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男道 〜鈴木康之物語〜

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暑い夏の昼下がり
本屋さんの中にある喫茶コーナーでノートパソコンを開き「男道」を更新しています。
周りには夏休みなので家族連れもいますが圧倒的に1人で来てる人が多い。
本を読む20代の女性。サラリーマン風の男性。何かの勉強をしている学生。
皆黙々と何かをして1人を楽しんでいる。
それはひと昔前の図書館のよう。
でも図書館と違うのは飲み物や食べ物があるのは勿論館内に耳に優しい音楽が流れていること。
そしてどこかこの喫茶コーナーにいることでの優越感。
本を読んだり勉強するなら自宅の方が良いに決まってる。
でもここに来てその事をするのは「ちょっと私ってイイ感じ」といううぬぼれが自尊心をくすぐるのだろう。
 
「ふん。みんな気取りやがって」
そう思う自分もきっと周りが見れば同じ優越感の塊、同じ穴の狢なのかも知れない。
 
 
 
さて 本題
 
鈴木氏は声が大きい。
きっとそれは病気で聞こえにくくなってるからだけではなく元々大きいのだろう。
人の上に立つ人。リーダー。ボス。政治家。
その多くの人に共通するのが声が大きいと言う事。
それは自分の存在を遠くまで知らせるためでもあるが威圧する事が大きな目的であると思う。
小さな声で言う「オイ」と大きな声で言う「オイ」では全く意味が違ってくる。
鈴木氏はそれにプラスして眼光という強烈な目力がある。
あの眼で怒鳴られると・・・
それはもう蛇に睨まれた蛙状態なのである。
 
 
それはある地方議会選挙期間中での事。
「ちょっと来てくれ」と言われ私は鈴木氏の自宅を訪れた。
居間に行くと大きな大きな50インチはあろうかというテレビがあり私が座るとリモコンでそのテレビを消した。
 
「お前に頼みがあるんだが」
そういうとある政治家の推薦状を数枚取り出した。
 
「悪いんだけど10人に署名してもらいたいんだ」
 
大人の方なら何度もこういう経験をするでしょうし商売をしてる人なら尚更のこと。
付き合いの中で後援会の申し込みや推薦状に名前を記入するのは付き物。
私は「わかりました頑張ります」と言った。
「頑張りますじゃない。10人集められるのか?どうなんだ?」
その時わたしは蛙でしたので・・・
「はい集めて来ます」と答えた。
 
その推薦状をもらったのは金曜日。
投票日の2日前だ。
 
私は職場のスタッフにお願いした。
ところが
「俺そういうの嫌です」「政治的な事は無理っす」
まぁ私にそれだけの力がなかったせいもあるのだろうが全員に断られた。
二十歳そこそこで世間を知らないまだ子供のような人間からしたら「何か妙なことになったら大変」と政治
や宗教とかはアレルギー反応を起こす。
「しょうがねぇなぁ」
と親戚や友人にお願いしとりあえず5人分の署名を持って次の日鈴木邸に向かった。
 
眼光鋭い目で鈴木氏は言う。
「ん?あと5人分は?」
何度も言うが私は蛙である。
NOという言葉の選択権はないのである。
「明日持って来ます」
そう言って鈴木邸を後にした。
 
 
そして日曜日
投票日。
私が仕事にかまけて署名集めを怠った。というより「あと誰が書いてくれる?しかも投票日に。無理だろ?」
しかも鈴木氏に依頼されたその候補者は落選してしまった。
つまりもう終わったことでもあると そうその時思ってしまった。
 
よく月曜日
私の携帯は鳴る
「鈴木だ今すぐ来い」
這う這うの体で自宅に行くと
「持って来たか?」
私の頭には「もう終わったこと。しかも落ちちゃったし署名はもう良い」と言われると思ってた。
「いやすいません。集めてないです」
そういうと鈴木氏の様子が見る見る変わり明らかに怒りの表情に変わっていた。
 
「てめ~この野郎。嘘つきやがったな」
私がどんな言い訳をしても聞いてもらえないのは明らかだったのでひたすら謝った。
それでも鈴木氏の怒りは収まらない。
「出て行けこの野郎!」
それでも頭を下げ謝り続ける。
「出ろこの野郎。二度と来るな!」
そういうと私は鈴木氏に髪を引っ張っぱられ玄関までブン投げられた。
60を過ぎた年齢。決して健康ではない体。力だって衰えてるはず。
それなのに凄い力だった。
きっともう20年早かったら命がなかったかも・・・ それは言い過ぎかも知れないが鈴木氏の腕力の片鱗を
見た思いだった。
 
「いいか二度と俺の前に顔を見せるなよ」
 
情けないのと「何故?」という納得出来ない気持ちを交錯してその日の夜は眠れなかった。
そして大事なビデオを失くしても怒らなかった鈴木氏が本気で憤慨してる事に申し訳ない気持ちとそして
恐怖心でいっぱいだった。
 
 
次の日から毎日鈴木氏のところに行き謝り続ける。
でも玄関から先には上げてもらえない。
「帰れ帰れ~」
怒りに満ちたその顔はこれまで見た事のないもので鈴木氏の本気が読み取れた。
 
「どうしたら許してもられるのか?」
まず落選した候補者の署名をもらうため知人にお願いして5人分集めた。
落ちた人の署名は驚くほど簡単に集められた。それは「余程の事なんでしょ?」という部分とわかってる大人の友達がいたというのが大きかったと思う。
 
「鈴木さん。署名持って来ました。これだけでも受け取って下さい」
 
暫く沈黙のあと・・・
「上がれ」
私は居間に再びあがる事が出来た。
 
 
「いいか。お前はやると言ったんだ。それをやらないのは嘘をついたと一緒。約束を守らないのは一番の裏切りだからな。私はそれが一番嫌いなんだ」
 
よく考えればわかる事だった。
5人分の署名を集めなかったって事は鈴木氏の顔を潰すことになるという事を。
そして鈴木氏の前では言い訳や嘘は一切通用しないという事を。
 
いつの頃からだろう曖昧な約束をしてしまう事がある。
今度飲みに行こうとか「そのうち」「時間があったら」とか。
それはそういう付き合いの人ならそれで良いかも知れない。
でも本気で付き合う人には約束に曖昧さはいらない。
約束は絶対的なものなの。
本気で付き合う人との約束はそういうものなのだ。
 
 
怒られてなお鈴木氏の大きさと愛情を知った思いがする。
そんな出来事(自分としては事件)でした。
 
 
それにしても・・・
もっと早く言ってもらえれば・・・
投票日の2日前じゃ・・・
 
あっ!ヤバい。言い訳しちゃった。
またぶっ飛ばされるかも(笑)