サンモールスタジオで上演中の、冨坂友脚本・演出・アガリスクエンターテイメント『卒業式、実行』を観てきました。

2015年に上演された、『紅白旗合戦』の題材を用いた、卒業式当日のバックステージコメディ。

自主・自律を重んじ、卒業式の企画・運営も生徒が主体となって行う国府台高校で、卒業式での国旗掲揚・国歌斉唱をめぐって、学校側と生徒側の意見が対立。

全校生徒のアンケートで決めた、国旗掲揚・国歌斉唱を行わないプログラムのまま式を行いたい生徒側と、

職務命令として校長の権限で国旗掲揚・国歌斉唱をプログラムに入れるという学校側。

式当日になっても、学校側と生徒側の折り合いがつかないままに、開式の時間は迫り、ついに式は始まってしまい・・・

 

バックステージものはいろいろあれど、卒業式の裏側というのはめずらしいですよね。

生徒と教員のバトルのみならず、保護者やOBが式の進行に介入してきたり、あれやこれやで体育館のステージの袖ではものすごいドタバタが繰り広げられて、いやー、笑いました。

 

いつものアガリスクエンターテイメントの作品だと、序盤の笑いは少なめで、徐々にペースが上がっていくことが多いんですが、今回は最初からトップギアに入っている感じ。そのまま2時間、ノンストップで駆け抜けますが、途中に出てくるキャラクターによって空気感やスピードが変わり、緩急がついていたのもとても良かったです。

 

2月25日(日)まで、サンモールスタジオで上演中。

以下、ネタバレありの感想です。

 

 

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2018年2月18日(日)18時

サンモールスタジオ

脚本・演出・冨坂友

出演 淺越岳人 榎並夕起 鹿島ゆきこ 熊谷有芳 甲田守 沈ゆうこ 津和野諒 前田友里子 矢吹ジャンプ 星秀美 前田綾香 山岡三四郎 斉藤コータ 藤田慶輔 中田顕史郎

 

 

 

 

 

 

『紅白旗合戦』も、やはり卒業式の国旗国歌問題をめぐって生徒と教員が会議でバトルを繰り広げるというものでしたが、脚本・演出の冨坂友さんは、実際に国府台高校の卒業式実行委員長としての経験をもとに書いた『紅白旗合戦』については、

「思い入れが強すぎて、あれはコメディとはいえなかった。」との思いを抱いていたとのこと。

 

いやー、私には十分面白かったけどなあ、と思って、ちょっと意外でしたが、ともかく、アガリスクエンターテイメントにとっては、何より、「笑わせること」が一番大事なことで、その作品がコメディとして成立していなければ自分たちが認めることができない、という、コメディ劇団としての矜持、というか、執念?があって、

 

(でもそのわりには、国旗国歌問題とか、『わが家の最終的解決』ではゲシュタポとユダヤ人のロマンス、とか、なんであえてそれをコメディにする?っていう、わざわざハードルを上げているとしか思えないような題材を選んでいて、観客側もハードル越えを要求される部分もあると思うんですが笑)、

 

ともかく、今回の、「国旗国歌問題を扱う卒業式当日のバックステージものをコメディとして成立させる」という挑戦は、笑いをとる、という意味において、「成功していた」と思います。

 

なんとかしなくちゃいけないのに、いろいろと邪魔が入ってできないとか、

それぞれの思惑が交錯して混乱を極めていくところとか、

途中で妥協案が出されて解決しそうになるのに、やっぱり振り出しに戻ったりして、

結局、国旗は掲げるの?国歌は歌うの?この先どうするの?とハラハラするところとか、

ベタな手法に見えるけど、綿密に計算されているであろうタイミングや台詞にまんまと乗せられて、すごく笑って、「あー、面白かった!」となりました。

 

国旗国歌問題といっても、自分達で決めたことを勝手に変えられたくない、という生徒の自治をめぐる戦い、という形をとっているので、重い気持ちにはならないし、(とはいえ、登場人物達の台詞から、国旗国歌問題の概要がわかるようになっているとは思いましたが)

 

卒業式実行委員会の委員長をやっている主人公の女子高生も、その動機は憧れの先輩への想いからで、愛校心バリバリの生徒会長と、国旗掲揚・国歌斉唱は絶対にやる、という校長の間に挟まって、おろおろ、バタバタするさまも、ライトさと甘酸っぱさがあって、この感じはちょっと今までのアガリスクエンターテイメントにはなかった気がしました。

 

あと、卒業式って、それだけで何となく感傷的になりますね。私自身は、高校の卒業式はもはや何も覚えておらず、むしろ子供の卒業式の方が記憶に新しいんですが、でも、客入れの音楽で、合唱や、「仰げば尊し」などが

流れているのを聞いていたら、少しセンチメンタルな気分になって、それも楽しめました。

 

今回、15人もの登場人物がいて、

主人公、生徒会長の他に、卒業式実行委員会のメンバー、ノリで立候補して騒動に巻き込まれる有志の司会者、主人公の憧れの卒業生、美術部員、吹奏楽部長、急遽祝辞を頼まれて狼狽しているPTA副会長、自分の政治思想を押し付けてくる保護者、校長と、それ以外の教師達、卒業式に乗り込んできて断固国旗掲揚・国歌斉唱を阻止しろというOBなど、

癖の強い面々が出たり入ったりするんですが、観ていて全然混乱しないし、それぞれの役目がきちんと絡み合っていて、登場時間は短くても、その人物像が明確に伝わってくるのもさすがでした。

 

劇団員の方達はみんなキャラが立っていて、早いテンポで畳みかける台詞や間合いも相変わらずキレキレで観ていて気持ちが良かったです。

客演の方達も、それぞれほんとに役にはまっていて、魅力的でした。

特に、美術教師を演じた中田顕史郎さんの、超然とした存在感とアガリスクのリズムにくみしない独特の演技が、作品の面白さを際立だせていたと思います。

 

職務命令には従わざるを得ない大人の事情も、大人の言いなりになりたくない高校生の気持ちも、どちらもわかるよなあ、などと思いながら観ていましたが、やがて、ただ生徒に強制しているだけではない校長の真意を知る場面も出てきて、主人公はじめみんなで、ひとつの解決策を編み出すことになります。

ここで、主人公のヒロイン力が発揮されるのがとても良かった。

あと、今まで舞台上にあったアイテムが使われて、ああー、そうくるかー、と思いました。

 

アガリスクエンターテイメントの作品は、クライマックスには何かしらの解決に導かれることが多いと思いますが、解決に向けてのプロセスでけむに巻かれる感じになったり、ちょっと無理がある感じになるところもあるけど、「答えが出る」ところがフィクションならでは、お芝居ならではと思って、私は好きです。

ラスト近くの場面では、劇場全体の使い方にもハッとしましたし、客席の美術の意味もわかりました。

 

はたして、国旗は掲揚したのか、国歌は斉唱したのか?

は、書きませんが(笑)、

あの場面で、胸に浮かぶ感情が、個々の観客にとっての国旗国歌問題かも?とちらりと思ったり。

一緒に行った友人は、作品からイデオロギーのメッセージをキャッチした、と言っていましたが、うーん、どうなんでしょう?でも、アジテーションではなかったんじゃないかなあ、と私は思いましたが(アジテーションは苦手)

いずれにしても、大笑いを巻き起こしていて、コメディとして昇華されていたと思うし、

この作品、もっと大きな劇場で大暴れする彼らを見たいなあ、とも思ったのでした。