『赤毛のアン』再訪。 71回目:《マシューが信頼していた銀行の破たん前夜》 マシュウとアンの楽しいひと時―――アンに対するマシュウの思い、マシュウに対するアンの想いが語られます。

 

わしは、ダースの男の子よりお前が、アンのほうがいいんだよ。エイヴリー奨学金をとったのは男の子じゃなくて女の子だったじゃないか

 

 

[英語原文]  Page 404, line 3 from the bottom.

 

  ‘You’ve been working too hard today, Matthew,’ she said reproachfully.  ‘Why won’t you take things easier?’  

  ‘Well now, I can’t seem to,’ said Matthew, as he opened the yard gate to get the cows through.  ‘It’s only that I’m getting old, Anne, and keep forgetting it.  Well, well, I’ve always worked pretty hard and I’d rather drop in harness馬具を下ろす→役目を終える 逝く.’

 

  ‘If I had been the boy you sent for,’ said Anne wistfully, ‘I’d be able to help you so much now and spare you in a hundred ways.  I could find it in my heart to wish I had been, just for that.’

 

  ‘Well now, I’d rather have you than a dozen boys, Anne,’ said Matthew patting her hand.  ‘Just mind you that – rather than a dozen boys.  Well now, I guess it wasn’t a boy that took the Avery scholarship, was it?  it was a girl – my girl – my girl that I’m proud of.’

 

  He smiled his shy smile at her as he went into the yard.  Anne took the memory of it with her when she went to her room that night and sat for a long while at her open window, thinking of the past and dreaming of the future.  Outside the Snow Queen was mistily white in the moonshine; the frogs were singing in the marsh beyond Orchard SlopeAnne always remembered the silvery, peaceful beauty and fragrant calm of that night.  It was the last night before sorrow touched her life; and no life is ever  quite the same  again when once that cold, sanctifying touch has been laid upon it.  

 ★:懐かしの名曲『まい・ガール』てんぷていしょんず

 

 

 [単語・語句の意味]

reproachfully(恨めしそうに;発音、リプロウチフリィ: yard gate(庭の門): I’d(I would): harness(馬具):sent for (send fof, 迎える、招く):wistfully(懐かしそうに):spare(免れさせる):a hundred ways(いろんな仕方で):in my heart(胸の中で):patting(なでる):be proud of(自慢する)yard(庭):Snow Queen(雪の女王参考、Iron Lady, 鉄の女:mistily(ぼんやりと、靄のかかった): marsh(沼地):Orchard Slope(果樹園坂):silvery(澄んだ):fragrant(香りのよい): sorrow(悲しみ):quite the same(全く同じ参考‐試験に出る、quite a few, かなりたくさん:sanctifying(神聖にする)

 

 

 

 [日本語訳]:今回は、松本侑子訳を提示してみます。

ページ4238行目。

 

「マシュー、今日は働きすぎよ」アンはとがめた。「もう少しのんびりしてね」

「そうさな、でも、それができなくてなあ」マシューは木戸を開け、牛を裏庭に入れた。「わしは年をとっただけだよ、アン。 でも、いつもそれを忘れちまうんだ。 なにせなあ、働きづめで生きてきたからなあ。 仕事中にぱったりと逝けるんなら、それがいいねえ」

 

「もし私が、マシューが最初に手配したとおり、男の子だったら」アンは悲しそうに言った。「今ごろはたくさん手伝ってあげて、いくらでも仕事を楽にしてあげたのに。だから、私が男の子だったらよかったのにって思うわ」

 

「そうさな、でもわしは、一ダースの男の子より、アンのほうがいいよ」マシューはアンのをとり、掌でぽんぽんと優しく叩いた。「いいかい、一ダースの男の子よりもだよ。そうだよ、エイヴリー奨学金をとったのは、男の子じゃなかっただろう。女の子だよ。わしの娘だ、わしの自慢の娘だよ」

 

 マシューは、はにかんだ笑顔をアンにむけると、裏庭へはいっていった。その夜、部屋に上がっても、アンの胸には、彼の笑顔がやきついていた。 そしてアンは開けはなった窓辺に、長い間、腰かけて、過ぎ去った日々を思いかえし、未来の夢に想いをはせていた。 窓の外には、《雪の女王様》が、月の光を浴びて、白い霞のような桜の花をまとっていた。果樹園の坂のむこうの沼地からは、蛙の声が響いていた。アンは、いつまでもおぼえていた。銀色の月明りに照らされ、平和で、美しく、空気はほのかに香り、静寂にみちていた、この夜のことを。 それは、哀しみの手が、アンの人生に触れる前の最後の夜だったからだ。 ひとたび、その冷たく神聖な手に触れられると、人生は、もう二度と元には戻らないのだ。

 

 

 

 [三人の翻訳の比較]

  He smiled his shy smile at her as he went into the yard.  Anne took the memory of it with her when she went to her room that night and sat for a long while at her open window, thinking of the past and dreaming of the future.  Outside the Snow Queen was mistily white in the moonshine; the frogs were singing in the marsh beyond Orchard Slope.  Anne always remembered the silvery, peaceful beauty and fragrant calm of that night.  It was the last night before sorrow touched her life; and no life is ever quite the same again when once that cold, sanctifying touch has been laid upon it.

 

 

MIによる逐語訳:このパラグラフは思わず “要するにこんな意味でしょ” と訳したくなるのだが、MIは違うのです。あくまで真面目な翻訳。

 

 マシューが庭に出ていくときに、アンに向けて恥ずかしげな微笑みを浮かべた。 その夜アンが自分の部屋に戻る際にも、そのときの姿が鮮やかな記憶として脳裏に焼きついていた。そしてアンは長いあいだ開け放った窓辺に座り、過ぎ去った過去を想い、来るべき未来を夢見ていたのだった。窓の外では【雪の女王】が、春の月明りにぼんやりと照らされていた。そして【果樹園坂】の向こうの沼地では、蛙がさかんに鳴いていた。 アンは、この時の いかにも透明で穏やかな美しさと快い静けさをいつまでも覚えていた。それは悲しみが、彼女の部屋の扉をノックする前夜のことだった。 そしてその冷たく神聖なる訪問をひとたび受ければ、誰もが以前と同じというわけにはいかないのだった。(312文字)

 

 

松本侑子訳:非常に丁寧な訳ではあるが、過剰解説が気になる。 読者を信用してないかも?

 

 マシューは、はにかんだ笑顔をアンにむけると、裏庭へはいっていった。その夜、部屋に上がっても、アンの胸には、彼の笑顔がやきついていた。 そしてアンは開けはなった窓辺に、長い間、腰かけて、過ぎ去った日々を思いかえし、未来の夢に想いをはせていた。 窓の外には、《雪の女王様》が、月の光を浴びて、白い霞のような桜の花をまとっていた。果樹園の坂のむこうの沼地からは、蛙の声が響いていた。 アンは、いつまでもおぼえていた。銀色の月明りに照らされ、平和で、美しく、空気はほのかに香り、静寂にみちていた、この夜のことを。 それは、哀しみの手が、アンの人生に触れる前の最後の夜だったからだ。 ひとたび、その冷たく神聖な手に触れられると、人生は、もう二度と元には戻らないのだ。(323文字)

 

 

○中村佐喜子訳: まじめな翻訳をあきらめたフシもちょっと感じられる。

 

 裏庭へはいりながら、マシュウは、彼のはにかんだ笑顔をアンに向けた。アンはそれをしっかりと心にとめた。そして夜自分の部屋に行ってから、いつまでも開いた窓辺に寄りかかって、過去を想い、未来を夢みた。眼の前には『雪の女王』が月光をあびて霞みのように白い。 『果樹園の坂』のかなたの沼では蛙が鳴いている。この夜の銀色の平和な美しさ、芳香にみちた穏やかさは、アンの後々の思い出になった。 それは彼女の人生に悲しみがふりかかる前の、最後の夜だったから。ひとたび冷たくも聖なる試練にあうとき、人生はもうけっして元の静かさもどらないのだ。(259文字)

 

 

村岡花子訳: 少年・少女向け小説ということで自分を納得させた? この物語の初期に比べて漢字が多くなっている? アンの成長とパラレル?

 

 マシュウは、いつもの内気な微笑でアンをながめながら裏庭へはいって行った。そのときのことをアンは、その晩、自分の部屋の窓べにながい間すわりながら思いだしていた。そして過去をふりかえり、未来を夢見た。 外ではスノー・クイーンが月光をあびて白くかすみ、オーチャード・スロープの向こうの沼ではかえるが鳴いていた。アンはこの夜の銀のような平和な美しさをいつまでも覚えていた。それがアンに悲しみがおとずれる前の最後の夜だった。 そして一度その悲しみの冷たい、神聖な手にさわられると、人生は二度と もととおなじにはならないのである。(256文字)

 

 

 努力が顕在化する塗り絵?『春』

------------------------------------------------------------

今週のおまけ:電力会社の話題とは何の関係ありません。

YouTube:『たかをくくろうか』北野 武

 

 

 [使用書籍]

1.Anne of Green Gables (Puffin Classics) ペーパーバック – イラスト付き, 2008/9/11

英語版  L. M. Montgomery ()

 

2.赤毛のアン 赤毛のアン・シリーズ 1 (新潮文庫文庫 – 2008/2/26

ルーシー・モード・モンゴメリ (), 村岡花子(訳)

 

3.赤毛のアン (文春文庫  4-1) 文庫 – 2019/7/10

LM・モンゴメリ (), 松本 侑子 (翻訳)

 

4.赤毛のアン (角川文庫文庫 – 1957/11/30

モンゴメリ (), Lucy Maud Montgomery (原名)

中村佐喜子(翻訳)