パルコ劇場で上演された、コナー・マクファーソン作・栗山民也演出『海をゆく者』を観てきました。

 

2006年、2014年に続き、今回は一部配役を変えての上演ですが、私は初見です。

出演者のみなさんの多くが70歳近い年齢ですが、演技の円熟味はもちろんのこと、声は出るし身体はよく動くし、俳優さんってすごいなあ、と改めて感嘆した、パワフルな舞台でした。

 

クリスマスイブの夜、人生にいろいろな問題を抱えているらしい飲んだくれのおじさん達が、怒鳴ったりわめいたり、さながらダメダメぶりの競演のよう。

でも、ある人物の登場からガラッと空気が変わって、物語は意外な方向へ…

終ってみれば、ちょっとほろ苦くも胸に灯りのともるクリスマスファンタジーでした。

 

以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!

 

 

 

 

 

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2023年12月24日(日)13時

PARCO劇場 

作・コナー・マクファーソン

翻訳・小田島恒志

演出・栗山民也

出演 小日向文世 高橋克実 浅野和之 大谷亮介 平田満

 

 

 

 

 

 

アイルランド、ダブリン北部の海沿いの街。

 

兄のリチャード(高橋克実)と、弟のシャーキー(平田満)の兄弟二人で暮らす家に、とあるクリスマスイブの夜、リチャードの友人のアイヴァン(浅野和之)、シャーキーの元カノと暮らしているニッキー(大谷亮介)と、ニッキーが連れてきたロックハート(小日向文世)の5人で、ポーカーをすることに…

 

リチャードは急に目が見えなくなったため、シャーキーは兄の面倒をみるために帰ってきていて、はじめは、大酒飲みの兄を献身的に介護している弟、という印象だったものの、

 

段々とシャーキーこそが、過去に大きな罪を犯し、今は禁酒しているものの、酒癖の悪さから何度も問題を起こしていることがわかってきました。

 

小日向文世さん演じるロックハートが登場した瞬間から、得体の知れない不穏さを感じましたが、ロックハートは、シャーキーの魂をもらいに来たと言う。

25年前、シャーキーが浮浪者を殺して投獄されていた時、シャーキーがロックハートとポーカーをして勝ったため、代わりにロックハートが服役することに。

 

その時、ロックハートが出所後に再度シャーキーとポーカーをしてロックハートが勝ったら、シャーキーの魂をもらうと約束した、と。

実はロックハートは悪魔で、シャーキーは悪魔と契約をしていたんですね。

 

禁酒しているシャーキーの禁断症状としての幻覚?とも思いましたが、そのうちロックハートが悪魔だということを私も受け入れて観ていました。

 

紳士の姿をしているけど実は悪魔、というのは映画とかで観ていた影響もあるかと思いますが、何よりロックハートを演じた小日向さんの演技によるものだと思います。

 

小日向さん演じるロックハートは、紳士的なふるまいの中に、人外の者であることを感じさせたり、空気を凍り付かせるような冷たさを醸し出したり、と、中身は悪魔であることを観客に信じさせる力があったし、怖さだけでなく酔っぱらった姿は可愛かったりと、素晴らしく魅力的でした。

 

ロックハートの正体を知って、恐怖におののくシャーキーと、ポーカーやろうぜ!と盛り上がる何も知らない兄と友人達。

はたして、勝つのは誰か?

ロックハートが勝ったら、シャーキーの魂は奪われてしまうのか?

「おじさん達がポーカーをする」というお話に、こういう仕掛けがあったとは!

 

観ているうちに、殺人という罪の重さを考えると、シャーキーが魂を奪われてしまうのも仕方がないのでは?と思ったり、でもそんな審判をする資格は私にはないし、などと思ったりしましたが、やがて、シャーキーも自分の魂を差し出す決意をし、ポーカーの勝負はロックハートの勝ち、となったところで、

 

まさかのどんでん返し!

 

冒頭から、浅野和之さん演じるアイヴァンが眼鏡を探し続けていましたが、それが最期に活きてくるとは!すごい伏線回収(笑)

 

結局、改めてロックハートの負けがわかるという結果になって、シャーキーの魂を奪うことができず、ロックハートは去ることに…

 

今まで、他罰的で現実逃避ばかりしていたシャーキーが、自分の罪を認め、罰を受け入れる決意をしたことが神に届き、

また、はじめは横暴に見えていた兄が、実は弟をとても愛しており、幸福を祈っている、その祈りが神に届き、神の許しを得られた、ということなのか、

 

去り際にロックハートが言った、「シャーキーは神に愛されているようだ」と言う台詞に、観ている観客達も救われた気がしますが、兄や友人達の愛情こそが、奇蹟を呼んだのか、

 

いずれにしろ、今夜をきっかけに、シャーキーは変わっていくのではないかと、希望を含んだ予感を感じることができました。

 

シャーキーを演じた平田満さん、時折見せる暗さや絶望や嫉妬などが、複雑な人物像を示していて印象的でした。

 

リチャードを演じた高橋克実さん、フライヤーには、陽気で開放的な性格の兄、とありましたが、私はそれとは違う印象を受けて、暗く重いものを背負っている感じの印象が強かったんですが、熱量のある演技で、最後、弟への愛情たっぷりの語りかけの場面もとても良かったです。

 

アイヴァンを演じた浅野和之さんは、ともかく可愛かった。コミカルな動きもうまいですよね。彼の過去を悪魔にばらされる場面での緊張感はさすが。

 

ニックを演じた大谷亮介さんも、ヒモのような生活をしているけど、根は優しくていい人なんだろうなあ、と思わせる可愛げがありました。

 

俳優さん達、みんな可愛げがあってチャーミングでしたし、ところどころ笑わせる場面を入れながら、その魅力を引き出した栗山民也さんの演出も巧みだったと思います。

 

いつも飲んだくれていて褒められた人生を歩んでいない彼らですが、作者の筆致は温かくて、そんな彼らにとっても、クリスマスは特別な夜で、神の愛は等しく注がれているんだろうな、と

 

私は無宗教者なので、キリスト教信者であればまた違う受け取り方があるかもしれませんが、最後には胸が温かくなった、クリスマスイヴに観たクリスマスイヴのお話でした。

 

今年はこれが最後の観劇になりましたが、よい観劇納めになりました。