古川健作・日澤雄介演出・劇団チョコレートケーキ『熱狂』を観てきました。

前日に『あの記憶の記録』を観ていたので、観る側もタフさを要求されるかも、と思って、相当の覚悟をもって観劇に臨みましたが、こちらはヒトラー率いるナチス党が政権を取るまでの話しで、この部分を切り取るのか!と意表をつかれた感じがしました。

 

1924年にクーデターに失敗して被告人となったヒトラーの演説から始まり、政権を取るための戦略やその過程に焦点をあてて描いたところが、私には新鮮に思えました。

ヒトラーを信奉する党員たちのパワーゲームは、まさにポリティカルドラマで、目標に向かって一喜一憂する様は熱い群像劇のようでしたが、民主主義としての手続きを踏みながら独裁体制が築かれたことをポイントに据えているのかな、と思うと、いろいろと考えさせられる作品でした。

 

 

以下、ネタバレありの感想です。

 

 

 

 

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2017年12月9日(土)14時

東京芸術劇場シアターウエスト

作・古川健

演出・日澤雄介

出演・西尾友樹 中田顕史郎 道井良樹 大原研二 佐瀬弘幸 青木シシャモ 渡邊りょう 山森信太郎

浅井伸治

 

 

 

 

 

舞台上にはハーケンクロイツの大きな垂れ幕が3枚かかっていて、それらが客席を圧倒しているようでした。

冒頭、1923年のミュンヘン一揆でナチス党が起こしたクーデターが失敗し、逮捕されたヒトラーが裁判で陳述した場面から始まりました。

 

西尾友樹さん演じるヒトラーは、口髭もなく、残忍で冷酷な独裁者、というイメージとはかけ離れているので、西尾さんをヒトラー役に起用したのはなぜなのかなあ、と思いましたが、

裁判で、汗をかきながら国の復興と民族の誇りを真摯に訴える姿の、そのイノセントさは、観ている私も惹きつけられるものがあり、当時のドイツ国民にも、そんな風に映っていたのかしら?などと想像したりしました。

 

客席の方から、この演説で心をつかまれた、という声がして、見るとそれは前日に観た『あの記憶の記録』に出てきたナチス親衛隊の将校のビルクナー(浅井伸治)で、以下、このビルクナーが解説役として物語が進んでいきました。

 

1925年、ナチス党が再結成され、クーデターの失敗から学んだヒトラーが、今度は選挙で勝つという民主的手続きを踏みながら党の勢力を拡大していくことを目指していきます。

はじめての国政選挙では12名しか当選しなかったものの、1929年の世界大恐慌後の経済政策が支持され、1930年の選挙では議席数を大幅に増やし、国会第二党に。

 

1932年の大統領選挙ではヒンデンブルグに敗北するも、1933年にはドイツ副首相に就任し、3月の国政選挙では288議席を獲得。

ラストシーン、晴れやかな顔で並ぶ議員たちに、国民の熱狂の声が響いていました。

 

ここに至るまでの党内の勢力争いや、政敵との駆け引き、「一つの民族」「一つの帝国」「一人の総裁」というスローガンのもと、後の粛清につながる出来事など、ヒトラーが徐々に独裁体制を強めていくところも描かれていましたが、大衆の支持があってこそ、政権を取ったわけで、

 

第一次世界大戦における敗戦、その後の世界大恐慌などによって国民生活が疲弊していた時に、経済政策や労働政策が功を奏し、国民生活が豊かになったという結果を出したことが快進撃の一因であることを考えると、やはり国民というのは、自分の生活に直結する部分に反応するのだなあ、と思います。

 

また、ゲッベルス等による宣伝効果についても描かれていましたが、確かに、大衆はワン・イシューに弱いし、操作されやすいのだろうな、と思います。

この作品で選挙に関するあれこれが描かれていたので、現実にあった10月の選挙を思い出しながら観ていて、当日はみんなそれぞれに自由意志で投票行動を行ったと思いますが、

 

与党に投票した人も、野党に投票した人も、何となく投票した人も、熟考して投票した人も、選挙自体行かなかった人も、それぞれ何らかのプロパガンダの影響を受けている可能性があり、ひとしく大衆としての愚かさを内包している、ということを肝に銘じておきたいな、と、そんな考えが浮かんだりもしました。

 

『あの記憶の記録』で、平気で赤ん坊を殺していたナチス親衛隊の将校のビルクナーが、この作品では、はじめは純朴な青年で、ヒトラーの演説に感銘を受けてナチス党に入党し、ヒトラーの世話係になっていたこと。やがて親衛隊に入ることを誘われて、いつしか残虐な行為をするようになっていったことに、胸が詰まる思いがしました。

ただ、イツハクの兄が言っていたことが本当ならば、ビルクナーは、人間としての最後の良心を失わずにいたのでしょうか。

 

カーテンコールでは、熱狂の渦の中の物語の続きとしての高揚感も感じてしまう自分がいて、そのことがまたいろいろな自問をさせるところに、この作品のユニークさがあると思いました。

やや、ドキュメンタリードラマ、という感じで説明的すぎるかな、という部分もありましたが、ヒトラー役の西尾友樹さんの演説シーンは強く印象に残っているし、他の俳優さんたちの熱い演技もよかったと思います。