BRUTUS特別編集 合本 村上春樹 (マガジン・ハウス・モック) 

「読む。聴く。観る。集める。食べる。飲む。そして、思う。

2022年インタビュー & 特別寄稿56ページ:より。

 

 

特に、最初(巻頭)の【村上春樹の「思う。」 は、繰り返し読みの価値があります。

この本については、「読む。聴く。観る。集める。食べる。飲む。そして、思う。」とありますように、内容が多岐にわたりますので、今後も何回か取り上げるかもしれません。

 

 

 

村上春樹の「思う。 

 

ロシアのウクライナ侵略が、ほとんど何のロジックもなく、あるいは20世紀のように、

 

プーチンが「景気づけに、さしあたって、あの、でっかい土地をロシアにしてみよう。もともと、おれらの土地なんだから。脅せば、やつら震えあがって、すぐに白旗だぜ」

 

で始めた戦争のことについての話です。もちろん、日本の政治の事でもあります。

 

村上の「思う。」は、以下のような雰囲気で始まります。すこし長めに抜粋してみます。お付き合い下さい。

 

 

村上春樹、あれから1年を語る。

毎月の『村上RADIO』のせいか、いつも身近だが、2021年10の村上春樹特集からのほぼ1年、村上さんの近況を僕らは知らない。いたって平常営業だというものの、パンデミックのこと、戦争のこと、ハワイのこと、そしてヤクルト優勝のこと。村上さんはこの1年の思いを淡々と語り始めました。

 

―――(編集部)去年、10月に『BRUTUS』で村上さんの特集号を作ってからちょうど1年経ったんですけども、そこからの1年がどんなだったか、今日は細かく伺いたいです。急に生活が変わったりはしてないとは思うんですけど。

村上:はい。

 

 

―――去年の10月にちょうど、早稲田大学に村上春樹ライブラリーがオープンしました。

 

村上:ライブラリーはこの1年けっこう忙しかったです。『Authors Alive!』という朗読会やったり、それから『キャンパス・ライブ』という音楽の催しやったり。まあ、一応ライブラリーもいろんな色んな催しが軌道に乗ってきて、面白いことがいろいろできてくるようになって。・・・・・・。

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世界が後退していく印象がすごく強い。

 

―――村上さんがハワイ滞在中くらいの時に戦争が始まったと思うんですが。

 

村上:ちょうどウクライナでの戦争が始まりました。

 

 

―――村上さんは、それこそベトナム戦争があった頃をリアルに感じた世代だと思いますが、今このコロナ禍で世界があまり動いていない時に、また新しい戦争が始まって、どう感じていらっしゃいますか?

 

村上:世界が後退していくという印象がすごく強いですねグローバリズムとか、ああいう流れに世界が強く前に押されていた時代があって、それが急に堰き止められたみたいで、全体に保守化、右傾化している。それはアメリカでも同じ。トランプはいなくなった一方で、トランピズムっていうのはまだすごく強いですからね。日本もね、国民全体がやっぱり保守化しているしね

 

 

―――ええ。そう思います。

 

村上:それは僕らみたいな  60年代末期のカウンター・カルチャーと政治の時代 を生きてきた人間にとってはねやっぱりものすごく虚しい

 

 

―――虚しい?

 

村上:そういう気がします。

そもそも  プーチンが始めた戦争というのは、全くわけがわからないわけじゃない?  でも、そのせいで確実にいろんなことが、世界が変わりつつあるし、日本でも防衛費を倍にしろとかになっているわけで、それでそれに対してみんなそんなに・・・・・。

 

 

―――抵抗してないですよね。

 

村上:声を上げないじゃない。

 

 

―――むしろ肯定しますよね。

 

村上:ねえ。しょうがないみたいな感じで、そのしょうがないイズムみたいなのが、ほんとうにいやだね。

 

 

―――しょうがないイズム。確かにそうかもしれないです。

 

村上:でもね、日本の野党というのは反対しか言わない。国葬反対。反対したってやめるわけがない。だったらそれに対抗する価値を、軸を立てないと駄目なんだけど、それができない。で、僕は例えば赤木俊夫さんのリアル国民葬をずっと提案してるんだけど、誰も耳を貸してくれなくて・・・・。それが情けない。結局ね、グレタ(・トゥーンベリ)さんみたいな人がどこからともなく、ぼっと出てきて、政党に関係なく人が集まってくる。そういう人が出てこないとどうしょうもないですね。ただ、そういう人がなかなか出てくる土壌がないし。

 

 

―――戦争が始まってからの暮らしの中で、村上さんの思考に、まだ終わりのないこの戦争が影響を与えたりしていますか?

 

村上:僕は政治的発言というのは、直接的にはしません。どちらかといえば、自分の書く物語みたいなものに、そういうことを少しずつでも織り込んでいきたいというのが僕の発想だから、そのへんはうまく具体的には言えないですね。影響というのは、空気みたいなものだから、結果的に出ざるを得ないわけですが、ただ、具体的に、例えば反戦物を書くとかね、そういうことは多分ないとは思う。でも、今ある流れに何か対抗しなくてはいけないという気持ちはあります。

 

 

―――『村上RADIO』の「戦争をやめさせるための音楽」という回で、村上さんが、年寄りが勝手に始めた戦争で若い人たちが命を落とすっておっしゃいましたが、まさにその通りで、村上さんらしいコメントだなと思いました。

 

村上:それはもう、ベトナム戦争の時代から言われてることだけど、アメリカの場合は若者と、少数民族が殺されていく。

 

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[使用書籍]

BRUTUS特別編集 合本 村上春樹 (MAGAZINE HOUSE MOOK) ムック – 2022/10/25

BRUTUS編集部 (編集)