年が明けてから心が痛む出来事が続いてしまいました。

災害や事故にあわれた方々に心よりお見舞い申し上げます。

また、被災地の1日も早い復旧を心からお祈りいたします。

 

気持ちが沈むことが多かった年の始めですが、義援金等、自分にできることをしつつ、誠実に毎日を過ごそうと思っています。

 

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 

さて、今年の観劇はじめに、三谷幸喜作・演出『オデッサ』を観てきました。

三谷さん、3年半ぶりの新作ですが、やってくれました~~

 

「言葉」をめぐるロジカルでカジュアルなコメディで、その中に心理劇としての面白みやピリッとしたスパイスも加わっていて、とても楽しめました。

 

脚本におけるロジカルな組み立ては、もはや匠の技、という感じ。

伏線の回収もぴたりと決まって、気持ちがいい。

 

1999年のアメリカ、テキサス州のオデッサで、英語を全く話せない日本人旅行者(迫田孝也)が、ある殺人事件の容疑者として拘留されるも、担当の捜査官(宮澤エマ)は日系人だけれど日本語が全く話せない。

そこで、語学留学中の日本人青年(柿澤勇人)が通訳として派遣され、取り調べが始まるが…というお話。

 

今回、複数の言語が飛び交うんですが、その処理や工夫も巧みで、情報量の多い内容ながら、混乱せずに観ることができました。

 

柿澤勇人さん、宮澤エマさん、迫田孝也さん(思わず鎌倉殿の13人を思い起こしたりしましたが)の3人がともかく喋る、喋る。

それぞれ、まさにあて書きゆえのキャラが立っていて、魅力がたっぷりでした。

 

こんな風に書いてもらえたら、役者冥利につきるでしょうね。

とはいえ、負荷は大きかったと思います。

 

柿澤勇人さん、複数の言語の台詞量は過酷とさえいえるし、宮澤エマさんも迫田孝也さんも、それぞれの難しさがあったと思います。

 

私が観たのは幕が開いて2日目でしたが、3人とも見事な演技で、素晴らしかった!

これから回を重ねるごとにますます進化していくでしょうから、楽しみですね。

 

まだ初日から間もないこともあり、極力ネタバレはしないようにしますが、内容に少し触れてしまう部分もあるので、先入観なしで観たい方は、観劇後にお読みください。

 

 

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2024年1月9日(火)14時30分

東京芸術劇場プレイハウス

作・演出 三谷幸喜

出演 柿澤勇人 宮澤エマ 迫田孝也 

演奏 荻野清子

 

 

 

 

ある事情から捜査官も実は頼りにならないところもあったり、

通訳を任された語学留学中の青年も、地元のジムでトレーナーをしているところをたまたま通訳に駆り出されただけなのに、日本人旅行者が殺人事件の容疑者として事情聴取を受けるという危機的状況の中、

 

通訳の内容いかんでは生死にかかわることもあり得る中で、柿澤勇人さん演じる青年は、ある「思惑」をもって通訳するんですが、その内容に観客は大笑い。

 

ここは、いわゆる勘違いの連続で笑わせるというシチュエーションコメディの基本という感じですが、青年がとった行動には、青年自身も異国にいるという状況の中での、思い込みや願望も込められていて、またその心情に観客も乗っかってしまうところが脚本の妙。

 

これ、1999年に設定しているので、通訳の内容のギャップで笑わせるという仕掛けが成立していると思いますが、

 

言語の違いが生み出すディスコミュニケーション、言葉が作る思想や文化の違い、当時のアメリカにおけるアジア人への反応、人種差別、国籍における軋轢などを浮かび上がらせていて、現代との相違や共通点などを思いおこされました。

 

また、青年と捜査官それぞれが孤独とアイデンティティへの葛藤を抱いていることが笑いの中にも語られて、心理劇としても見応えがありました。

 

宮澤エマさん演じる捜査官は、時に青年に厳しい言葉を放つんですが、その心の内にある思いや日系アメリカ人としての苦悩、仕事をもつ母親としてのリアルな生活の様子などがクリアーに伝わってきましたし、

 

モラトリアムともいえる青年ですが、柿澤勇人さんが演じるとそれゆえの魅力や、生来の優しさなども感じさせて、互いに似ている部分や、補いあえる部分もあるのだろうな、と思わせるものがありました。

 

一方で、「はたして日本人旅行者は無実なのか否か?」という謎解きももう一つの柱で、これは観てのお楽しみ。

終盤、緊張感が走ってからの、結末もよかった。

伏線回収もすごく丁寧。後からもう一度観たくなります。

 

謎解き部分のキーマンである迫田孝也さんも、変幻自在の熱演で、円熟味のある演技を楽しめました。

 

三谷さんは、「これはラブストーリー」と言っているようですが、確かに、青年と捜査官の心情の流れは伝わってきましたし、何となく、二人はお似合い、と思いましたが、けっこう、謎解きの方に引っ張られて観ていたかなあ。

真犯人は誰か?っていう吸引力は強い(笑)

でも、二人の関係のこれからを暗示させる、余韻を残すラストは良かったです。

 

日本語と英語が入り混じる台詞も、ルールがうまくできていて、そのルールをすんなりと理解させる構成が見事でした。

英語の台詞には字幕がつきましたが、前方の席でも見やすかったし、台詞と字幕の間合いがより笑いをよんでいたと思われ、字幕を出すタイミングなども相当工夫したんだろうなあ、と思います。

 

あ、それから、最後、ナレーターのお名前を見て、嬉しかった…

しばらくお休みされていますが、春にはシェイクスピア作品への復帰の予定もあるようなので、楽しみに待ちたいと思います。

 

劇場が終始笑いに包まれた1時間45分。

新年早々、明るい気持ちになれた作品で、元気をもらうことができました。