伊坂幸太郎、『砂漠』の面白さ。

れた時、愛すべき男、西嶋の言葉を実際に聞いてみたくなります。

 

 

物語の概要:

2001-2005年、アメリカ同時多発テロの頃です。日本が辛うじて経済大国に半身だけ踏みとどまっていた時代です。 今から大体20年前、思春期から大人への途上にある新入生たち、主に5人、西嶋、鳥井、北村、南、東堂、の日々の物語を記している。彼らが、新入学歓迎コンパから、4年生になり卒業するまでのお話です。 卒業できない奴も一人おりますが・・・・。

 

  もちろん、今のこの時代へと続く政治への低関心の萌芽の時代を、そうならざるを得ない―――将来の心配事で頭がいっぱいの時代遷移の故―――そんな厳しさを予感させる情景を記している。 麻雀については、特に丁寧に書き込まれております。

 

物語は大変面白く、年齢とか男女とかに無関係に楽しく、そして時に切ない。読んだ方は、もれなく登場人物の誰かに自分を重ねると思います。仮に、その中に自分がいなかったとしても、クラス・メートの誰かが、そこにはおります。 「あいつと西嶋は同じ感じだった」とか、「美人だったあの娘は、まるで東堂だった」とか。

 

 

どうぞ西嶋のセリフを聞くだけでも良いですから読んでみてください。

 

彼と友達になりたくなりますから。  皆さんにとっての、懐かしい仲間の声も、もれなく、聴こえてくるはずです。

 

 

以下に西嶋の発言の一部を提示しました。

「~なんですよ」というのが、彼の口癖です。

 

[西嶋  語録]

「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」

 

「人間とは、自分と関係のない不幸な出来事に、くよくよすることなんですよ!」

 

そうやって、賢いフリをして、何が楽しいんですか。この国の大半の人間たちはね、馬鹿を見ることを恐れて、何もしないじゃないんですか。 みんな馬鹿を見ることを死ぬほど恐れる、馬鹿ばかりですよ

 

 

三島由紀夫の割腹自殺に対する西嶋の切なさを吐露するシーン。長台詞(せりふ)。かなり切ないです。

 

三島が、そこまでして何かを伝えようとした、という事実が衝撃なんですよ。しかも伝わらなかったんだから、衝撃の二乗ですよ。別に俺は、あの事件に詳しいわけじゃないですけどね、きっと、後で、利口ぶった学者や文化人がね、あれは、演出された自決だった、とか、ナルシストの天才がおかしくなっただけ、とかね、言い捨てたに違いないんですよ。でもね、もっと驚かなきゃいけないのはね、一人の人間が、本気で伝えたいことも伝わらない、っていうこの事実ですよ。 三島由紀夫を、馬鹿、と一刀両断で切り捨てた奴らもね、心のどこかでは、自分が本気をだせば、言いたいことは伝わるんだ、と思っているはずですよ。絶対に。 インターネットで意見を発信している人々もね、大新聞で偉そうな記事を書いている人だって、テレビ番組を作っている人や小説家だってね、やろうと思えば、本心が届くと過信してるんですよ。 今は、本気を出してないだけで、その気になれば、理解を得られるはずだってね。

でもね、三島由紀夫に無理だったのに、腹を切る覚悟でも声が届かなかったのに、そんなところで拡声器で叫んでも、難しいんですよ。ほんとうに、哀しいですよね」

 

つづけて、西嶋は本気で言います。

 

「だから俺は、麻雀で『平和:ピンフ』を上がるんですよ。何度も、何度も上がることで、こっちの本気度を、しつこく、分からせるわけですよ」

 

 

「目の前で手負いの鹿がチータに襲われそうなとき、助けりゃいいんですよ。女性レポーターか何かが、涙を浮かべて『これが野生の厳しさ、自然の摂理です。助けたいけど、野生のルールを破ることになっちゃいますから』なんて、何様なんですか? 野生の何を知っているんですか。自分が襲われたら、拳銃使ってでも、チータを殺すくせに、鹿は見殺しですよ」

 

 

「終わった後で身悶えするのが麻雀じゃないですか。確率だ何だのって分析するのは麻雀じゃなくて、ただの計算じゃないですか」

 

 

以下は、西嶋のセリフではなく、友人の鳩麦さんの言葉ですが。

「思い出って作るものじゃなくて、勝手に、なるもんだよ。いつの間にか気づいたら思い出になってる、そういうものだよ」

 

 

サン=テグジュペリの本から引用しての:卒業式での学長のすてきな言葉。

「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである」

 

 

この『砂漠』という小説の最後の言葉:当然、伊坂幸太郎の言葉です。

 

四月、働きはじめた僕たちは、「社会」と呼ばれる砂漠の厳しい環境に、予想以上の苦労を強いられる。砂漠はからからに乾いていて、愚痴や嫌味、諦観や嘆息でまみれ、僕たちはそこで毎日必死にもがき、乗り切り、そして、そのうちその場所にも馴染んでいくに違いない。

 

 

[使用小説]

砂漠 (実業之日本社文庫) 文庫 – 2017/10/4

伊坂 幸太郎 (著)