明治座で上演中の、岸谷五朗作・演出・地球ゴージャス『儚き光のラプソディ』を観てきました。

観に行ったのは4月28日の初日だったんですが、その後風邪をこじらせてゴールデンウイークはどこにも出かけられず、推し劇団のアガリスクエンターテイメントのチケットもキャンセル、とさえない連休になってしまいました。

 

今作は地球ゴージャス30周年記念の作品ということですが、私は地球ゴージャスを観るのははじめて。

噂にたがわず、歌やダンスや演技に彩られた世界はまさにエンターテイメントの楽しさに満ちていて、その中に創り手側の力強いメッセージがあることを感じましたし、

 

今を生きる人間たちへのエールと愛も感じられて、長きにわたってこのユニットが愛されてきたことの理由がわかる気がしました。

 

そして、『歌妖曲』以来の舞台出演になる中川大志くん。

中川くんは、高校生の時に地球ゴージャスの舞台『The Love  Bugs』を観て感銘を受け、いつか地球ゴージャスの舞台に立てたら…と思っていたそうですが、10年後に、その夢を叶えることができたんですね。

 

今回、中川くんは地球ゴージャスの一員として、とても楽しそうに活き活きと舞台に立っていて、その姿を見て私も嬉しくなりました。

 

また、今作は群像劇でしたが、登場人物一人一人に光を当てて描いている脚本と演出、そしてそれらを体現する演技が印象的でした。

アンサンブルの方達のパフォーマンスも作品にエネルギーと彩りを与えていて、とてもゴージャスな舞台だったと思います。

 

以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!

 

 

 

 

 

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2024年4月28日(日)17時30分

明治座

作・演出 岸谷五朗

出演 中川大志 風間俊介 鈴木福 三浦涼介 佐奈宏紀 保坂知寿 岸谷五朗 寺脇康文他

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台上には白い壁に囲まれた部屋。

歩絵夢(ぽえむ)という名の青年(中川大志)が扉を開けて入ってくると、そこには老婆(保坂知寿)がいて…

 

はじめ、二人の会話を聞いていても、その部屋は何なのか、なぜ青年はここに来たのかわからず、でも老婆の含蓄のある言葉には惹きつけられるものがあり、

そうこうしているうちに、次々と色々な人物が部屋に入ってきました。

 

サラリーマンの中年男(寺脇康文)

クルーズ船の支配人(三浦涼介)

競馬の騎手(風間俊介)

サラリーマンの友人(岸谷五朗)

 

年齢も職業もバラバラな人物たちですが、自分がなぜここに来たのかわからないものの、なぜかその部屋の中では自分の胸のうちを語りたくなり、会話が進むうちにそれらの人物たちは、人生の中で迷いや後悔を抱えていて、その葛藤から「逃げたい」と思った時に、扉が現れたということがわかってきました。

 

それぞれが自分の思いを「語る」こと、そして他者の思いを「聞く」こと、そのことが一種の気づきや救い、癒しになっているように思えましたが、若い兵隊(鈴木福)が飛び込んで来たときに、空気が一変しました。

 

どうやらこの部屋は時空も超えるようで、学徒兵として今まさに戦場で戦っている最中に扉が開き、この部屋に来たよう。

国のためにと戦っている中で、死への恐怖や戦争への疑問や矛盾を感じたのでしょうか。

 

敗戦を知っている者たちは、「日本は負ける」のだから、と、元の時代に戻ることを止めますが、学徒兵は、それを聞いても扉の向こうの戦場へと戻っていきました。

 

学徒兵のその覚悟と行為を現代の観客である私たちはどう感じ、どう考えるかを問いかけられたようにも思いましたし、

戦友(佐奈宏紀)との戦場の場面はかなり踏み込んだ描写で、岸谷さんの反戦への思いを感じました。

 

はじめは無関係に思えた登場人物たちの間に、実は思いがけないつながりがあることがわかる後半は謎解きの楽しさもあり、最後にある者が発した台詞には、人類の未来への警鐘が込められていたと思います。

 

今回、あて書きで脚本を書いたようですが、

 

中川大志くんは、はじめ無垢な好青年という造形で、やっぱりそういう印象なのね?と思いましたが、やがて実は…ということがわかるところの演技はその場を支配する力があり、とても惹きつけられました。

 

老婆を演じた保坂知寿さんの巧みさを堪能しつつ、佐奈宏紀さん演じる戦友の儚い魅力と、二人の時空を超えた恋には胸が切なくなりました。

 

学徒兵を演じた鈴木福さんの演技も真っすぐな思いの強さがあり、胸に届くものがありました。

 

騎手を演じた風間俊介さん、普段は物静かな役を観ることが多かったので、とても新鮮でした。レースの場面の馬のパペットの作りがとても良くて見入りましたし、馬役の女性(どなただったか不明なのが残念)が印象に残りました。

 

 (コメント欄で教えていただきました。馬を演じた方は、杉山真梨佳さんでした。力強い演技がとても良かったです!)

 

クルーズ船の支配人の三浦涼介さん、笑いを担う場面が多かったですがちょっと異形の感じが不思議な魅力を醸し出していて、最後はなるほど…と。

 

サラリーマンとその友人の寺脇康文さんと岸谷五朗さん、二人の阿吽の呼吸が観ていてとても楽しかった。

二人が抱える問題は「それ?」と思いましたが、年齢を重ねた大人にとっての真剣な恋は事件たるものかも…

 

不思議な白い部屋で他者との関わりを経たあと、やがて一人、また一人と出て行く場面には、それぞれが一歩を踏み出すところに希望を感じました。

 

が、最後、老婆が出て行けなくなるところ、年を重ね、経験を重ねたゆえの諦観も私には共感できたんですが、最後に老婆を迎えに来たのが、年老いたあの学徒兵だったところ、そして二人手をとり部屋を出て行ったところは、グッときました。

 

人類は知恵をもちながらも、欲望が混在すると危うい事象を生み出してしまうという愚かさを同時に持つものだけれども、「今」の選択が「未来」を作って行くのだということに改めて思いをはせた、初・地球ゴージャスでありました。