シアターKASSAIで上演中の、しむじゃっくPresentsアガリスクエンターテイメントの『わが家の最終的解決』を観てきました。


時は1943年。ナチスドイツ占領下のオランダ、アムステルダムを舞台に、ゲシュタポの青年が、自分の正体を隠しながら、ユダヤ人の恋人を匿っていることで巻き起こる、ホロコーストを背景にしたシチュエーションコメディ。

タイトルにある「最終的解決」とは、ナチスドイツが「ユダヤ人問題の最終的解決」として、ユダヤ人の虐殺をさして使った言葉だそうです。


もう、タイトルからして、恐ろしいものを内包していて、そもそも、ホロコーストをコメディになんてできるの?っていうか、そんなことしていいの?と思いつつも観に行きましたが、

結果、それはまぎれもなくコメディで、しかも『ナイゲン』がエレガントに感じられるほどの、抱腹絶倒のドタバタコメディ。劇場は爆笑の渦でした。


とはいえ、まぎれもない史実がベースになっているので、笑いの中にも心が凍りつく瞬間や、悲しみがある。愛も描かれているけど、安い感動が用意されているわけではなく、絶望と希望が織りなす、まさに、

「ブラックで温かく、残酷で笑えるホームコメディ」でした。


なんとアンビバレントな・・・つまりどういう感じなの?って、これはもう、観てみないとわからない!!ので、興味を覚えた方は、ぜひ、ご自分の目で目撃してください。5月15日(日)まで、池袋のシアターKASSAIで上演中です。


以下、ネタバレを含む感想ですので、未見の方は、自己判断のもと、お読みください!




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2016年5月7日(土)ソワレ

シアターKASSAI

脚本・演出 冨坂友

出演 淺越岳人 鹿島ゆきこ 熊谷有芳 甲田守 塩原俊之 沈ゆうこ 津和野諒 伊藤圭太 榎並夕起 前田綾香 矢吹ジャンプ 山岡三四郎 山田健太郎 藤田慶輔 斉藤コータ



ナチスドイツのゲシュタポ所属の青年、ハンス(甲田守)は、赴任先のオランダでエヴァ(熊谷有芳)と知り合い、恋人同士になります。でもエヴァがユダヤ人とわかってからは、エヴァには自分がゲシュタポだということは言い出せないまま、自宅に匿っています。


そして、幼い頃からの使用人のアルフレッド(矢吹ジャンプ)をドイツから呼び寄せ、事情を話し、協力してもらうことになりますが、隠れ家を追われたエヴァの父親のオットー(藤田慶輔)、母親のレア(前田綾香)、元彼氏のヨーゼフ(津和野諒)が、レジスタンスの男(淺越岳人)の手引きでハンスの家にやってきたため、彼らも一緒に匿わなければならなくなってしまいます。


そんな中、

ハンスの姉のマルガレーテ(鹿島ゆきこ)と、その夫のフリッツ(伊藤圭太)や、ゲシュタポの同僚で友人のルドルフ(塩原俊之)とカール(斉藤コータ)、ハンスの上司の娘でハンスに恋をしているリーゼ(榎並夕起)が急に訪ねてきたりして、そのたびにあわてふためくハンスとアルフレッド。

隣に住んでいる、ヘルマン(山田健太郎)と、その妻サンドラ(沈ゆうこ)も、たびたび騒音の苦情を言いにきたりして、


ハンスが必死で嘘をついたりごまかしたりしているうちに、勘違いのもとに大騒動が起こってしまいます。ユダヤ人とゲシュタポの、双方の正体を知らずになされるやりとりは、シチュエーションコメディの真骨頂。


が、やがて、ハンスの上司でリーゼの父親のゲルトナー(山岡三四郎)も来たことから、事態は深刻な展開になってしまいます。

ハンス自身の命もかかる状況で、はたしてエヴァ達を助けることができるのか?

ハンスとエヴァの恋の行方は?


炸裂する屁理屈、

アガリスクエンターテイメントらしい、エピローグ。


ハンスが、ゲシュタポに所属しながら、本当は何を思っているのか、エヴァをどうやって助けようと思っているのか、そのハンスの言動には、胸が詰まりました。

次々と巻き起こる展開に大笑いをしながらも、この物語から、人の温かさを思ったり、今の世界や日本のことに思いをはせたりすることもできるかもしれませんね。


架空の国や世界のお話し、にすれば、入りやすい観客もいるかもしれないけど、アガリスクエンターテイメントとしては、今までも、あえて、笑えない設定で、どこまで笑いを生み出せるのか、という挑戦をしてきたとのこと。

そして今回は、「悲劇を悲劇で終わらせるのは簡単だけれど、その限界点を突破して、喜劇に転じることができるか。」という挑戦だったようです。


その意味では、あの悲劇に真っ向からコメディで挑んで、「嘲笑」ではなく、「笑い」を創造した、という点で、成功したと言っていいのでは?

「不謹慎」と思われることもあり得る、かなり無謀な、というか、難易度の高い挑戦だと思いますが、観客にホロコーストという設定を示し、観客自身も身構えざるを得ない状況に追い詰められるからこそ、そこでわき起こる笑いの感度が高くなった気がします。


特に、大笑いをしてしまう場面は、コメディとしては、すごくベタというか、オーソドックスな手法のようで、人って、嘘や勘違いで起こるすれ違いとか、隠れていて見つかりそう!とかには、深刻な設定でも、笑っちゃうんだなあ、と思いました。もちろん、それには、脚本や演技の技術やセンスが不可欠なのでしょうけれど。

でも、「笑える」っていうのは、人間の強みでもありますよね。


舞台は狭いのに、セットはよくできていたと思うし、隠し部屋のからくりは、どうなっているのか不思議。

できれば、もう少し大きい劇場で舞台を大きく使ってやるところも観てみたい。

映像と音楽もよかったです。


劇団員の方達は、それぞれ、キャラクターが活かされていて、特に、ゲシュタポに所属しながら、ユダヤ人の恋人を助けようと思う、という役柄は、作為を感じさせてはダメだと思うので、難しいと思うんですが、ハンスを演じた甲田さんの、無垢な優しさは、ぴったりだと思いました。


客演の方々の演技は、個性と安定感があり、この作品の大きな支えになっていると思いました。はじめて観る方達の演技を観れたのも、新鮮でよかったです。

一部、演出が不鮮明に感じられたところもありますが、脚本は、相変わらずよく練られていて、伏線の回収も見事だと思います。


アガリスクエンターテイメントファンの私は、今回、リピートすることにしていて、初日のあと、2回目を見たところでこの感想を書いているんですが、初日に比べて、2回目は明らかに作品の完成度が上がっていました。

が、リピートするファンばかりではなく、多くの観客は一期一会になると思うので、今後は、さらに、安定した作品作りを目指してほしいな、と思います。


それにしても、あくまでも、人を笑わせたい!という情熱、というか、執念(?)はすごいと思うし、ホロコーストまで、コメディとして成立させちゃうなんて、

「アガリスク、恐ろしい子!(白目)」と思うのでありました。