シアタートラムで上演された、劇団青年座公演 野木萌葱作・黒岩亮演出・『ズベズダー荒野より宙へー』を観てきました。

 

ズベズダとは、ロシア語で「星」の意味。

米ソ冷戦時代に繰り広げられた宇宙開発競争をソ連側から描いた硬質な会話劇。

そこには、荒野から星を目指した科学者たちの夢と苦悩が繰り広げられていました。

 

10月4日から、11日まで映像配信があるとのことなので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!

 

 

 

 

 

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2021年9月19日(日)14時

シアタートラム

作・野木萌葱作

演出・黒岩亮

出演・横堀悦夫 綱島郷太郎 矢崎文也 平尾仁 高松潤 鹿野宗健 須田祐介 久留飛雄己 桜木信介 伊東潤 尾島春香

 

 

 

劇場に入ると、土星の輪のようなセットが美しく、「あー、宇宙を目指す話なんだなー」と自分の気持ちも軌道に乗った感じでしたが、

冒頭、第二次世界大戦末期に「生ける戦利品」としてソ連に強制収容されたドイツ人科学者とソ連の科学者とのやりとりから始まって、ああ、これは戦争の話だったな、と思い直しました。

 

宇宙への探求心、

月へ行きたい

人間を乗せたロケットを飛ばしたい

 

という科学者の夢や向上心、プライドや競争心などがプロパガンダや国策として利用され、米ソ間での代理戦争としての宇宙開発競争になっていき、またそれに抗えない科学者たちの姿が描かれていて、科学技術の発展と軍事目的が不可分である歴史を改めて思ったりしました。

 

この物語では、1946年、秘密裏にV2ロケットを開発しようとしているソ連側がドイツ人科学者に協力を強制する様子から始まって、世界初の人工衛星の打ち上げの成功、人類初の有人宇宙旅行の成功、キューバ危機、その後のロケットの打ち上げ失敗を経てアメリカに後塵を拝すまでの20余年が描かれていました。

 

スプートニク1号

ガガーリンの「地球は青かった」

アポロ計画

など、良く知っている言葉も出てきましたが、長いスパンの話であることと、ソ連の開発部署がひとつではないため、人物の相関関係がわかりずらかったこともあって、観ていて理解するのが困難な部分もあり、正直、筋を追うので精一杯になってしまった感はありました。

 

この点、知識や興味がある方だと、もっと楽しめるのではないかと思います。

 

また、今回、二役を演じたキャストが3人いましたが、容貌も大きく変えていなかったので、理解するまでに少し時間がかかったんですが、これはどういう意図でそうしたのでしょうか?

人数が少ない劇団ならともかく、あえて二役にする必要はなかったのではないかなあ、と思うのですが・・

 

ただ、それぞれの人物の印象は強く残っていて、

 

過去に同僚のヴァレンティン・グルシュコ(綱島郷太郎)に告発され、冤罪で強制収容所に送られたり、西側に知られないために、その存在をないものとして扱われながらも、宇宙への情熱は持ち続けていたソ連のロケット開発の最高責任者のセルゲイ・コロリョフを演じた横堀悦夫さんの、

いつも孤独をまとっているような佇まい。

 

セルゲイ・コロリョフを当局に売ったグルシュコの、コロリョフへの負い目とエンジン開発に関しては譲れない矜持。

 

また、フルシチョフを演じた平尾仁さんは、この中で一番血の通った人物を思わせる演技で、実像とはかけ離れているかもしれませんが、ユーモアもありつい笑ってしまいました。

 

野木萌葱さんの脚本は、題材はなんであれ、思い切って簡素化した登場人物たちの間に流れる感情の動きが濃密で、そこに共感を覚えたり、気持ちを揺さぶられることが多いんですが、今回は史実を時系列に追っていたことと、登場人物の多さから、その濃さはいつもよりは薄れているように感じました。

 

が、

かつて荒野で空を見上げながら宙への夢を見たであろう科学者たちの姿を想像すると、そこには純粋な想いの美しさを見る気持ちになるのでした。