下北沢ザ・スズナリで上演された、櫻井智也作・演出・MCR『墓堀り人と無駄骨』を観てきました。

MCRは必ず観に行く劇団のひとつになっていて、今回も、笑いと毒を楽しみながら、最後はやっぱり泣けちゃいました。

MCRの作品って、イタイ人が出てきたり、それ、ヤバいでしょ・・という設定だったり、不謹慎な展開だったりするのに、それらが最後には浄化されて、カタルシスに導かれる。まるで、濾過器みたい。

一体、どういうメカニズムになっているのでしょうか?

 
あと、「恋」の“きらめき”とか“ときめき”とかもついてくる。
だいだいいつも、芝居で泣いて、脚本を読んでまた泣き、台詞に思わずアンダーラインを引いたりしてるんですが(笑)
今回の、アンダーラインはここ。
 
「恋こそ乾いた人生を潤す目薬みたいなもんだから」
「自分の中に自分しかいない毎日なんて虚しいじゃん、好きな人を心の真ん中に置くだけで今日という時間が弾むし、明日という暗闇に光が差すじゃない」
 
 
今回は、痛みを感じることができない無痛症ゆえに人を殺せる殺し屋と、自分をふった男への恨みつらみで道を踏み外している女が出会って・・というお話で、中盤の展開は少し心が重くなったけれど、ラストシーンにすべてもっていかれて、とにもかくにも生きていることへの祝祭を感じさせてくれました。
 
以下、ネタバレありの感想です。
 
 
 
 
 
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2017年11月12日(日)15時
下北沢ザ・スズナリ
作・演出 櫻井智也
出演 川島潤哉 佐藤有里子 堀靖明 志賀聖子 伊達香苗 澤唯 加藤美佐江 本井博之 篠本美帆 櫻井智也 北島広貴 おがわじゅんや 後藤飛鳥
 
 
 
 
 
とある治安の悪い公園のベンチで、佐藤(佐藤有里子)が携帯電話をかけていますが、その内容は別れた彼氏に対する未練と脅しを何回も留守番電話に吹き込んでいる様子で、完全なるストーカー。
そこに、背中に庖丁が突き刺さったままの川島が通りかかり、二人は出会います。
川島は、この公園に住んでいるホームレスで、痛みを感じることができない体質の殺し屋ですが、佐藤を見て一目惚れし、そしてなぜか自分が殺し屋であることを打ち明けてしまいます。
 
川島が住む公園には、他にホームレスの本井(本井博之)や、闇医者の澤(澤唯)、川島と同じ施設出身で川島に憧れている、みなしごの加藤(加藤美佐江)という少年が出入りしていますが、佐藤と会ってからの川島の様子に今までと違うものを感じています。
 
元カレの櫻井(櫻井智也)の新しい彼女の篠本(篠本美帆)からひどいことを言われたり、会社の上司の北島(北島広貴)や小川(おがわじゅんや)の所にも直接苦情を言いにいかれたりした佐藤は、川島に、殺しを依頼しに来ます。
 
はじめは渋る川島ですが、新しい彼氏と偽って二人で櫻井と篠本に会いに行き、そこでの、佐藤に対する櫻井と篠本の態度にキレた川島は・・・
 
一方、5年前に両親を殺されて、犯人が見つかっていない靖明(堀靖明)は、友達の志賀(志賀聖子)に誘われて、志賀の友人である霊媒師の伊達(伊達香苗)に犯人捜しを依頼しに来ます。
靖明は、本当は志賀のことが好きで付き合いたいと思っているのにしょっちゅう金を借りたりと、ダラダラとした生活をしていて、それも、両親が殺されたせいであると責任転嫁をしたり、殺された両親を恨んだりもしています。
 
伊達は、それは自分の問題だろうと指摘しつつも、両親の残した靖明への愛情と無念の残留思念を感じ、依頼を引き受けます。
 
靖明は、小学校までの記憶がないと言い、両親が殺された理由もわからないと言うのですが、伊達が何かを感じてやってきたのは、川島と佐藤が出会った公園。
伊達が、「耳を塞ぎたくなるようなこともあるけど、それでも聞きたい?」と靖明に問い、靖明が「ああ」と答えると、
 
ここから、川島と佐藤の恋物語と、靖明の犯人捜しの物語がクロスし、ある真相にたどり着いていきました。舞台上で、その過程を見る靖明。
 
佐藤の元カレと今の彼女を殺した後、もう佐藤と会うこともないと思い腑抜けたようになっていた川島と、実は川島に惹かれていた佐藤の仲をとりもったのが、少年の加藤で、その少年こそが、小さい頃の靖明でした。
 
ところが、加藤は、ホームレスの本井に暴行されてしまいます。そのショックから、心が壊れてしまった加藤。言葉も話せないし、笑うこともできない。記憶も喪失してしまいます。
佐藤と川島は、結婚して、この加藤を自分たちの子どもとして育てることにします。殺し屋をやめて、組織を抜けることになった川島は、ボスの後藤(後藤飛鳥)に3人の新しい戸籍を用意してもらう代わりに、自分の両目の眼球を差し出します。
その後、佐藤と川島は一生懸命靖明を愛し、やがて靖明も、笑顔を取り戻していきました。
が、ある日、二人は、突然、通り魔に殺されてしまったのでした。
 
すべてを知り、
「・・・だから目が見えなかったのかよ」
「・・・だから小さい時の写真がないのかよ」
と叫ぶ靖明。
 
伊達は、両親はたくさんの理不尽をまき散らしてきたんだから、文句は言えないよね、でも一番の理不尽は、ここまで育てたご両親への感謝のなさだね、と言いますが、
「感謝しているよね?だって、靖明、ご両親のこと大好きだったもんね!」という志賀。
 
舞台上部を見上げると、そこには幸せそうな川島と佐藤と、小さい頃の靖明がいます。
そして、自分を見ている靖明に気づくと、立ち上がり、幼い靖明の手をつなぎ、下にいる靖明を優しい微笑みで見つめます。
舞台下部では、志賀が靖明の手をつなぎ、一緒に見上げると、登場人物達が集まってきて、二人の周りでSEKAINO OWARIの「Hey Ho」に合わせて踊るのでした。
 
倫理的にはNGだらけだし、川島と佐藤のとった行動も贖罪にはなり得ないし、登場人物達もどうしようもない人たちがほとんどなのに、この、最後のシーンで、「愛情」というストレートな矢に貫かれてしまう。
 
櫻井さんは、よく、自分の書く台詞を罵詈雑言と言っていますが、でも、それらは、正論なんですよね。
むしろ、これ以上ないくらいに心理の的を射ているというか、篠本の台詞にもありましたが、「正解だしてくる」っていう感じで、反論の余地がない。
あまりにもポイントをついているので、むしろ清々しくて、もしかして、この心理的に正解の台詞の積み重ねが、濾過装置となって、浄化作用を引き起こしているのではないかしら。
で、観終わった後、カタルシスをもたらすという・・。うん、MCR濾過器説の仮説になりうるな。(自己満足)
 
佐藤を演じた佐藤有里子さん、劇中では川島だけがその魅力に気づいているという設定でしたが、今回、登場した時から、綺麗だなー、と思いました。相変わらず台詞回しが面白いし、あと、凜と通る声が素敵。
殺し屋川島潤哉さん、恋をしてふにゃ~となるところが可愛かった。
櫻井の今の彼女の篠本美帆さん、すごく嫌な女をあんなにほんわか演じられとは。
 
すっぴんでデリヘルやりながら難事件を解決してきたパチンコ狂いの霊媒師(どんな人物設定だ)の伊達香苗さん、今回も迫力ありました。でも、違う役どころも観てみたい。
小さくて、小動物のように可愛いのに殺し屋のボス、という後藤飛鳥さんも面白かったし、
新しい劇団員の志賀聖子さんも可愛かった。
 
他の方達も、癖のある人物を面白おかしく演じてくれました。
SEKAINO OWARIの曲に合わせて踊るシーンもとても良かったです。
 
次回公演は、来年の5月にスズナリとのこと、また楽しみに待ちたいと思います!