連日、猛暑が続いていますね。

みなさま、どうぞ熱中症には気をつけてお過ごしください。

私はといえば、先日、眼科の手術を受けたんですが、その後まだ痛みや見えにくさが残っていることもあり、今年の夏はちょっと小劇場系のお芝居に行くのがつらくなっています・・・。

観たかったなあ、と思うお芝居もたくさんあるんですが、炎天下並ぶ元気が出なくてパスしたり、感想を書くのもスキップしてしまったのもいくつかありますm(_ _ )m

そのうち、また以前のペースに戻せたらいいなあ、と思っています・・ぐすん

 

そんな中、7月のはじめに、野木萌葱作・演出・パラドックス定数『ブロウクン・コンソート』を観てきました。と、感想を書くのをモタモタしているうちに、野木萌葱さんが、第26回読売演劇大賞中間選考で、『731』と『ブロウクン・コンソート』の演出でノミネートされましたね!

おめでとうございます!

これは、ファンとしてもとても嬉しいです!

 

さて、『ブロウクン・コンソート』、なんだかワルイ男たちの話ということで、こんなに暑い日は、いっそ、ワルイ男たちの話も清々しいかも?と自分もハードボイルド気分で観劇に臨みました。

劇中、なかなかにハードな場面もありましたが、閉じた世界の中で蠢く男たちからは、切なさも漂ってきて、容赦ないハードボイルドに身を任せるつもりで行ったものの、なんだか哀しさと、彼らに対する愛おしさまで覚えてしまい、

 

これが野木マジックなのか?と思いましたが、

きっと、すごく繊細な演出と、それに応える俳優陣の実力があってのものなのかもしれません。

今作品は、劇団からは井内勇希さんと小野ゆたかさんの二人のみの出演で、他は外部からの俳優さんたちが出演していましたが、劇団員と客演の混合演奏、とても良い音色だったと思います。

 

以下、ネタバレありの感想です。

 

 

 

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2018年7月1日(日)14時

シアター風姿花伝

作・演出 野木萌葱

出演・小野ゆたか 井内勇希 渡辺芳博 今里真 森田ガンツ 加藤敦 生津徹

 

 

 

 

 

とある町工場の作業場。工具類や事務机などが、殺風景で乱雑な印象をかもしだしています。

兄弟で経営しているこの工場では、本来の金属加工の他に、拳銃の密造を行っていて、そこに出入りするヤクザの組員、警官、自称殺し屋などの間で、男同士の駆け引きや裏切り、殺人などが展開されました。

 

13年前に逮捕されたヤクザの兄貴分(渡辺芳博)が出所してこの作業場に姿を現しますが、その間病気の組長の代わりにその組を実質的に支え、この工場とのやりとりをしてきたのは弟分のヤクザ(今里真)。当然これから自分が取り仕切ろうとする兄貴分と、弟分との間の不協和音。

 

町工場を経営する弟(井内勇希)は、従業員の死亡事故を出して以来経営が厳しく、障害者施設に入所していた兄(小野ゆたか)の入所費用も払えなくなり、自閉症的な(?)コミュニケーション障害がある兄を施設から引き取って世話をしています。そして兄にも拳銃作りをさせている。

兄は、拳銃の持つ意味を理解できないままに、ひたすら拳銃作りの一工程を担っているよう。

弟は、生きるため、生活のためと言いながら非合法なことに手を染めていますが、拳銃という精密機械を作ることへの職人としての喜びも隠せない。

 

先輩刑事(森田ガンツ)が、新人の刑事(加藤敦)を伴ってこの工場にきますが、ここで何をやっているかをわかっていながら逮捕せず、この兄弟やヤクザたちを利用していたり、自らクスリをやっていたりの腐敗ぶり。

そして、自分達の功績にしたいという刑事のもくろみと、兄貴分のヤクザを陥れたい弟分が結託をして自称殺し屋(生津徹)を利用したことから、やがてこの工場内に銃声が響くことに・・・。

 

障害のある兄を除く者たちは、それぞれにクズなんですが、でもどこか切羽詰まっているゆえの可愛げがあって、

 

工場の弟を演じた井内さんの演技からは、工場を背負い、兄を背負っている苦悩と、拳銃製造の肝心な部分は兄にはやらせていなかったのに、実は兄の方が加工技術が高いことを知った時の嫉妬と、自分が兄に蹴落とされるのではないかという恐れや必死さが伝わってきました。

 

一見堅実なサラリーマンに見えるヤクザの弟分を演じた今里真さん、自分でも「ヤクザにしては真面目すぎる」と自覚していながら、胸のうちには兄貴分を蹴落としてみたいという黒い気持ちを秘めている。工場の兄にも優しく接していたのに、最後の方で兄に対してひどいことをする冷酷さは、見ていて私も驚きましたが、「上に立つ器ではない」と自他ともに認めてしまうところが、哀しくもなりました。

 

対する兄貴分のヤクザを演じた渡辺さんは、なんとなくオーソドックスなヤクザのイメージ(?)でしたが、粗野で、これからデカいことをやる、と息巻いているわりには、小物感が漂っていてちょっと可笑しみがありました。

 

先輩刑事の森田さん、煮ても焼いても食えないそのタヌキぶりが見事でした。それまで何事にもうそぶいてふざけた態度をとっていたのに、新人刑事が命を落とすことになってしまった時の狼狽ぶりが印象的でした。

 

新人刑事の加藤さん、先輩刑事の腐敗ぶりにはじめは驚きと怒りを隠せなかったのに、やがては染まっていったようにも見えましたが、あれはそういう振りをしていたのかな?いち早く出世をして、こんな先輩の下で働かなくていいようになりたいと言っていたのに、巻き込まれて死んでしまったところは私も悲しくなりました。

 

この男たちを見ていると、どうにも“小物感”があって(笑)、ピカレスクを想像していたのとは違っていましたが、自分がのし上がりたい、蹴落とされたくない、蹴落としたい、というシンプルな欲望が見えて、それゆえ切ない感じがしたのでしょうか。

 

ただ、殺し屋かつ非常勤の大学講師を演じた生津さんは、何を考えているかわからない不気味さがあって、人間性をつかみきれない恐怖のようなものを感じた気がします。

 

そして、兄を演じた小野さん、言葉で意思を伝えられない人物像の演技がとてもうまかったと思います。他の登場人物達には何を言っているかがうまく伝わらないけれど、観客にはその心情や言いたいことがわかるように演じるってとても難しいと思うんですが、その演技力に感嘆しました。

この、ある意味とても純粋な兄とともに、世間の片隅で肩を寄せ合って生きていかなければならない兄弟の姿には、どこか胸をうたれる部分もありました。

 

それにしても、今まで観たパラドックス定数の作品は、ひとつの部屋で、凝縮された世界が展開して、そこにギュウっと引き込まれてしまうことが多かったんですが、次に続く『5seconds』も、『Nf3Nf6』も、男二人の会話劇のようなので、今からとても楽しみです。