本多劇場で上演中の、M&Oplaysプロデュース、岩松了作・演出『いのち知らず』を観てきました。

久しぶりの岩松作品、相変わらず観客に優しくなかった(笑)

 

男性俳優5人の会話劇で、サスペンスともミステリーとも、スリラーとも、あるいは社会派ドラマともいえるようなテイストでしたが、岩松さんは「真相」や「正解」を簡単に提示してはくれないので、観ているうちに私は迷路の中に・・・

 

ただ、不確かな作品世界の中で、切実に、必死に生きていた「彼ら」の姿は心に強く焼き付いていて、観劇後は見応えのある芝居を観たな、という充足感が胸に広がりました。

 

以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!

 

 

IMG_7867.jpg

 

 

2021年10月24日(日)13時

本多劇場

作・演出 岩松了

出演 勝地涼 仲野太賀 新名基浩 岩松了 光石研

 

 

 

 

親友のロク(勝地涼)とシド(仲野太賀)は、いつか二人でガソリンスタンドを経営したいという夢をもっていて、その資金を貯めるために山奥にある施設の門番として住み込みで働いています。

 

先輩の門番モオリ(光石研)は、この施設は死者を蘇らせる人体実験をしていると疑っており、それを二人に告げたことから、その話を半ば信じる勝地涼と、信じたくはない仲野太賀との関係に亀裂が入っていきます。

そして組織への疑いをもたない仲野太賀の方は、やがて組織から重用されるようになっていくんですが・・・

 

この施設、どうやら給料はいいけれど、でも若者の生きがいや夢を搾取している組織のようにも思えて、ブラック企業とそこで働かざるを得ない若者の姿を思い描いたりしましたし、

 

死者を蘇らせる、という生命倫理の禁忌を犯していることへの批判的気持ちと、でもそれは人類のある種の夢ではないかという思いとが相まって、劇の間中、何ともいえない気持ちが続きました。

 

また、双子の兄がこの施設に入ってから帰ってこないというトンビ(新名基浩)も門番の仕事に加わり、ある日母親の帽子を施設の近くで見つけたと言う。

どうやら母親も兄を心配して探しに来たようなんですが、

 

その後、光石研と新名基浩が土のついたスコップを持ってきて「母親は家にいた」と口裏を合わせるシーンがあって、これはどういうことのなのか、未だにわかりません・・・

 

仲野太賀の方は、そのうち施設の「入所者の散歩をアテンドする」仕事を任されたようで、勝地涼はそのことに嫉妬の感情も見せていましたが、仲野太賀の方は段々と表情も暗くなっていきました。

 

この、「入所者の散歩をアテンド」という台詞からは、生き返らされた者たちがゾンビのように歩き回っている姿を想像してしまいましたし、その仕事についたということはもはや組織の秘密を知ってしまったのではと思われ、

 

やがて施設側から兄に合わせると言われた新名基浩は施設に行ったきり帰ってこなかったり、

所長宅に呼ばれて楽しいひと時を過ごしたはずの仲野太賀が実は・・・というところからは、秘密を知ってしまった者は組織から抹殺されてしまったのかなあ、と思いました。

 

でも、ところどころの勝地涼の言動にも?と思うところもあったし、4人のうちの誰かが誰かを殺してしまった???と大いに混乱。

 

さらに、勝地涼と仲野太賀の、自殺したというもう一人の友達をめぐる話から、もしかしたらこの二人も、あるいは光石研も新名基浩も実は一度死んでいて、生き返らされた者たちなのかも…生前の記憶の残像が見せている物語なのかなあ、とも思えてきて、もはや誰が生きていて誰が死んでいるのかわからなくなりましたが、自分的にはその辺で決着をつけたくなりました(笑)

 

この劇を観た方はどう思われたでしょうか?

他の方の意見を聞いてみたいなあ、と思います。

 

確信をもてないことが多くてもやもやとした感想になってしまいましたが、劇中で心に残った台詞がいくつかあって、

 

人はたいていのことは「あちら側」の世界だと思って生きているという台詞からは、その確たるものは「死」なのだろうな、と思いましたし、

この劇を観ているうちに生と死の境い目が段々となくなるような感覚になりました。

 

生きている、ってある意味儚いことで、確実なことはない中でも人は日々を生き続けなればならないし、あの4人がそれぞれに葛藤したり悩んだり怒りをもったりしながらも日々を過ごしていた姿に共感を覚えた気がします。そして、どこか哀しみも・・・

 

また、勝地涼や光石研の、組織への疑問をもっていても糾弾したり、現状を打開しようとはしないところや、仲野太賀の組織を信じたゆえの末路などはシニカルなリアリズムを感じました。

 

5人の俳優さん達の演技は手堅くて、

 

勝地涼さんは、私は根底に明るさのある方だと感じるんですがそれに加えてより力強さが加わり、骨太な演技でしたし、

 

仲野太賀さんは岩松作品では繊細な表現力がより発揮されている気がします。

仲野さんの「静」の演技がとてもよかった。

 

新名基浩さんははじめて拝見しましたが、とても個性的!キュートな容貌から母親への憎しみに満ちた言葉をはくところはとても印象的でした。

 

光石研さんの軟硬自在の演技は観ていて楽しく、また、もがきながら生きている姿が胸に迫りました。

 

そして、この4人とは唯一違う立場の、施設の所長の直属の部下を演じた岩松了さん、上司として高圧的な態度はとらず、むしろ如才ないのに組織の論理にのっとって彼らを支配している様が不気味で、怖かった。

 

・・・と、長々書いてきましたが、要は、

「よくわからなったけど面白かった」ということに尽きる作品でした。