新国立劇場小劇場で上演中の、M&Oplaysプロデュース・岩松了作・演出『危険なワルツ』を観てきました。

 

岩松了さんの作品は、難解だと感じるものも多くて、最近は敬遠気味だったんですが、公式サイトのプロットを読むと、老いたボニーとクライドに若い男が加わって悪事を働く話のようで、わかりやすそうだし面白そう、と思ってチケットを取りました。

 

実際の舞台では、プロット通りではなかったんですが、わかりやすくはあり、松雪泰子さんの色香と、坂東龍太さんの危うい魅力がとても印象的で、閉塞感にとらわれた登場人物たちが破綻していくプロセスを楽しんで観ている自分がいました。

 

以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!

 

 

 

 

 

 

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2026年3月8日(日)13時

新国立劇場小劇場

作・演出 岩松了

出演 松雪泰子 坂東龍太 谷川昭一郎 中村加弥乃 但馬智 岩松了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつてアウトローな生き方をしていた男と女も、今やスーパーを経営しているカタギの夫婦。

もうひとり一緒に悪事を働いていた溝口(谷川昭一郎)という男に、店長として店を任せている。

 

妻(松雪泰子)の方は、今なお女としての色香はあせず周りからも「いい女」と認められている。

一方の夫(岩松了)はもう男というには年を取りすぎている。

子どもが巣立った後の二人の間にあるのは倦怠感ばかり。

 

そんな夫婦のもとに、若い男(坂東龍太)が電気工事にやってきて、妻と若い男は互いに距離を縮めていき…

 

お互いが欲望のもとに誘惑しあい、コントロールしようとする様はなかなかにスリリングで、妻の態度にもかつて悪事を働いていたであろう片鱗が感じられ、

一方の若い男の方も、あどけなさに隠れた粗野な一面が見え隠れしていました。

 

若い男は、勤め先の電気工事会社社長の娘(但馬智)と暮らしていたんですが、破局した後、住んでいた部屋を追い出されてしまい、行き場がない。

 

そんな若い男に、夫はこの家で一緒に住むようにすすめ、若い男は溝口が店長を務めるスーパーで働くことになり、3人での暮らしが始まります。

 

これ、夫は妻と若い男の間に何が起きているかわかっていて、あえて提案したんだと思いました。

夫もまた倒錯した刺激を求めていたようで…

 

溝口は借金を抱えていて(この辺の事情は記憶があいまいですが)、それを解消するために、夫が溝口の娘(中村加弥乃)を知人に愛人として紹介しようとしていて、溝口もそれを断り切れないし、妻の方もそれを止めようもしない。

 

この辺は、やはりこの人たちは社会的に逸脱していることを感じさせましたし、そもそも夫婦と溝口との間にも三角関係のようなものもあったようで、この3人の付き合いもいびつなものをはらんでいるよう。

 

溝口は自分の不甲斐なさのはけ口なのか、スーパーに勤め始めた若い男に対してパワハラな言動を繰り返し、一触即発な場面も何回かあり、若い男もこの生活に徐々に疲れがたまっていった様子。

 

私は気がつかなかったんですが、夫婦の住む家はもとは駅舎で、夫婦はここを改装して喫茶店にするつもりだったと。(だから時々電車の音が聞こえたんですね)

でも、自衛隊の駐屯地が近くにあり、そこへの予算が優遇されて、自分たちの生活が圧迫されている。

自分たちの所業以外にも、そういった社会的状況の影響が、より閉塞感を高めていることの示唆がある気がしました。

 

若い男を追い出した社長の娘も、未だに若い男に執着しているし、

溝口の娘は自分が愛人になることの覚悟もあるけれど父親に対する恨みもある。

溝口のパワハラはますます酷くなり、

妻も若い男も追い詰められていく中、夫の不在時に駆け落ちをしようと画策します。

 

が、決行しようとしたその時、溝口が訪ねてきたことから悲劇が生まれ…

 

その後どうなったのかは観客の想像にゆだねられたところは、岩松了さんだなあ、と思いますが、最後のシーンが、妻と若い男が惹かれあった最初の頃のリフレインだったことが、珍しい気がしました。

 

妻の服装が、ルーズな普段着なんですが、足元に赤いハイヒールを履いているのが目に鮮やかながらアンバランスで、まだ自分が女であることにこだわっていることを暗示しているよう。

 

妻を演じた松雪泰子さんは、とても色っぽかったんですが、何というか「男の目線で見た色っぽさ」を演じていた感じがして、それは岩松さんのリクエストだったのかしら?

若干ステレオタイプだったかなあ、とは思いました。

 

が、

日常生活や夫婦関係の閉塞感から逃れようとして若い男に溺れていく様は、「あの彼ならわかる」と思いつつも、痛くて哀しい。

段々と若い男が妻を疎ましく思っていくのを見るにつれ、もしくはそうなるであろうと予想がついていくと、妻に対して痛々しく思う気持ちがより大きくなりながら観ていました。

と、そんな風に思わせる演技がとてもリアルでした。

 

岩松了さん演じる夫は、今は普通のおじさんという感じながら、昔も今もワルだな、と思わせる感じがよく出ていたと思います。

 

溝口を演じた谷川昭一郎さんも、その混乱ぶりがよくわかる演技でした。

 

溝口の娘を演じた中村加弥乃さんは、可愛らしさが印象的でした。あえて愛人になりにいくその心情を、私的には今ひとつつかめなったかも。

 

社長の娘を演じた但馬智さん、一見冷静に見えて、その執着心を表す演技が怖かった。

 

そして、この物語を成立させるためには、坂東龍太さん演じる若い男に魅力がないとだめだと思うんですが、優しい態度の下には一瞬で激昂する暴力性や冷たさがあり、そこにある種の魅力があって女性が惹きつけられることの説得力と、彼もまた、アウトローな夫婦や溝口と同じ面をもつことがよくわかる演技で、とてもよかったと思います。

 

この作品もまた、岩松さんらしい「死」や「破滅」の匂いのする作品でしたが、想像していたプロットとは違っていたとは思いつつも、6人の人間関係が破滅へと進んでいくワルツを、わりとカジュアルに楽しんだひとときでした。