『アンの青春』訪問。 第4回目: 九月一日、今日はアンの教師一日目です。
アンの同年代で教師になるのは三人です。
ジェーン・アンドリュース
ギルバート・ブライス
アン・シャーリー
前日、三人で教育の方針についての話をしたのですが、アンが自信なげなのに対してジェーンは自信満々の様子です。 彼女の方針は教育に鞭を使うことに全く躊躇しないようなのです。
「悪い子がいたら思いきり、鞭でぶつのよ、もちろん」
それを聞いてアンは震えあがります。
「まあ、ジェーン! まさか、ジェーン、そんなことしないわよね」
「あら、必要な場合には そうするつもりよ」
このことで二人は言い争いをしてしまいます。
その様子を見ていたギルバートは女ふたりの言い争いに、口を挟むことができません。いつの時代も、男は同じなのです。
「えーっと、両方とも、言っていることには一理あるよね」
「ケッ、ボケ!」とジェーン。
「フン、優等生!」とアン。
「なんで、ぼくが・・・・・・」とギルバート。
そしてアンは眠れぬ夜を過ごし、今日、九月一日の朝が来てしまいました。
アンの教師一日目です。
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後日譚:
実は後日、アンは結局アンソニー・パイの態度の悪さに耐えかねて、忌避していた鞭を振るうことになってしまいます。当然、ひどい自己嫌悪。
[英語原文] Page 26, line 12
※ She had set up until nearly twelve the preceding night composing a speech she meant to make to her pupils upon opening the school. She had revised and improved it painstakingly(入念に), and then she had learned it off by heart(暗記して). It was a very good speech and had some very fine ideas in it, especially about mutual help and earnest(真剣な) striving after knowledge. The only trouble was that she could not now remember a word of it.
After what seemed to her a year . . . about ten seconds in reality . . . she said faintly, “Take your Testaments, please,” and sank breathlessly into her chair under cover of the rustle and chatter of desk lids that followed. While the children read their verses(聖書の 一節) Anne marshaled her shaky wits( 知力) into order and looked over the array of little pilgrims(巡礼者) to the Grownup Land.
Most of them were, of course, quite well known to her. Her own classmates had passed out in the preceding year but the rest had all gone to school with her, exceeding the primer class and ten newcomers to Avonlea. Anne secretly felt more interest in these ten than in those whose possibilities were already fairly well mapped out(叙述できる) to her. To be sure, they might be just as commonplace(ありふれた) as the rest; but on the other hand there MIGHT be a genius among them. It was a thrilling idea.
Sitting by himself at a corner desk was Anthony Pye. He had a dark, sullen(不機嫌な) little face, and was staring at Anne with a hostile expression in his black eyes. Anne instantly made up her mind that she would win that boy’s affection(愛情) and discomfit the Pyes utterly.
[単語・語句の意味]
composing(構成する): meant(つもりで言う、意味する;meanの過去、過去分詞形) :pupils(小さな生徒;参考、‘瞳孔’ の意味もある):painstakingly(入念に):by heart(暗記して、そらで:解説、‘心で!’という言い方が好き):mutual(相互の;発音、ミューチュアル) :earnest(真剣な;発音、アーネスト):striving(努力する):knowledge(学問、知識;発音、ナァリッジ):faintly(力なく):Testaments(聖書 ← 信条、遺言):breathlessly(息を切らして):rustle(がさがささせる) :chatter(ガチガチ音を立てる) :verses(聖書の 1 節;発音、ヴァースィズ):marshaled(落ち着かせる、整理する):shaky(揺れる、不安定な): wits( 知力):pilgrims(巡礼者):Grownup Land(大人の国):passed out(去った):exceeding(越えている):mapped out(叙述できる):To be sure(確かに):commonplace(ありふれた):thrilling(わくわくさせる):sullen(不機嫌な):hostile(敵意のある;発音、ハストル、ホスタイル):affection(愛情): discomfit(まごつかせる、当惑させる;発音、ディスカムフィット) :utterly(すっかり)
[日本語訳] 今回は中村佐喜子訳を提示してみます。
ページ48、後ろから2行目
※ ゆうべ アンは、十二時近くまでかかって、始業にあたっての生徒へ与える言葉を考えていた。苦心していろいろと書きかえ、それから暗記した。 それは高い理想をもった立派な演説で、とくに互いに助けあうこと、熱心に知識をもとめることを語っていた。 でも困ったことに、今はそれがひと言も出てこなかった。
一年も経ったかと思った後、――‐実際は十秒くらいだったが、――‐アンはかすかな声で、「みなさんの聖書を出してください」 と言い、急に起こった机のふたの がたがたいう音やざわめきにまぎれて、息もたえだえに椅子に腰をおろしてしまったのである。 そうしてアンは、子供たちがそれを読んでいるあいだに ようやくいじけた気持ちを立てなおして、これからおとなの国へはいって行こうとしている小さい旅人たちの行列をながめた。
もちろん大部分はなじみぶかい人たちだ。 アンの同級生だった生徒たちは、一緒に上の学校へ行かなかった人々もこの休暇まえに卒業してしまった。 前の下級だった人たちと、エヴォンリーへ新しく来た十人とがそこに居るのだった。 アンはすでに将来性がだいたい見当ついている生徒より、新しい十人に対してひそかに興味をもった。 この人々だってやはりほかの連中と同じように平凡かもしれない。 でも、あるいは天才が居るかもしれない。 そう考えるとぞくぞくした。
隅の机にひとりで座っているのはアンソニイ・パイだった。 色の黒い、ぶあいそな小さい顔をし、敵意ありげな黒い瞳でみつめている。 アンはすぐに、あの少年をなつかせて、パイ家の人々をあわてさそうと決心した。
[三人の翻訳の比較]
※ She had set up until nearly twelve the preceding night composing a speech she meant to make to her pupils upon opening the school. She had revised and improved it painstakingly, and then she had learned it off by heart. It was a very good speech and had some very fine ideas in it, especially about mutual help and earnest striving after knowledge. The only trouble was that she could not now remember a word of it.
After what seemed to her a year . . . about ten seconds in reality . . . she said faintly, “Take your Testaments, please,” and sank breathlessly into her chair under cover of the rustle and chatter of desk lids that followed. While the children read their verses Anne marshaled her shaky wits into order and looked over the array of little pilgrims to the Grownup Land.
MIによる逐語訳: もともと学術使用に特化したMI (manual intelligence) だったので、その語調が―――まるで遺伝子のように―――どうしても消えない。
前夜、彼女はほとんど十二時までかかって始業に際しての子供たちへの言葉を準備した。 彼女はその原稿に入念に手をいれ、それを空で言えるように練習した。それはとても素晴らしいスピーチで、申し分のない教え、たとえば、お互いに助け合う事の大切さ、知識の獲得に努力することの意義などが内包されていた。 ただ、唯一の問題は、今それを全く思いだせないことだった。
ほとんど一年も経ったかと思われたあと―――実際は十秒程度なのだが―――「どうぞ、聖書を出してください」と言って彼女は息も絶え絶えに椅子に座り込んだ、・・・子供たちの机の蓋を開け閉めするガタガタという音の中。 そしてアンは、聖書の一節を子供たちが読んでいる間に自身の動揺を沈め、大人の国へと向かおうとしている小さな巡礼者たちを見渡した。 (337文字)
⦿中村佐喜子訳:非常に上手な訳。
※ ゆうべアンは、十二時近くまでかかって、始業にあたっての生徒へ与える言葉を考えていた。苦心していろいろと書きかえ、それから暗記した。 それは高い理想をもった立派な演説で、とくに互いに助けあうこと、熱心に知識をもとめることを語っていた。 でも困ったことに、今はそれがひと言も出てこなかった。
一年も経ったかと思った後、―――実際は十秒くらいだったが、―――アンはかすかな声で、「みなさんの聖書を出してください」 と言い、急に起こった机のふたの がたがたいう音やざわめきにまぎれて、息もたえだえに椅子に腰をおろしてしまったのである。 そうしてアンは、子供たちがそれを読んでいるあいだに ようやくいじけた気持ちを立てなおして、これからおとなの国へはいって行こうとしている小さい旅人たちの行列をながめた。 (340文字)
△松本侑子訳:翻訳ではなく解説・説明?
ゆうべは十二時ごろまでかかって、新学年の始りにあたり、子どもたちに聞かせるスピーチを考えた。何度も読みかえし苦心して書き直すと、暗記した。 それはまことに立派なお話で、たがいに助けあうこと、知識を求めて真摯に努力すること、といった、ためになる教訓がいくつも入っていた。 ただ困ったことに、それが今、一言も思い出せなかった。
アンには一年もたった気がしたが―――実際には十秒ほど過ぎただろうか―――やっとのことで「聖書を出してください」と小さな声で言った。 続いて、紙の音や机のふたを開ける音がした。 このざわめきにまぎれ、アンは息も絶え絶えにいすにすわりこんだ。 そして子どもたちが聖書の節を読んでいる間に、揺らいだ理性を立て直し、大人の国へ旅立っていく小さな巡礼者たちの列を見わたした。 (338文字)
★村岡花子訳: 自然で極めて上手な訳。
アンは昨夜、十二時ちかくまでおきていて、学期のはじまりに、生徒たちに話してきかせようと思う演説をつくった。 苦心惨憺、筆をいれたり、つくりかえたりしてから、こんどは暗記した。 できあがりはたいそうりっぱなものになり、お互いに助けあい、熱心に知識をもとめようというような、すぐれた理論ももりこんであった。 ただ一つ困ったことは、その演説をいま、一言も思いだせないのだった。
アンには一年もたったような気がしてから・・・・ほんとうは十秒ほどなのだが・・・・かすかな声で「聖書を出してください」
こう言うと、たちまちおこったガサガサいう音や机の蓋をあける音にまぎれ、アンは息もたえだえに椅子にたおれこんだ。 子供たちが聖書の文句を読んでいるあいだ、アンはようやく気を落着け、大人の国へむかう小さな旅人たちの列を見わたした。 (350文字)
塗り絵:フェルメール『トトロと手紙を読む青衣の女』
[使用書籍]
1. Anne of Avonlea ペーパーバック – 2024/3/25
英語版 Lucy Maud Montgomery (著)
2.アンの青春 赤毛のアン・シリーズ 2 (新潮文庫) 文庫 – 2008/2/26
ルーシー・モード・モンゴメリ (著), Lucy Maud Montgomery (原名), 村岡 花子 (翻訳)
3.アンの青春 (文春文庫 モ 4-2) 文庫 – 2019/9/3
4.アンの青春 (角川文庫) 文庫 – 2008/4/25
モンゴメリ (著), 吉野 朔実 (イラスト), 中村 佐喜子 (翻訳)
