。

 

ただ、本当に良い 中編小説 です。村上のナンバー・ワンかも。

 

村上の小説? 一度読んでみたけど、なにがなんだか解からなかったyou!!

 

と言う方にも100% わかります。普通のロマンス小説です。

 

 自分が単に、国境の南(生)と太陽の西(死)の狭間に位置しているに過ぎないことに切実さをもって目覚めてしまった主人公の、とりわけ20代後半から、30代全般の 心のゆらぎ の様子を独特の筆致で描写した、村上春樹にしては、いかにも小説らしい小説?!  誰もが楽しむことができる、文芸作品です。 村上の初期に、芥川賞なんて、何度もあげるチャンスがあったのに、・・・・アホですね。(当時の)文壇って。

 

 

[物語の概述]

主人公の心のゆらぎの様子は、主として、小学生高学年の時に知り合い、お互いに好意をもつ “足の少し不自由な女の子” 島本さん との関係を通して描写されることになる。彼女との淡い恋愛感情を含んだ関係は、中学生になって、二人の通学する学校が異なったことから自然消滅のような形になる。

 

 

二人が再会するのは二十代後半、偶然、主人公が街で彼女をみかけ・・・・・・後を追うが、彼女の関係者と思われる「不思議な男」に阻止される。しかも、かなり強引に、物理的に阻止され、封筒に入ったお金 まで無理やり渡される。

 

その後、30代後半、主人公が資産家の女性と結婚し、子供も二人でき、人生の成功者としての生活を営なんでいる。ところが、その主人公が経営しているバーに、雨が静かに降る夜、彼女が現れ、大人の男と大人の女としての―――精神的な関係ですが―――関係が始まる・・・・。

 

 

途中ですが、【私の解釈】:

 

ただ、主人公が恋心を抱く女性 島本さんが、 実在の女性として現実の世界に存在しているのは、実は、中学生に至るまでという フレームワーク  のお話だと、当初(実は今も、かなり)私は思いました。

 

ですから、不思議な男の登場も、男から手渡されたお金の入った封筒も、主人公の夢想なのです。事実、物語の最後で、主人公が 男から渡された封筒の中を改めてみると、そこにはあったはずの(あるいは、あると思おうとしていた)お金は跡形もなく消えていた、・・・・・のです。

 

 

ただ、それだとあまりに主人公が憐れですので(私も、ですけど)、かなり譲歩して:

 

(私は)最後の最後に、車に乗り、二人で逃避行のように箱根 (?) の別荘へ行く、あそこから、実在の彼女はいないというフレームワークに、自分の考え(こころ)を変えました。 哀しい、読者の権利行使です。

 

 

最後に村上は:

 

主人公の心が作り上げた、幻想の彼女という女性との関係を描くことで、男性も女性も「自分は  本当にこれで  本当にここで 良かったのか?」と、(たぶん)ふと考えてしまう “魔の刻” の情景を丹念に、村上春樹流に記述したのでしょう。

 

 

【この文章を読んで、小説ってそんなに勝手に読者の想いを入れることができるものなのって思われた方は、すでに村上の世界に2~3歩 足を踏み入れている方です。

 そして、おそろしいことに、私がここまでダラダラと書いてきたことと全く違う解釈もできてしまうのです。ですから、仮にこの文章を読んで、何をアホなことを、と思う方も 47% くらいはおられると推察します。だから、村上の小説は面白いのです】

 

 

[使用小説]

国境の南、太陽の西 (講談社文庫) 文庫 – 1995/10/4

村上 春樹 (著)