ミシシッピって英語で書けますか(Mississippi)?「カンガルー日和」のなかの『眠い』より。

 

 

『眠い』

 

【僕はスープを飲みながら眠りはじめていた。

スプーンが手を放れ、食器のふちにぶつかってコツンというかなり大きな音を立てた。何人かが僕の方を見た。隣の席で彼女が軽く咳払いをした。僕はその場をとりつくろうために、右の手のひらを広げて、それを表に向けたり裏がえしたりして調べるふりをした。いくらなんでもスープを飲みながら居眠りしていたなんて人に知られたくない】

 

こんな文章でこの小説、『眠い』ははじまる。

 

この小説の主人公である「僕」は一緒に暮らしている彼女の命令で結婚披露宴に嫌々出席するはめになった。新婦の友人テーブルなんかに「僕」は座りたくなかった。昨夜眠れなかったためか、あるいは結婚式へのトラウマ的嫌悪感の故かは不明ですが、とにかく無性に眠くなるのです。

 

 

主人公は眠りを遠ざけるため隣の彼女にお願いをします。

 

「スペリングのむずかしそうな単語をひとつ言ってみてくれないかな」と僕は彼女の方を向いてそっと言った。彼女は中学校の英語の先生をしているのだ。「ミシシッピ」と彼女はまわりに聞こえないように小さな声で言った。

 Mississippi と頭の中でつづってみた。sが4つ、iが4つ、pが2つ。奇妙な単語だ。

 

 

披露宴では:

 誰かが誰にも聞いてもらえる見込みのないスピーチを延々と続けていた。人生とか天候とか、そういった類の話だった。僕は再び眠り始めていた。彼女はパンプスの先で僕のくるぶしを蹴った。それでも僕が眠そうなので「パンプスの先にクギでも付けて来るんだったわ」

「悪いとは思うけど、こんなに眠いのは生まれて初めてなんだ」

「どうしてきちんと寝てこなかったの?」

「うまく寝られなかったんだよ。何やかやと考えごとをしていたものだから」

「じゃあずっと考えごとをしていなさい!」

 

 

主人公が、眠くなる性癖について彼女に説明する。

 

「本当のことを言うと、誰かの結婚式に出るたびに眠くなるんだよ」と僕は告白した。「いつもいつも、きまってそうなんだ」

「まさか」

「嘘じゃない。本当にそうなんだ。自分でもよくわけがわからないけど、これまで居眠りをしなかった結婚式がひとつもなかったんだ

 

 

眠気との闘いを終えて、主人公と彼女はやっと帰ることができます。そんな物語の最後。

 

 我々はケーキの箱を抱えて、ホテルの廊下を売店まで歩いた。日曜日の午後で、ホテルのロビーは結婚式の客やら家族連れやらでごったがえしていた。

「ねえ、ところで『ミシシッピ』という単語には本当に四つもsが入っていたっけ?」

「知らないわ、そんなこと」と彼女は言った。彼女の首筋には素敵なコロンの香りがした。

 

 

※:首筋から派生しての話。

  背筋(せすじ)と背筋(はいきん)とは同じ部位を指し、もちろん漢字も同じなのですが、言葉の意図するところはかなり違うことに気が付いていましたか?

 

表現例:

「暗闇の階下を通るとき、背筋(せすじ)がすっと寒くなるような気がした」

「昨日の運動のためか背筋(はいきん)がぱんぱんに張っていた」

 

ところで、「Mississippi」書けるようになりましたか? Mで始まり、sとかpは2個続けて、iをその間に適当に入れれば書けますよ。

 

 

使用書籍

カンガルー日和 (講談社文庫) 文庫 – 1986/10/15

村上 春樹 (著), 佐々木 マキ (イラスト)